あたしは今、新しい制服を着て3−B前にいる。
昨日は真奈美と2人で生活に必要なものを買いに行った。身一つでこの世界にやってきてしまったあたしたちは学校に行くための新しい文房具に普段着の衣類など一通りのものを揃えた。  
そして、今日は転校初日。あたしは3−Bに入ることになって、転校生お約束の担任の「呼んだら入ってきてね」の真っ最中なのだ。真奈美は3−Aの前で、教室1つ分離れたところに立っていた。その顔は緊張で今にも倒れそうな顔をしている。そんなあたしの心臓もドキドキといつも以上に早く多く動いている。それでも一昨日手紙を読んだ時には劣っているのだけれど。
一度は納得したけれど、ことあるごとにこれは夢なんじゃないか、と何度も考える。けれど、今こうして立っているのはあまりにもリアルで鮮明だ。


「滝沢さーん」


名前を呼ばれた。人生初の転校。こんなに緊張するのか、と思いながら、戸を開けて教室に入る。一斉に教室中の目があたしに集まるのが分かった。それを体中に感じながらあたしは笑顔を作る。やっぱり第一印象が大事よね。担任が自己紹介をして、と言ったのを合図にあたしはその笑顔を顔に貼付けたまま軽く自己紹介をする。


「滝沢弥生です。両親の都合で引っ越してきました。まだ分からないことばかりですが仲良くしてください」


クラスのみんなが拍手をする。それに重なって担任があたしの席を指示した。窓際から2列目の1番後ろ。数えながら位置を確認して机の間を縫って歩いて行く。その時もみんなの視線の先はあたしだった。あたしが動くのと一緒に彼らの視線も一緒に動く。
言われた通りの席の1つ前に来た時にあたしは驚いて目を見開いた。前の席の男子は赤い髪。そして、左隣の男子は銀髪だった。え、なにこの人たち。こんな人たちに囲まれながらあたしは学校生活を送らなきゃいけないの?前の世界では考えられないことにあたしは一瞬動きが止まってしまった。


「おぅ。俺、丸井ブン太ってんだ。シクヨロ」
「どうも」


席に着くなり隣の赤髪が話しかけてきたからビックリした。内心ビクビクしながら短く答える。教卓ではまだ担任が今日の連絡事項を話していたけれど、丸井と名乗った彼はそれでも話し続けた。


「で、その隣の銀髪が…」
「自分で言える。仁王雅治じゃ。よろしゅう」
「あーはい。よろしく」
「なんだよぃ。そんなかしこまった話し方!もっと仲良くしようぜぃ」
「あ、ありがと!」


銀髪の仁王も加わった。でもなんだか思ってたような怖い人たちじゃないみたい。普通に話せているし、なんだか感じがいい。髪の色なんかで判断してごめんねと心の中で謝っておく。




「あ、お揃いのリストバンドだ」


HRも終わり担任がいなくなってからも、丸井が後ろを向いて話しかけてくれていた。仁王もたまに反応している。そしてあたしは2人の腕には同じリストバンドをつけていることに気づいて、思わず呟く。あたしの言葉に2人は同時に自分のリストバンドへと視線を向けた。


「あぁ、これパワーリストなんだよぃ」
「パワーリスト?」
「重りが入ってんだ。テニス部のレギュラーはみんな付けてるんだぜぃ」


丸井がリストバンドを見せつけるかのように自分の腕を突き出す。その顔は誇らしげで。


「だから好きでお揃いなわけじゃないんじゃよ」
「へぇー。2人とも同じ部活なんだ」
「おぅ。結構強いんだぜぃ。県大会も優勝!」
「え、それすごいじゃん。しかもそこでレギュラーなんでしょ」
「まぁな」


得意げにガムを膨らませながら言う丸井にあたしはすごいを繰り返す。それって県で1番ってことでしょ。それって相当すごいじゃん。今度は関東大会なんだ、と話す丸井を尊敬の眼差しで見つめた。出会ってまだ数分なのにあたしの中で2人の好感度が上がっていく。


「滝沢は部活入らんのか?」


いきなりの仁王からの質問。一瞬キョトンとしてしまった。そんなこと考えている余裕がなかったから。問いかけられてやっと考え始める。ちなみに前の世界ではずっと帰宅部だった。


「うーん。多分入らない。前の学校でも入らなかったし、こんな時期に入るのも微妙だし」
「だよなー。中途半端だよなぁ」
「ていうか、なんでこんな中途半端な時期に転校なんじゃ?」


仁王の言葉にギクリ、としながら「親がいきなり転勤したの」と適当にごまかした。けれど、仁王はなんだか納得していないように頬杖をついてふぅーんと言った。それもそうだ。今は6月。中途半端すぎる。けれど、今までいた世界と同じ時間の流れ方をしているみたいで、あたしは過ごしやすくてよかったと思っている。


「もう1人転校生もいるようじゃし」
「あぁ、それあたしの友達なの。事情があって2人で暮らしてて…」
「えー!親いねぇのかよ!」
「う、うん」


ドギマギしながら昨日の夜に真奈美と考えておいた答えを出す。細かいことは濁しているけれど。丸井はいいなぁと話に食いついてきた。仁王はこれと言って反応はない。会ったばかりだけれど仁王はなんだか油断できない気がする。仁王をちらり、と見てみると窓の外を見ているようだった。

そんな風に話していると1限が始まった。助かったと思いほっとしてどこの誰が用意したのか分からない新しい教科書を開く。幸い、今やっているのは前の世界で1度やったことのあるところだった。それに安心したことも相乗して、あたしの頭の中はさっきの仁王の問いについて頭がいっぱいになる。
この学校の教員はなぜかなにも疑問を持たずにあたしたちに接してきた。むしろ、大変ねと声をかけてきたぐらいだ。教員たちにどう伝わっているのかは分からないけれどあたしたちはこれからちゃんとなにも疑われずにこの世界でやっていけるのだろうか。A組にいる真奈美は1人できちんとやっているのだろうか。そんなことばかり考えていたら、あっという間に午前が終わった。





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