夜半




 突然の荒淫で心身疲れた兄を家で休ませて、サスケが1人で買い物に出た。

1人で放っておいてもらえることが、今のイタチには有り難い。

サスケが帰ってくるまでにせめて心を落ち着かせて平静を取り戻すために。

畳の汚れは、イタチが自分できれいに拭いた。

そのついでに畳の間の拭き掃除を済ませて、荷ほどきというほどのこともない少ない2人分の荷物を解いて片付けた。

イタチもサスケも、こういうことをてきぱきとこなすのは苦手ではない。

兄弟同じように、母にしっかり躾けられてきたから。


 食糧を調達してサスケが帰る頃には、イタチは元の調子を取り戻していた。

「いい匂いだ、味噌汁作ってくれたのか?」

新居に来る足で、ほんの僅かな食材は買っておいた。

部屋の掃除をする時間を利用して一仕事済ませることも、イタチにとっては難しくない。

「掃除までしてくれてたのか…休んでればよかったのに」

「お前ばかり働かせられないからな」

そう言う兄の優しい顔を見て、サスケはさっきの自分の行いに罪悪感を感じた。

小さな食卓に着いて、一緒に慎ましやかな夕餉を取る。

「美味い!」

「そうか」

味噌汁を一口飲んでサスケが無邪気に言うと、イタチは小さく答えた。

鰹と昆布の合わせだしは、幼い頃から兄弟が慣れ親しんできた味。

自分の言葉に耳を傾け、答えてくれる、兄の優しい笑顔。

この幸せのために、どれだけ傷ついても今まで耐えることができた。



 食後は別々に風呂に入った。

先に入浴を済ませて部屋で待つサスケの耳は湯の音に捕らわれたまま。

壁一枚隔てた向こうでは、イタチが湯を浴びている。裸で。

サスケが入浴している間にイタチが敷いてくれた布団にごろんと横たわる。

部屋の灯りを落として、ただイタチを待った。

濡れた髪を拭きながらイタチが部屋に戻ると、部屋は暗くサスケは布団に潜り込んでいる。

寝た子を起こさないように、イタチは物音ひとつたてずにもう一組の布団に入った。

横になって目を閉じると、どうしても思い出す。

さっき自分は、サスケの手の中で果てた。

サスケがぶつけてくる愛情は、昔と変わらない兄弟愛であるはず。

長く離れ離れになっていたせいで加減が分からず行き過ぎているだけ、一緒に居ればじきに治まる。

そう信じたいけれど、どうしても不安を打ち消すことができない。

その不安と、抵抗を封じられるほどの激しい快楽とがイタチの脳裏から離れなかった。


「母さんのおむすび、覚えてる…?」

寝たと思われたサスケが不意に口を開いて、イタチは少し驚いて「起きてたのか」と聞き返す。

「覚えてるよ、美味かったな」

「やっぱり兄さんも覚えてるんだ、よかった……」

真っ暗な室内でも、サスケが微笑ったのが分かる。

目には見えないサスケの笑顔を見て、イタチのさっきまでの不安がやわらぐ。

思ったとおり、こうして一緒に居れば、時間をかければ関係は修復できる。

昔と全く同じ兄弟の姿に戻ることはできなくても。

そう思ったのも束の間、イタチはまた不安に飲み込まれることになった。

「兄さん、そっちに行っていいか?」

「…2人で寝るには狭いぞ」

兄の返事を聞いているのかいないのか、サスケは無理矢理イタチの布団に潜り込んでその体に抱きついた。

「サスケ、オレは明日は任務だ」

「大丈夫だよ、すぐ終わらせるから」

サスケの腕を離そうとするイタチの腕をさらに引っ掴んで、さっきよりも強引に組み敷かれる。

体を密着させて、唇を合わせる。

舌をねじ込んで唇をこじ開けた。

息苦しさにイタチが顔を逸らそうとすると、頬を掴んで口づけを強行された。

唇を離しながら、サスケが舌先で唾液の糸を引いて見せる。

イタチはそれを手の甲で拭って遮断した。

「サスケ、いい加減に目を覚ませ」

「目なんかとっくに覚めてる」

サスケ可愛さに強く出られなかったイタチが意志表示をした。

それでも怯むことなくサスケは尚も兄の寝衣の袷に手をかける。

