日が落ちるのが早くなって空はもう濃紺だった。この間まで夜はもう来ないんじゃないかと思うくらいに日が長かったのに。最近はめっきりと寒くなってきて、私は季節の流れを感じていた。ついこの間、夏休みが終わって始まったばかりのように感じていた文化祭の準備も大詰めで、明日には本番を迎える。いつもと様子の変わった教室を見渡して、私は胸を躍らせた。1番目立つ場所には真田くんの書いた「縁日」という文字が飾られている。それを眺めながらなんか私青春してるな、なんて考えてみたりした。自分の置かれた状況を考えると随分とのんきだなと人ごとのように思う。でもすぐにそれでいいんだと思い直した。そんな風に1人で考えを巡らせているとずっとこの準備を仕切ってくれていた学級委員の男子が「みんなが頑張ってくれたから準備は完璧だ!明日からの本番もこの調子で頑張ろう!」と言って締め括った。その瞬間に歓声が上がる。このクラスはこういう時に強いなと思う。


「石橋、滝沢と2人で帰るのか?」


帰ろうと荷物を持ったところで真田くんから声をかけられた。それに頷くと「じゃあ送っていこう。暗いからな」と言ってくれた。少し驚きつつも「ありがとう」と言うと今度はそこに柳生くんがやってきて「私もご一緒してもよろしいですか」と言った。私は心強いなと思いながら「もちろんだよ。ありがとう」と言う。そのまま2人を両脇に連れて廊下に出ると私と同じように両脇に仁王くんとブンちゃんを連れた弥生がいて。私たち2人は一瞬目をまんまるにした後で笑った。そうして6人でゾロゾロと歩いているとそこにブンちゃんを探していたジャッカルくんが。そしてまたそこに2人で歩いていた柳くんと幸村くんが合流した。それがあまりにも自然で最初から約束していたかのよう。ただでさえいつもとは違った雰囲気の校舎の中を次々と仲間を増やして歩くのがなんだか楽しかった。


「滝沢と石橋を送っていくのか?」


柳くんが聞いた。それに頷く真田くんと柳生くん。私は「真田くんから声かけてくれたんだよ」と答える。そうすると柳生くん以外のテニス部のみんなが真田くんのことを見つめた。幸村くんは「あの真田もそんな気が回ったんだね」なんて言っていて。それにみんなが笑うものだから真田くんは口をわなわなとさせていた。


「あたしたちって帰宅部だし、授業が終わればすぐ帰っちゃうから正直暗い道怖かったんだよね。だから助かる」
「私も!だから声かけてもらって嬉しかったよ!」


私たちがそう言うと真田くんは頬を赤くして頷いた後、トレードマークの黒いキャップを深く被ってしまう。だからみんなの笑った顔が優しくなったところを見れたのは私と弥生だけだった。
喋ってる間に玄関までやってくるとなにを言うわけでもなく、それぞれが自分の靴箱の方に向かって靴を履き替えて外に出たところでまた合流をした。外の空気は今までの生ぬるいものとは違っていてもう夏は完全にいなくなっていた。いつも明るい時間にしか帰らないから不思議な気持ちで暗い空の下を歩く。


「みんなは暗い時間に帰るのは当たり前なんだよね?」


私がそう聞くとブンちゃんが「まあ部活してた時はもっと遅かったよな」とガムを膨らませながら言った。それにみんなが頷く。夜道をなんでもないことのように歩く彼らと暗がりを怖がっていた私たち。そういう些細なことで彼らの今までの努力を知って勝手に嬉しくなる。


「なに笑っとるんじゃ?」
「え…へへぇ」


知らないうちに頬が緩んでしまっていたらしい。仁王くんに指摘されて私は笑ってごまかしたけれど余計に不審者になってしまった。どうしようかなと思ったその瞬間「ちょっとー!!!」と大きな声と近づいてくる足音が聞こえてきた。


「みんなで帰るんっすか!?ずるい!!俺も!!」


その主は赤也くんで。ずっとずるいと繰り返して私たちの輪の中に入ってきた。そのずるいが私には寂しいに聞こえる。


「赤也は俺たちが卒業したらどうするんだろうね」


幸村くんがさらりと言った。その瞬間に赤也くんの眉がぴくりと動いて、少しだけ空気が変わったのが分かる。少し不安になって弥生の方に顔を向けると幸村くんをまっすぐな瞳で見つめていた。そんな幸村くんは赤也くんのことがかわいくて仕方ないと言った顔をしていて。私はひとり胸を撫で下ろした。


「どうせ、校舎はすぐ隣だしすぐ会えるからいーっスよ!」


赤也くんもつーんといった表情で返したけれどそれはかわいいとしか言えない返事で。私はこっそりと笑ってしまう。それはみんな同じみたいでそれぞれ口を押さえたり、天を仰いだり、隠さずににっこりしたり。弥生も急に私におでこを突き合わせてきて、目と目が合えば噛み締めるように微笑んでいた。







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