宿(後編)




「兄さん…」

部屋へ戻ると、サスケは待ち切れなかったという表情でイタチの背後に歩み寄る。

イタチの肩に触れて上半身を捻るように自分に向かせる。

頭上から湯気が立ち昇っているように見えたのは湯上りのためだけではない。

「似合うな…やっぱり着てもらって正解だった」

イタチは興奮したサスケの表情から目を逸らした。

イタチが不機嫌なのにも構わず、サスケは外套を剥ぎ取って放り投げる。

ゴクリと喉を鳴らして、イタチの体ごと布団に倒れ込んだ。

繊細なつくりの下着から覗く白い肌はどう見ても女のもので、イタチはそれを直視できない。

自分の体だと思いたくなくて。

隠すように両腕で自分の身を抱え込むと、サスケは細い両腕を掴んだ。

「よく見せてくれ、きれいだから」

サスケがあつらえさせた紬に忍ばせた香はイタチによく合っていて、残り香となって漂った。

甘い香りを楽しむようにやわらかな胸元に唇を這わせる。

「サスケ…」

兄の小さな呼びかけに気付いているのかいないのか、サスケは夢中で滑らかな感触に溺れる。

「やっぱりオレじゃ駄目だ。お前にはきれいな女の子の方がいい」

小さくてもはっきりした声に、サスケはぴたりと動きを止めた。

「なに言ってんだよ」

「こんなことして喜んでるくらいなら彼女でも作ってくれ、お前だって女の方がいいだろう」

切羽詰まったイタチの表情に、サスケは我に返る。

言われてみればここまで全部イタチの意見は聞かず、自分の言いなりにさせて来た。

兄は自分に甘い、強く抵抗しない。

分かってはいたけど欲求にずるずる引きずられて、結果イタチに「本当はこんな格好したくなかった」と言わせてしまっている。

「……ごめん」

あまりにも素直に言う。

イタチのこととなると冷静になれないながら、サスケはいつも純粋だ。

こう素直に謝られてはそれ以上言えず、イタチは黙ってしまった。

「でも相手が誰でもいい訳じゃない、兄さんでなきゃ駄目だ」

今度ははっきりと言う。

「兄さんだから着て見せて欲しかっただけで…でも悪かった、本当に……兄さんが嫌がるならもう無理強いしない」

イタチの両肩を掴んでたどたどしく続ける。

「……とにかく兄さんでなきゃ意味ないんだ、だから頼む……そんなこと言わないでくれ…」

どれもこれも強気で押し切ってきたくせに、突然弟の顔に戻って言う。

卑怯な手だ、ますます何も言えなくなる。

「……分かった」

根負けしてイタチが溜息をつくと、サスケは心底嬉しそうに笑った。

全くどこまでもずるい弟だ。

「…サスケっ」

「ごめん、今謝ったばっかだけど……もう我慢、」

できないと言いかけながらイタチの唇に吸い付く。

か細い手首を掴んで自分の猛った下腹部に這わせると、下着の裾を軽く捲り上げた。

イタチの肌理細やかな肌は白い絹の生地にも劣らない。

少しずつ脱がせながら柔肌をさらけ出していくことに、サスケはこの上ない興奮を覚えた。

「きれいだ……」

サスケは浴衣の下には何も着ておらず、肌蹴た袷から滾る茎が露わになっている。

今からそれで貫かれるかと思うと、イタチの脳裏に祭の夜の記憶が浮かぶ。

やわらかな部分に硬いものが進入する、烈しく擦られるあの感触。

仕方ない、こんな馬鹿げたことを必死に膳立てした褒美だ。

イタチもサスケの情欲に応えるようにそれに華奢な指を添えた。

果実という形容が合う、白いふたつのふくらみをサスケが撫で上げる。

頂上の突起は赤みを帯びて、弾くようにする度イタチの肩が跳ねた。

丸裸に脱がすのではなく、絹の生地から覗かせたイタチの肌はどうしようもなく情欲を煽る。

両腿を撫でながら脚を軽く開かせて、腿の付け根から指を忍び込ませるともう濡れていた。

その感触にサスケは思わずほっとする。

腹の底から嫌がられている訳ではない。

くちゅくちゅと水音をたてられて、イタチはその羞恥に余計に体の芯が痺れた。

肩を震わせて身を捩る。

「サスケ、早く……」

甘い声で挿入をねだられて、サスケはゆっくり薄い下着をイタチの体から引き剥がした。

