婚前交渉




 兄の帰りが遅いと、それだけで落ち着かない。

誰と一緒にいるのか気になって、いてもたってもいられない。


「母さん、兄さんは?」

「そろそろ帰って来るわよ。子供じゃないんだから、あなたがそんなにヤキモキしてどうするの」

ぴしゃりと一蹴されて、サスケは何も言い返せなくなる。

母の言うとおりだ。

「それにサスケ、あんまり兄さんて呼んじゃダメよ」

「分かってるよ」

兄は、外では姉ということになっている。

生まれつき不治の病を患い、一族の跡目を継ぐ重荷から解放させるために、男であるということを伏せて育てられた。

それだけなら何も女のふりをさせる必要はないが、うちはにあってこれだけの才覚に恵まれながら長男が当主の座を継がないのは名誉なことではない。

忍術・幻術に優れたくノ一、ということに表向きはなっている。

不思議なことにそれほど不自由はない。

華奢で端正な容姿をしているし、性格も大人しくて優しい。

女と言われて違和感は全くない。

それに……

『姉』が兄である証拠も、もちろんある。

左胸が疼く。

サスケはため息をついて、イタチの部屋の襖を開けた。


自分の部屋のように落ち着く、大好きな兄の匂い。

今誰と一緒にいるか、サスケもよく分かっていた。

兄はもうすぐ結婚する。

いくら体が弱いからと言って、年頃の娘がいつまでも嫁にも行かず親元にいるのは自然なことではない。

しかもうちはの本家、世間体というものがある。

イタチは嫁入りという名目で家を追われるのだ。


 シスイが信用できる男であるということはサスケもよく知っている。

イタチ同様、子供の頃から実の弟のように可愛がってもらったし、フガクやミコトも認める温和で誠実な人柄。

家族以外で、イタチの内情を知っている唯一の存在。

兄を安心して任せられるのはこの人しかいないと思ってきた。

イタチがいつも使っている籐の寝椅子に横になってみる。

「兄さん…」

眼を閉じて、口の中で小さく唱える。




シスイさんと、もう……したのか……?




