不透明な世界に色をつけて



「愚かな…せっかくの忠告を無視するとはな…いいだろう!貴様も一緒に死ぬがいい!」

さて、どうするか。清子は花京院に悟られないよう睥睨した。
加勢すると言っても相手も腐ってもスタンド使い。それに今回は先ほどのようなスタンドだけでなく、操っている本人がいる。さっきはジョジョに気を取られているところを不意をついて『真空』で止めることができたけれど…次はそうもいかないだろう。
私のディープパープルの能力は「気体操作」。私の能力は学校に行く道すがら聞いてもないのにスティールが説明してくれた。なんでも彼が言うには気体を毒性のものに変えたり、気圧の変化を起こしたり、空気中の酸素と水素を化合して爆発を起こすことができる。汎用性が高い分、能力を使いこなすも持て余すも君次第だ、とスティールは言った。

「おい、煙崎」
「うん?」
「あわせな」

不意にジョジョがこっそりと耳打ちをした。え、と瞠目する暇もなく、ジョジョが前に出た。
相手は飛び道具を持っているのにまっすぐ正面から向かっていくなんて!
ああもうと呆れる暇もなく、一瞬ジョショに気を取られた花京院だったがすぐにエメラルドスプラッシュを打ってくる。

「ディープパープル!」

ジョジョが正面を歩いている後ろからディープパープルで真空を作りだし、ジョジョに当たらないように弾丸を受け止めた。花京院がまたその技が、とばかりに憎々しげにこちらを睨む。
空気の壁が空中でじりじりとこちらににじり寄ってくる弾丸をぎりぎりのところで止めながら、ジョジョに向かって叫ぶ。

「…ッ、ジョジョ!」
「花京院、てめーはこう言ったな。敗者は悪であると。
 それじゃあやっぱりィてめーのことじゃあねーか!」

十分花京院の近くまで来たジョジョが背からあの闘士のスタンドを出す。義憤に燃えた瞳で闘気を迸らせるそのスタンドは、ぐあっと拳をうならせて花京院の法王の緑にラッシュを叩きこんだ。


「オラララオラッ!裁くのは!俺のスタンドだーッ!!」


目にも止まらぬほどのラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
清子が花京院に向けて攻撃する暇もなく叩き込まれる暴力に、いっそ清々しくも感じてしまう。先ほどまで抱えていた女医先生を傷つけられた怒りはもう彼の怒涛の攻撃にもっていかれてしまった。
喧嘩の時のジョジョは体格と喧嘩殺法に物を言わせていつも一撃で仕留めることの方が多かったから、このスタンドは彼の攻撃的部分が前面に押し出されているのだろうか。

「のわッ!?」

なんて考えていたら、ジョジョのスタンドが花京院のスタンドとともに保健室の壁も一緒に破壊していくではないか!
危ないので数歩下がって飛んでくる瓦礫から倒れている女医先生とともに避難する。
ボロボロになって血まみれになった花京院を見て、清子は静かに心の中でが合掌した。


「なんて、パワーのスタンドだ…」
「さっきは不意を突かれてちょいと胸を傷つけただけだ。やわなスタンドじゃなくてよかったが。やれやれ、ますます凶暴になっていく気がするぜ」


花京院が崩れ落ちたところで空中で受け止めていた弾丸も空気とともに消えていく。空気の壁を解除すると、ジョジョの近くまで歩み寄って花京院の様子を見やりながら話しかける。


「その人、死んでないよね」
「殺しちゃあいねえ、気を失っただけだ」


ああよかったと少し安堵の息を漏らす。
ジョジョは喧嘩では容赦ないって噂で聞くからなあ。この前学校で聞いた噂によると、ジョジョに喧嘩を売った四人の成人男性が大怪我の重体で病院に連れていかれ、その中の一人はタマタ…げふんげふん!もつぶされたらしい。何がそんなに彼を怒らせたのかは知らないけれど。
『裁く』と言っていたし、この花京院にも同等の仕打ちをするのではないかと気がかりだった。それに目の前で行われる理由のない暴力は見るに堪えないものがある。それになにより後処理が面倒だしね。
清子があからさまに安堵のため息をついたことに対して、承太郎も清子に話しかけた。


「危ないところだった…助かったが、てめーのそれは…スタンドか?
まさかとは思うがてめーもDIOの手下か?」


まだ外に出たままのディープパープルが清子の近くで紫煙をくゆらせながら、清子を守るように足元からまとわりつく。それに対して承太郎も明らかに警戒したように、するりとあの闘士のスタンドを出した。
マトリョシカ人形の次にメロンときて、今度はジョジョのスタンドと戦わなきゃいけないなんて冗談じゃあないわ――清子は疲れをにじませながら首を横に振る。


「いいえ、正直言うと今ジョジョを敵に回す余裕なんてないわよ」
「だろうな、お前がDIOの手下だったら助けたりせずに俺を背中から攻撃もできたはずだ」
「ああ…、DIOってやつのことだけど、私もその人に命を狙われてるらしいんだよね。今朝がたも空飛ぶマトリョシカ人形に追いかけられて大変だったし…。なんで狙われているのか詳しいことは知らないけれど」
「らしい?知らない?おまけにマトリョシカ人形だと?
 …とりあえず、この一件ジジイに話をしておくか」
「ジジイ? ジョジョのおじいさん?」
「ああ、この件のことは詳しくはジジイに聞きな」
「ふうん」


スタンド、DIO、命を狙ってくる敵――考えることは山積みだ。
スティールは疑問と混乱を与えるばかりで、私の知りたい答えには絶対に答えてくれなかった。スティールが話していることも、「ジョジョのおじいさん」に聞けばわかるのだろうか――
ジョジョと二人でいるのがいまさらだが気まずくなりはじめ、思わず視線を落とす。


「先生は…大丈夫かな」
「…手当てすれば助かりそうだぜ」
「よかった。なら早いところ手当しないとダメだね」


何かないかポケットを探ると、珍しくハンカチが入っていた。
ラッキーと思いながら気休め程度に先生の口元をぬぐう。
すると、二人の間にけたたましい警報のベルがわんわんと響いた。それに続いて教員たちの「何が起こったんだ!?」という声が響く。


「騒ぎが大きくなったな。このまま学校フケるぜ、ついてきな」
「は?私も行くの」
「どうせここにいたらとっつかまって何か言われるだけだろうよ」
「あ〜…面倒事に面倒事が…」
「?」
「あーハイハイ、わかった。ついていきますよ」
「…というか、そいつも連れていくんだね」
「こいつにはDIOのことをしゃべってもらわなくてはな…」


清子は頭を抱えながら、花京院を担ぐ承太郎の少し後ろを歩く。

敵として認定はされなかったものの朝からのこの状況、私は何か大きなものに巻き込まれてしまったようだ。きっと、ジョジョの家に行ったら私はもうこの町には戻れないような、そんな気がした。



2161210



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