「そういえば文化祭の出し物決まった?」


中身のなくなったお弁当箱の蓋を閉めながら、質問すると弥生の肩はびくりと跳ねた。そして返事はない。その反応を見てやっと決まったのだろうなと思う。昨日、家で聞いた時はまだ決まってなかったから。でもあまり言いたくなさそうなその反応に私は少し不安になる。


「今日もここで食べてたんすね!」


いつまでも口を開かない弥生を見つめていると赤也くんがやって来た。彼は前に一緒にお昼を食べてからちょくちょくここにやって来るようになっていた。弥生はそんな赤也くんを見つめて、それから少しだけホッとしたように小さく笑ったのを私は見逃さなかった。


「文化祭の話っすか?」


赤也くんは弥生の隣に座って聞いてきた。私は頷いて、弥生がクラスでの出し物を教えてくれないのだと言って聞かせる。


「真奈美先輩のクラスは?なにするんすか?」
「うちはねえ、縁日だよ。みんなで浴衣着るの!」
「へぇ、じゃあ真田副部長と柳生先輩も浴衣着るんだ!」
「うん。赤也くんのとこは?」
「うちはお化け屋敷っす!遊びに来てくださいね!」


私と赤也くんがそんな風に話していても弥生はやっぱり口を開かなくて。じっと黙って聞いていた。なにか嫌な出し物になったんだろうか。劇で主役とか?そんな風に思っていると赤也くんが「もう!教えてくれてもいいじゃないっすか!」とぷりぷりし始めた。私はそれがかわいくてつい笑ってしまったけれど、弥生はどんよりとした表情のままなにも返してこない。


「真奈美先輩〜、仁王先輩に聞いてきてくださいよ〜」
「え〜」


今度は私の方を見て泣きついて来る赤也くんの表情がくるくると変わる様子が面白くてまた笑ってしまった。弥生はそんな赤也くんを見て、無視しろという視線を送って来る。ひどい。そんな2人に挟まれたら困ってしまう。


「大丈夫ですって!真奈美先輩がこう上目遣いで仁王先輩に聞けばイチコロっすよ!」
「え〜」
「こら、赤也!」


そこまで気になるのかと思うほどに赤也くんは必死になって頼んでくる。もう言っている意味もわからない。その態度についに弥生が怒り出した瞬間、また人が増えていることに気がついた。


「俺がなんじゃって?」


赤也くんの耳元に仁王くんが囁いた。その瞬間に赤也くんは叫び声をあげて後ずさる。その様子が面白くて私はまたまた笑ってしまう。でもそれは私だけではなくて、仁王くんと一緒に来ていたブンちゃん、ジャッカルくんも笑っていた。柳生くんだけがなんでか難しい顔をしているけれど。


「もう一回同じこと言ってみてくんしゃい」


仁王くんはずっと赤也くんに問いかけ続けてて柳生くんに「仁王くん、もうその辺にしておきたまえ」と止められていた。そうすると仁王くんは素直に赤也くんを解放して自然と出来上がっていた輪の中には入り込む。


「で、どうしたんだよ?」


ブンちゃんが話を元に戻してくれる。そこでまた弥生が文化祭での出し物を教えてくれないと言う話になった。弥生は仁王くんとブンちゃんを半ば睨みつけるようにして「絶対言わないでよね」といつもより低い声で言う。


「でもいつかはバレるんだぜ?」
「そうだそうだー!」
「当日には絶対に分かることじゃ」
「そうだそうだー!」
「今のうちに知られてた方が身構えなくていいんじゃないか?」
「そうだそうだー!」


ブンちゃん、仁王くん、ジャッカルくんが弥生を説得する。その合間合間にいつの間にか弥生の隣に戻っていた赤也くんの合いの手が入っていて、なにかのデモみたいだと思ってしまう。私はそんなに言いたいくないことなのかと少し心配になっていると柳生くんが「言いたくないのなら言わなくてもいいじゃありませんか」と助け舟を出して、弥生と私の目が輝き始める。やっぱり紳士だ!と。けれど、そうすると今度は弥生に説得を試みていた方が「柳生ばっかりいい格好して!」と非難を浴びてしまった。でも仁王くんたちだって別に変なことを言ったわけではない。ただ事実を言っただけだ。それでも弥生の言いたくないと言う気持ちが強かっただけで。
そこにまた人が増えた。真田くんに柳くん、そして幸村くんだった。こんなことが前にもあったなと思う。まだ幸村くんに出会う前、全国大会が始まる前のことだった。今でも柳くんを見ると少し警戒してしまう自分がいるのが分かるし、幸村くんはまだあまり話したことがなかった。弥生と幸村くんは前から知り合いのようだけど。私の知らないところで。それが少し寂しくて、面白くないと感じてしまう。じっと幸村くんの顔を見つめてしまっていると、ふいに目が合って、私の体は固くなる。それでも幸村くんはきれいに笑った。ずるいよなぁと思う。私もそれにきちんと返そうと思うけれど、うまくいかずにぎこちない引き攣った笑い顔しか出来なくて。変に思われちゃったかな。私も幸村くんと仲良くなれるかな。そう思いながら弥生とどうやって知り合ったのかが知りたくて仕方がなくなっていた。全部を把握しておくなんてことできるわけがないのに弥生にとって自分が特別でありたいと思ってしまう。こっそりと私にだけ出し物教えてくれないかな、なんてことばかりを考えてしまう私は少しおかしいのかもしれない。







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