夢と夢の間




「サスケ、夕食できたぞ」

イタチの控えめな呼びかけに、サスケは「ああ」と短く答えた。

二人揃う日は食事の準備は交代でする。

どちらかがいなければいる方がして、一人で食べる。

男所帯で最初は苦労もしたけど、二人とも器用なせいもあってすぐに慣れた。

「まだやってるのか」

サスケの頭の上からイタチが覗き込む。

サスケは歪んだクナイを元通りにしようと奮闘していた。

「諦めて忍具屋に持って行った方がいいんじゃないか?」

「金がかかるだろ。直すより新しいのを押し付けられるのがオチだ」

頑固なのは父譲りか、イタチが少し笑う。

「なに笑ってんだよ」

「いや、なにも。冷めない内に食べよう」

食卓に向かうと、今並べられたばかりの料理がサスケを迎えた。

「鯖の味噌煮か、母さんがよく作ってくれたな」

サスケもこういう時だけは年相応の少年らしい表情を見せた。

手を合わせて、静かな夕餉が始まる。

「うまい」

「そうか」

弟の言葉に、兄は穏やかに答える。

いつも通りの晩。

いつもと違う点に、サスケは気付いていた。

「どうした? 具合悪いのか?」

料理に箸をつけず、ぼんやり頬杖をついていたイタチはサスケの言葉にはっと顔を上げる。

「いや、どこも悪くない」

慌てたように箸を取って鯖の身を切り分ける。

その手つきもどこか遅い。

「後片付けはオレがするから、食べ終わったらすぐ寝ろよ」

「……ああ、悪いな…」

イタチは俯いたまま答えた。





 食器を洗って片付け、風呂を済ませて出ると、寝室の灯りは落とされていた。

イタチの眠る隣に自分の布団を敷こうと、サスケはそうっと押入れを開ける。

「敷かなくていい」

「……悪い、起こしたか」

小さな声に、サスケは振り返った。

イタチは何も答えず、掛け布団を半分捲って一人分の空間を作る。

サスケはぽかんとそれを見た。

普段、事後であっても同じ布団で寝たがらないのに。

「そっちで寝ていいのか?」

「ああ」

サスケはにわかに浮き立つ心を抑えながらイタチの隣に横たわる。

同衾を許可されたことに、多分深い意味はない。

相手は体調が悪い、性的な意味でなく「なんとなく一人で寝るのが心細いから」程度の理由だろう。

「……おやすみ、兄さん…」

「おやすみ…」

小さく言い合う。

布団が暖かく、イタチの体温が密接に伝わってくる。

サスケはどうしても落ち着かず、下半身に熱が集中するのを必死で誤魔化そうとした。

トイレ行って抜いてくるか、と体を起こそうとする。やめる。

「……起きてるか?」

「……ああ……」

短く答えるイタチの声が艶を帯びているように感じた。

サスケはゆっくり、イタチの体に両腕を巻き付けた。

「……………」

ためらう気配はあっても拒絶はされない、それを確認するとサスケは手をイタチの下腹部に滑らせた。

「…っ…」

息がかすかに漏れる。

イタチのそこももう硬度を増していた。

「なんで? 体調悪いんじゃないのか…?」

そう言いながら、返事を待たずにサスケの手はイタチの寝衣の中に侵入する。

腹から下着の中へ手を入れて、じかに撫でる。

あっという間に隆起した。

「マジかよ…」

サスケの喉がごくんと鳴る。イタチの声のない声が吐き出される。

少し擦っただけでイタチのそこは完全に膨張して勃った。

「兄さん、こっち向いて…」

そこから手を離して、サスケは兄を促す。

寝返ってサスケと向かい合うと、イタチは真っ赤な頬と眼を見せた。

可愛い、男に言う言葉でないのは分かる、でも可愛いとしか形容できない。

「なんでそんな顔してんだよ…」

サスケはイタチの唇に吸い付きながら寝衣の袷を割る。

頬や首筋を舐めたり吸ったりしながら、感触を楽しむようにさらけ出した肌を撫でた。

イタチもサスケの背中や後ろ頭を掻きむしるように撫でさする。

どちらからともなく、勃起しきった肉茎を擦り合い始める。

口づけ合って、舌を絡めて舐め合いながら。

自分でするのとは比べ物にならないほど、いやらしい刺激に互いに夢中になる。

これ以上したら早々と射出してしまう、というタイミングでサスケはイタチの手に触れて手淫を中断させた。

前戯から挿入に移行する頃合いだろうと、イタチは眼を閉じる。

何度交合しても肌を合わせても、挿入の瞬間だけは容易なものではない。

心の準備をするように、イタチは眼を閉じたまま大きく深呼吸した。

サスケは腰をイタチの腰に寄せて、互いの肉茎を密着させて握る。

何をされているのかと、イタチは少し驚いて眼を開けて、下半身に視線を落とした。

「…入れないのか?」

「具合悪いんだろ」

硬く屹立した性器を密着させたまま擦り上げる。

「っ……」

イタチの声がかすれるのを見て、サスケは余計に煽られる。

極限まで張り詰めて性感が高まったそこは、摩擦の度に激しい快感を生む。

