テストが終わった。もう全ての結果が返されていて、自分のこの学校での成績も分かる。あたしは前の世界にいた時とほぼ変わらないまずまずの成績で満足していた。今までいた世界でもそんなに悪い成績じゃなかったからね。真奈美も以前と変わらない成績を保てたらしい。もしかしたらあたしたちのメンタルは結構強いのかもしれない。自分で言うのもなんだけれど、この状況では本来は勉強なんてどうでもよくなってしまうのかもしれない。それでも、あたしたちはここで普通に生活して、テストの成績なんかで一喜一憂してるんだから笑ってしまう。凄まじい変化にもあたしたちは適応していて、意外とタフなのかも。なんてね。


赤也も英語の赤点は免れたらしい。決していいとはいえない点数のついた答案用紙を持って、あたしの元へとやってきた。


「赤点ギリギリなんすけどね」


そう言って笑う顔は照れているようでいてとても嬉しそうだった。でもそれはどこがわからないかわからなかったような人間がとれるような点数ではなかった。赤也はあたしに「ありがとうございました」と屈託のない笑顔を向けたけれど、それは赤也の努力の結果だ。あたしは少し教えただけ。それだけではこの点数はとれない。そこから自分で勉強をしたからこその点数だ。それを言えば、赤也は一瞬ぽかんとしてから、すぐに笑った。褒められてはにかむ子どもみたいな笑顔だった。けれど「でも俺は弥生先輩に感謝してるんす!」と言うものだから、あたしもはにかんでしまった。


―――――☆


この学校は広い。その分だけ生徒が多いから、この広さも仕方がないのだろう。中学と高校が同じ敷地にあるのだからそれも当たり前のことだ。まだあたしが行ったことのないところもたくさんある。掃除当番になるとどこに行かなきゃいけないのか分からない時もあるから笑ってしまう。今回も教室から遠いところになってしまった。そしてそこは球技大会前の放課後に柳生くんと会い、淋しくなって涙をこぼしたところだった。教室ではきっと真奈美が待っていてくれるだろう。それでも、その時にどうしようもなく悲しかったあたしを励ますかのようにきれいに咲いていた花がどうなったのかどうしても見たかった。正直、その花の存在は忘れていた。けれど今この場所を通ってその優しさを思い出したのだ。少し見るだけだから、と真奈美の顔を思い浮かべながら胸の中で言い訳をして歩みを進めた。
あのあたしに微笑みかけてくれたような花が咲いていた花壇の前。そこに辿り着いた時、あたしが望んだ景色はなかった。また微笑んでくれると思った花がなくなっていたのだ。きれいな薄紫の花びらは元気がなく、土の表面は乾き切っていた。一昨日は雨が降っていた。きっとそれから水を与えられていないのだろう。早く水をあげなければと思った。確かジョウロはさっき離れた掃除道具が置いてある場所の近くにあったはずだ、と記憶の中の景色を探る。あたしは元いた場所に一度戻ってからジョウロに水を汲んで花壇の前までやってきた。たっぷりと水をいれたジョウロは重かった。それを傾ければ雨のように、またシャワーのように水が降り注ぎ、白っぽかった土は濃い茶色になる。一度だけでは花壇の全域に水をあげることができず、何度も水道と花壇を往復した。あたしが辿った道には点々と水の跡が残る。
元気になってね。そう思いながら水をあげることしかできない自分。この場所は奥まったところにあるから委員の人も水をあげるのを忘れたのかもしれない。明日も忘れるだろうか?明後日は?そんなことを考えてしまった。そして自分がなんとかしたいと思っていることに気づく。一度この花を調べるために図書室に寄ろうかと考えた瞬間、自分のことを待っている真奈美のことを思い出した。でも正直に花に元気がなくて水をあげていたと言ったら、笑って許してくれるんだろうなぁと思った。また元気に咲いてね。そしたらその姿をあたしの大事な人にも見せてあげて。そう心の中で話しかけたらちょうど見つめていた花の花びらからぽとりと一粒の雫が落ちて花が揺れた。まるで頷いたかのように。あたしはその姿を見て口角が上がるのを抑え切れなくてジョウロを持って走り出した。




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