首筋に吸い付いて、滑らかな肌に指を這わせる。

尖りかけた小さな突起を指でくすぐった。

「兄さんのことはオレが一番よく分かってる」

その言葉を否定できないほど、イタチは困惑していた。

執拗に舐め上げられ、もう片方を指で摘まんでは弾くように愛撫する。

空いた片手は内腿の間に滑り込まされる。

少し触れただけで、イタチのそこはさっきよりも簡単に芯を持った。

器用にそうされる内に、ついにイタチの抗う力も弱まっていく。

イタチが抵抗を諦めたのを見計らうと、サスケは自分と向かい合うようにイタチの体を横向きにさせた。

早い呼吸に伴って、サスケの目が自分と同じ色に変わるのをイタチはぼんやりと見た。

イタチの下腹部からじかに指を忍び込ませてそこを捕えると、ぬるりと滑る感触。

「もう濡れてる…感じてたんだ、嬉しいな」

表情と言葉が一致していない。

サスケはますます興奮したように、手荒くイタチの寝衣と下着を剥ぎ取る。

硬くなったものが露わになると、サスケの喉仏がごくんと上下した。

イタチのそこを擦り上げて、鈴口に滲んだ露を塗り広げる。

直接愛撫を施されて、イタチは快感に耐えるように眼を潤ませてサスケの腕を握り締めた。

「兄さん、気持ちいい……?オレのもさわって」

その手を離させて、自分の下腹部に這わせる。寝衣に染み出るほどサスケ自身も滾っていた。

サスケに導かれるまま、イタチの手がそこに辿り着く。

弟と同じように、兄もまた自分に似たものを感じ取った。

手に手を重ねられて手淫を強制される。兄のしなやかな指にさわられている、それだけでもう最初の波が訪れた。

サスケは焦れたように、奪うようにイタチの唇に吸い付く。

舌を噛むようにイタチの口内を蹂躙して、腕を背に回した。

つつ、と滑り降りるように手を下へ下へ這わせる。

「…!」

腰から下へ撫で下ろすと、イタチの体が微かに波打った。

もうイタチに抵抗する余力はなく、人形のようにサスケのされるがままになる。

さっきしたようにイタチの先端から溢れた露を指先に絡め取ると、狭い入口へ塗りつけた。

「…サスケっ……」

さっきは手を出されることがなかった部分。

痛いようなもっと欲しいような、今までとは違った刺激から逃れようとイタチは腰を捩った。

「…兄さん、優しくするから……」

さっきは「すぐ終わらせる」と言っておきながら、当然サスケの頭にその選択肢はもうない。

目を潤ませて快感に必死で耐える、この兄が欲しい。全部欲しい。

時間をかけて懐柔して、じっくり味わい尽くしてやる。

蜜濡れさせた入口に滑り込ませた指は第一関節ほどまでゆっくりと飲み込まれた。

息苦しそうに眉をひそめるイタチの表情を見て、サスケの気が急く。

そのまま指をずぶずぶと潜り込ませ、緩やかに上下させる。

痛がった風でもない、それどころかサスケが手にするイタチ自身は余計に張り詰めて痛いほど血が巡っていた。

もっと十分指で馴らすつもりだったのに、早くもサスケに我慢の限界が訪れる。

「兄さん、入れていい…?」

当然のことのように聞かれて、イタチは最後の理性を振り絞るように必死で首を横に振る。

構わずサスケはイタチの片脚を自分の体の上に持ち上げて、細腰を引き寄せた。

指を引き抜いて、代わりに屹立しきった情欲の塊を突き立てる。

先端を潜り込ませると、イタチはサスケの体を押し離そうとした。

息を乱して必死で抗う、兄のその表情に余計に煽られる。

サスケは片手でイタチの腰を抑え込んで、もう片方の手で自分の根元を軽く握ってゆっくり刺し入れた。

「…サスケ、痛い……」

痛いだろうな、これだけ狭かったら。

異物であるサスケを押し出そうとするイタチの内壁に締め付けられて、サスケは甘美なため息をつく。

「力抜いて、ゆっくり入れるから」

ググ、とさっきよりさらに強引に突き入れて、サスケは自分のものから手を離して両手でイタチの腰を抱え込んだ。

裂かれるような激しい痛みに、イタチは目を見開いて体を強張らせる。