「…っ、んっ……」

呼吸を乱して快感に耐えるイタチの表情に、サスケはじれるように手を早める。

噛むように強く口づけ合いながら、イタチは手をサスケの手に重ねた。

「やべ…出そう……」

さっき我慢して、もう寸止めにも限界が来ていた。

本音を言えば、入れたくて仕方がない。

少し体を起して、くすぶったままのイタチの肉茎に触れる。

雁首をゆっくり刺激しながら見つめ合った。

「……入れて欲しい?」

自制心が効かないほど判断力を欠いて、答えは相手に委ねるしかない。

手の動きを強めて、一番いい部分を集中攻撃する。

拒絶させないために。

あまりの快感に、イタチは表情を歪める。

「……入れて欲しい……」

眼を閉じて答える、語尾はかすれていた。

答えを聞くが早いか、サスケはイタチの片脚を持ち上げる。

唾液で濡らした指を、さらに溢れた腺液を塗りつけるように後孔に這わせる。

軽く慣らして、サスケは我慢できずに先端を入口に押し付けた。

ぬるぬると、強い抵抗を感じながら捻じ込む。

奥まで挿し込むと、互いに深い息をついた。

すぐには摩擦させず、サスケはイタチの表情を窺うように少し上体を起こす。

痛がるどころか、イタチは抽送を促すように熱っぽくサスケを見上げた。

その表情に、イタチの体を労わるサスケの理性が断ち切られる。

なじませるように数回突くと、サスケは待ち切れなかったように腰を動かした。

「ん、あっ…」

一体何が違うのか、体調が芳しくないのではなかったのか。

じゅうぶんな前戯ができないまま正常位ですると痛がられることが多いのに。

サスケの揺動に合わせるように、イタチも腰を揺らめかせた。

いつもより乱れた顔、声。

「その顔、エロすぎるな…」

サスケは淫薇に歪んだ顔を見下ろす。

こらえきれず、抽送を早める。

思い切り突き上げると、イタチは普段にはないほど喘いだ。

奥までうずめ切って、サスケの腰が硬直する。

かすかな呻きとともに、性器から熱の塊が弾き出された。

「…すげー、きもちい……」

硬い肉茎が気持ちよさそうに脈動する。

射精の快感に浸る余裕もなく、サスケはまだ硬直したままの根元を指で支える。

「んっ」

角度をつけて中を前後させると、イタチの声が上ずった。

前立腺の可愛がり方というものは最近覚えた。

イタチのそこは急激に射精感を覚え、びくんと腰を弾ませる。

「あ、あ……」

極限まで硬くなった肉茎が、脈動に合わせて射出する。

後孔にサスケのものを咥え込んだまま、びくんびくんと何度も痙攣した。

「…すげー出たな……」

腹に放出された生ぬるい精液を指で掬うと、サスケはそれをきれいに拭いてやる。

イタチはぐったり敷布にしなだれかかって、肩で呼吸を繰り返した。

「あぁっ…」

根元を掴んで引き抜くと、イタチのそこは名残惜しそうに収縮する。

「具合悪いんじゃなかったのか?」

サスケは敷布に手をついて、大事そうにイタチの顔にかかる髪を梳く。

「…と思ってたんだけどな……」

イタチはサスケの手を掴んで、自分の頬に押し当てた。

「駄目な兄だな……」

サスケから眼を逸らすように、イタチは枕に頬を押しつける。

「何がだよ」

「本当だったら、オレが我慢しなきゃならない側なのに……」

イタチの声が尻すぼみに途切れる。

自ら進んでサスケを歪んだ方へ引きずり込んでどうする、とイタチは悔いた。

「なんだそんなことかよ」

サスケはしれっと言ってのける。

「今更そんなこと気にするな、オレはとっくに覚悟できてるぜ」

サスケの口から出た覚悟と言う言葉に、イタチはドキリと心臓を弾ませる。

「兄さんはできてないのか?」

覚悟とはそういうことだろう、今まで何度も逡巡し苦しみ悩んできた。

「…オレだってできてる」

「じゃあいいじゃねーか、そんなことより初めて兄さんからその気になってくれたことの方が嬉しいけどな」

けろりと言い切ってはいるが、ここまで言えるようになるまでにサスケも苦しんできたのだろう。

幼いと思ってきたのに、弟がいつの間にか成長していたことを痛感する。

「なにも我慢することなんてねーよ」

そう言いながらサスケはうとうとと目を閉じる。

終わると眠くなる、いつものサスケだ。

「今度こそおやすみ」

イタチは返事もなく寝息をたて始めるサスケの肩に掛け布団をかけた。











宇多田さんの「This is love?」という曲の
『痛めつけなくてもこの身はいつか滅びるものだから甘えてなんぼ』
という部分を聞くといつもイタチ兄を思い出す。
サスケのためにわざわざ身を切りつけてたような人生だったので…
サスケに甘えてね! ということが言いたかったと思うです。



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