続きは胸の中で呟いた。

左胸以上に下半身が鈍く疼く。

寝椅子に染み込んだ甘い香りを吸い込んで下腹部に手をあてがう。

服の中へ滑り込ませると、情に滾るそれを握って解放した。

「…っ……」

慣れた手つきで構ってやると、サスケの手の中でそれはあっという間に隆起する。

敏感になった弱点を擦り上げて、先端はすぐに露にまみれた。

脳裏に浮かぶイタチのしなやかな肌、髪の香り、やわらかい唇…

次第に手の動きを早めて、狂おしい一瞬を目指す。

サスケが極楽へ上り詰める頃、玄関の引き戸の開く音がした。

ただいま、おかえりと、兄と母のやり取りが遠く聞こえる。

サスケはガバリと体を起して、慌てて衣服の乱れを直した。

今部屋を飛び出すのは逆に怪しい。

開き直って出迎えることに決めると、襖が静かに空いた。

「サスケ、ここにいたのか」

「ああ…おかえり、兄さん」

「ただいま」

必死に冷静を装って言うと、イタチはいつも通り優しい笑顔で答えた。

うまく笑えていたか、顔が引きつっていなかったか気になる。

「じゃ…邪魔したな」

「サスケ」

ボロが出る前に足早に立ち去ろうとしたら、呼び止められてしまった。

「シスイがお前にも会いたいって。今度は3人で食事に行こう」

「…ああ、分かった…」

チクリと胸が痛む。

兄の口からその名を聞いただけで。

婚約者なんだから当たり前のことなのに。

「…どうした?」

サスケの異変に気付いてイタチは心配そうに問いかける。

少しかがんで、いつの間にか自分の背を追い越してしまった弟の顔を覗き込んだ。

「!」

その拍子に両肩を掴まれて、イタチは驚いて体を後退させる。

それをサスケは強引に引き寄せ直した。

「…いい匂いだな」

イタチの艶やかな髪を指に絡めて、鼻先へ持ってくる。

任務中以外、外では髪を束ねず女性らしく下ろしたり飾ったりしていた。

本当は男なのに、その違和感が家族の前で露骨になるのはイタチにとってどうしても居心地が悪い。

イタチはサスケから目を逸らして、俯いて赤くなった。

「兄さんてさ…」

サスケはさらに身を乗り出してイタチに顔を近づける。

「…もう、シスイさんとやったのかよ」

王手をかけるように耳元で囁く。

イタチの頬はみるみる紅潮した。

「今日はしたんだな…なんか、いつもより可愛いもんな」

羞恥に震える兄の表情に、サスケの理性が揺らぐ。

頬に触れて、唇を重ねた。

「…んっ……サスケ、離せ…」

イタチが顔を背けて抗うと、逃げられないように抱き締められた。

「兄さんはさ…シスイさんと一緒になっても幸せにはなれないよ。だってあの人両刀じゃないんだろ?」

サスケはさっきまで横になっていた寝椅子にイタチの体を引きずる。

「結婚したって、シスイさんはその内他に女つくるよ。兄さんは放っておかれて淋しい思いするんだ。そんなんでいいのか…?」

「サスケ、やめろ……」

暴走したサスケを止めることはできず、寝椅子にイタチの背を押しつける。

「オレはそんなの耐えられない…大事な兄さんをそんな目に遭わせたくない」

椿の絵羽柄の入った艶やかな赤の着物。

兄によく似合うそれを力づくで剥ぐ。

真っ白で肌理細かな肌が剥き出されて、サスケはいよいよ後戻りできなくなった。

何度かこの体に悪戯をした。

サスケが思春期を迎えた頃から、両親の留守中に、家中寝静まった深夜に。

イタチはいつも遠慮がちで、可愛い弟の悪戯を受け入れてやった。

受け入れてくれなくなったのは、結婚の日取りが決まってから。

サスケはもうイタチ無しでは生きていけない体なのに。

自分に指一本触れさせなくなってからは別の男に体を開いていると思うと焦燥感が抑えきれない。

「兄さんはオレだけのものだろ? 兄さんに触れていいのは…そうだろ?」

姉が兄であるという貴重な証拠。

それを撫でるように捕えると、イタチの肩が小さく跳ねた。

「いやに反応がいいな…シスイさん今日はしてくれなかったのか?」

サスケの手淫に合わせてそこがみるみる張り詰める。

それだけでは飽き足らず、サスケはしゃがみ込んでそれを咥えた。

「あ…」

サスケの言うとおり、感度がよすぎるほどイタチはあっと言う間に芯を持って硬化した。

「こんな可愛い兄さんを放っておくなんて…考えられないな」

舐め上げながら曖昧に言葉を紡ぐ。

サスケの肩を抑えていたイタチがついに抵抗を諦めてしまった。

久々にされた行為のあまりの気持ち良さに。


シスイと行為に及んだことは一度もない。

結婚前だから、と言ってくれた。真面目な彼らしい。

本当は違うかもしれない。

結婚したが最後、サスケの言うとおり一生愛されることなく腫れ物のように扱われて終わるかもしれない。

それでも仕方ないと思っていたのに。

抱き締められたことで、サスケの肌の温かさを思い出してしまった。

「………」

「…兄さん、泣いてる…?」

イタチの眼から涙が溢れているのに気付いて、サスケは少し驚いて上体を起こす。

「…どうした? 痛かった?」

イタチは鼻をすすると、手で頬を拭って首を振った。

「…サスケ、入れて……」

初めて自分からこの台詞を言った。

恥ずかしくてサスケの顔を見ることができず、目を閉じたまま。

あまりに熱っぽい表情と声に、サスケの下腹部がまた疼いた。

逸る気持ちを抑えてイタチの内腿に触れると、ゆっくり開かせる。

体が重なるようそうっと寝椅子に乗ると、さっき中断したままのそれを衣服から取り出した。

イタチの手を取って握らせる。

「兄さんのせいでもうこんなんだよ…」

頬や瞼と同じ皮膚で覆われていると思えないほど硬くいきり勃って、ぬるぬると滑るほど濡れている。

求められて、愛されている。

「…兄さんの中、いっぱいにしてやる」

ひとつに融け合うのにこれ以上の理由は要らない。

「…あ、あぁ……」

硬い火柱を捻じ込まれて、イタチはサスケの腕を握り締める。

久々で、しかも中を馴らすことなく入れたせいでさすがに痛い。

それでも奥まで欲しくてたまらなくて、イタチは自分から腰を浮かせてサスケを飲み込む。

漸く奥まで入ったかと思うと、イタチは潤んだ眼でサスケを見上げた。

挿入がそうだったように、揺動をねだる仕草も当然初めてのこと。

本当に、他の誰かに譲るのが惜しい。

サスケは少しずつゆっくりと腰を打ち付けてイタチの体を揺らす。

その動きに合わせてイタチの唇から微かに喘ぎが漏れた。

徐々に摩擦を増やしながらイタチの性に触れて、扱き上げては雁首を擦り回す。

「あっ…あ……」

「いいよ、先にいって……」

中を突き上げられながら、男として一番弱い部分を刺激される。

気持ち良すぎて目が眩んだ。

「…サ、スケ……ああっ…」

イタチは一瞬大きく背を仰け反ると、サスケの手の中に放った。

内と外、どちらの刺激によるものかは分からない。

脈動の度にひくひくと中でサスケを締め付ける。

掌に放出された白濁の蜜をきれいに舐め取って、サスケは一層イタチの内部を強く抽送した。

「もう、出そう…兄さん……」

体の奥から欲が湧き上がってくる。

全部、この人と一つに交わりたい。

「…う……」

寝椅子が軋む。

渦巻いて湧き上がった欲の全てを、サスケは愛しい人の中に思い切り放った。

一滴残らず注ぎきると、繋がったまま一度しっかり抱き締め合って唇を重ねる。

顔を離して一瞬目が合うと、なぜか照れくさくて目を逸らした。

名残惜しく体を離して、事後処理をして服を着直す。

「サスケ、苦しい」

そう言われても退こうとせず、イタチに覆い被さったままサスケは目を閉じた。

「…さっき、兄さんが帰ってくるまで……」

「ん?」

サスケの髪を撫でながらイタチが優しく聞き返す。

「ここで一人でしてた…」

髪を撫でる手がぴたりと止まって、何故かイタチの方が赤くなる。

「結婚しても、時々帰って来てくれ」

「そうだな」

「で…今日みたいに…こうやって…」

「それは無理だ」

サスケがもごもごと言葉尻を濁すと、穏やかな表情でイタチが拒絶する。

サスケは拗ねた表情を見せた。

「……それでもいい、時々二人きりになれれば…」

泣きそうになるのを堪えてそれだけやっと言うと、イタチはふふっと笑った。

「あーあ……兄さんが家を出たら、毎日みたいにこの部屋に来て兄さんのこと考えながら抜くのか」

冗談のつもりでなく本気で落胆して言ったのに、イタチは余計に笑った。

















女の子のふりさせるという必要性がなかったのですが、「女として育てられる美形」
という設定がBLではよく使われるというのを最近学んだので、使ってみたかったのです。



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