溢れた蜜が糸を引く、あまりに淫靡な眺めにサスケはもう一度喉を鳴らす。

イタチは眼を伏せて顔を背けた。

「すげ…もうびしょびしょ…」

早く突っ込んでしまいたい衝動を必死で抑えて、サスケは濡れた部分を指で撫で回す。

「ん、んっ……」

声を上げるのが恥ずかしいのか、イタチは鼻にかかった息を漏らす。

「我慢するなよ…聞かせてくれ」

「ああぁっ」

潤んだ萌芽を摘まれて、イタチは嬌声を解放してしまった。

自分の下でいいようにされる美しい人を、サスケは満足げに見下ろす。

蜜に導かれるまま指を滑らせると、簡単にするりと飲み込まれた。

上下させながら、少しずつ指の動きを速めていく。

「あ…あぁっ……」

サスケの指がどこをどう触れても気持ち良くてたまらない。

されるがままになって、イタチはサスケの腕を抑えて喘ぐ。

愛撫に溺れる虚ろな表情。

快感の波に飲み込まれる乱れた顔をサスケはたっぷり堪能した。

「ああっ…」

勢いよく中で上下させながらぷっくり膨らんで充血した芽を擦り上げると、イタチはあっけなく到達してしまった。

息も絶え絶えにびくんと全身を大きく痙攣させる。

サスケの指を飲み込んだまま、ぎゅうっと強く収縮した。

強い快感に歪んだ兄の表情を楽しんでから、サスケはゆっくりとイタチから指を引き抜く。

さっきより粘度の低い愛液が糸を引くのを「見ろよ」と兄の眼の前に突き出す。

イタチが眼を逸らすのは承知で、それを舐め取ってからイタチの細い腰を引き寄せた。

イタチの体は痙攣が治まっただけでまだ緩い坂を下りきっていない。

そこに這わせて滑らせただけで、ぴくりと腰を跳ねた。

「あ…あ、あっ……」

「兄さん、本当かわいいな…」

お遊びに素股でもしてじらしてやりたかったけど、当のサスケが我慢の限界。

ぐったり力の入らないイタチの片脚を持ち上げて、ぬるぬると捻じ込んだ。

「んっ、あぁっ……」

ゆっくり奥まで繋がると、あまりの具合の良さにサスケは溜息をついた。

少しでも動かしたら達してしまいそうに気持ちいい。

「すぐ終わるから…ごめん」

ゆるゆると腰を動かされると、すぐにイタチの表情が歪む。

どうして謝るのか、自分に苦痛を強いていると思っているのか。

こんなに気持ちいいのに。

指の愛撫でもあんなによかった、それでもサスケが入ってくると全然違う。

「あっ、あ、ああぁっ」

突き上げられる度に声が漏れる。

複雑ではあっても体は正直で、サスケにしかもたらされない快感がある。

自分でなければ駄目だとサスケは言ってくれた、それはイタチも同じ。

相手がサスケでなければ、こんなに感じない。

「…気持ちいい…? 兄さん……」

イタチの頬に触れて、サスケの声がかすれる。

「はぁっ…あ…」

思い切り抽送されて、サスケの鰓が一番敏感な部分を擦り上げる。

水に近い蜜の飛沫が散った。

それが互いの下腹部を汚したのをぼんやり見る。

サスケはそのまま尽きて、イタチのやわらかい部分に思い切り放った。



「今の…初めてだな、兄さん」

「当たり前だ」

二度も達した体をもうサスケには触れさせず、イタチは自分で事後処理をしながら答える。

これ以上サスケに触れられたら歯止めが効かなくなるから。

「一度やらかすと潮吹きやすい体になるらしいな」

「この術はもう使わない」

何かを期待したサスケの言葉に間髪入れず言う。

「分かってるよ、でもすげー気持ちよかった」

汗ばんだ額を拭う兄を強引に抱き寄せる無邪気な顔。

イタチは仕方なく、大人しく抱き締められた。

「…多分サスケよりオレの方が…」

「え? なんだよ」

小声でもごもごと、なんでもないと付け足す。

体が満たされれば心まで一緒に満たされる、単純なものだ。

「風呂は……明日でいいか。明日もう1回しよう」

うとうとと目を閉じるサスケに、イタチは何も答えずに抱き締め返した。









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