もう声にならない悲鳴しか出ない。

「兄さん、本当かわいいな……そんな顔されると、オレ余計に……」

爆発寸前にまで膨張したサスケの杭が、より奥にまで打ち込まれる。

「ああっ……」

快感によるものでなく、鳴き声に近い声を上げてイタチの目から涙が一筋こぼれた。

完全に貫かれてしまって、ぴったりと隙間なく繋がり合う。

愛しい兄の中で、膨れ上がった自分自身がズキズキと脈打っている。

一度、イタチの体をぎゅうっと抱き締めた。

汗ばんでべたつく肌を密着させて、イタチの唇、頬、耳元へと舐め回すように唇を這わせる。

「せっかく湯を浴びたのに、また汗だくになっちゃったな…終わったら一緒に風呂に入ろう」

イタチの耳元で言う。返事はない。

顔を離してイタチを覗き込むと、虚ろな目ではあはあと息を荒げていた。

額に滲んだ汗を優しい手つきで拭って、長い黒髪を指で梳く。

体を撫で下ろしながら、サスケの手は痛みのあまり萎んでしまったイタチの自身に辿り着いた。

自分でする時のように慣れた手つきで、軽く胴の部分を握って扱き上げる。

一度は射精まで導いているし、さっきも簡単に昂らせた。何度でも上り詰めらせてやる。

徐々に硬さが再生して勃ち上がってくると、今度は雁首に刺激を与えた。

また押し寄せる快感に、イタチの表情が引き攣る。

「兄さんは感じ易いな…」

サスケは手の動きを早めて、啄むようにイタチの唇を舐めた。

より激しい愛撫を施され、イタチの狭い蕾がサスケを咥え込んだままきゅっと収縮する。

あまりの具合の良さに、サスケの自身がまた張り詰めた。

イタチの中で新たに水気が増したのが分かる。

サスケは狭い兄の中を気遣って止めていた動きを再開させた。

「っ…!」

和らいだかと思われた裂くような痛みがまたやって来て、イタチはまた小さく悲鳴をあげる。

体を仰け反ってサスケを拒む。

痛いのに、サスケに玩ばれる部分は気持ちいいのだからたちが悪い。

挿入前に塗り付けた兄の体液と、つい今先走った自分の体液が混ざり合って、僅かに滑りがよくなる。

その滑りに任せてサスケは勢いよく律動を繰り返した。

「痛い……サスケ……」

「兄さん、ごめん……」

もう兄を気遣う余裕はサスケになく、ただ無我夢中で腰を振る。

同時にはち切れそうな兄の自身を思い切り擦り上げる。

「あぁっ……」

ついに兄は絶頂に達し、サスケの手淫による二度目の射精を迎えた。

勢いよく放出された白濁の蜜がサスケの腹を汚す。

締め付けられている部分が一層強く収縮して、サスケももうその瞬間が近いことを悟った。

兄の脈動を全て受け入れてから、サスケはイタチの体を仰向けにさせて正常位の形を取る。

両手でイタチの腰を抑え込んで、思い切り突き上げた。

一度達して快感の峠を下りにかかっているイタチは、ただ必死で痛みに耐える。

「…兄さん…出すよ…………くっ………」

低い呻きをあげて、サスケが首をうなだれる。

我慢に我慢を重ねて限界だった情欲の精を兄の最奥に思い切り放った。

ドクンドクンと脈打って、最後の一滴まで残らず。

「はあ……はぁっ…………」

呼吸が収まるまで、繋がったままサスケは余韻に酔う。

それも束の間、硬さが半減したサスケは締め付けの強いイタチの内部から滑り出された。

敏感なまま震える兄の体をそうっと抱き締める。

「兄さん、ごめん……」

今度は、イタチも弱々しい手つきでサスケの髪を撫で返した。







 サスケがどれだけ駄々をこねても、一緒に入浴することをイタチが許さず、その後は会話らしい会話もなく別々の布団で眠った。

眠る兄の背中を見つめながら、サスケにもう次の熱が湧き出していく。

愛しい人を想ってただ自分を慰めることしかできなかった今までとはもう違う。

夜は静かに更けた。









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