今日の目覚めは最高だった。昨日まではどんよりと世界が曇っていたのに、今日は晴れ渡っている。きっとこれも真奈美のおかげなんだろうな、と思った。
当たってしまった仁王にも謝りたいなと思っていたけれど、彼は朝から眠ってばかりでタイミングを掴むことができないままお昼休みを迎えてしまった。いつものように真奈美とお昼を食べようとお弁当を持って、教室を出て行こうとした。そう、しただけ。お弁当箱を持った瞬間に隣で突っ伏していた仁王がむくりと起きたのだ。そして、起き抜けの虚ろな瞳で一言。


「真奈美と食べるんか?」


気まずいと思っていたのが嘘みたい。あたしが一人で勝手に思い違いしていただけなのか。頷けばさっきまでの眠そうだった表情を一転させて仁王はあざとく上目遣いで「俺も一緒に言ってもええ?」と聞いてきて、あたしは「え?う、うん…?」と戸惑いながらも返事した。曖昧だったけれど、許しを得た仁王は屈託なく笑った。その顔をファンが見たら卒倒するんじゃないかっていうくらいにきれいな顔。正直、あたしもどきっとした。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけど。真奈美のこととなるとこんな風に笑うのか。心臓に悪い。
仁王を引き連れて真奈美の元へ行こうとすると今度はブン太が「あ、俺も行きてぇ」と顔だけこちらに向けて言った。そして「ジャッカルも」とちょうどB組にやってきたジャッカルを見て付け足す。ジャッカルは来たばかりで話についていけてないみたいで顔にクエスチョンマークを貼付けていた。あたしは一度ため息をついれから「分かった」とだけ言った。人数が思い切り増えてしまったけれど、まぁいいだろう。真奈美はむしろ喜ぶかもしれない。
ぞろぞろと仁王たちを引き連れてA組へと真奈美を迎えに行く。心なしか周りの視線が痛い気がする。短い距離のはずなのに長く感じてしまった。A組の中を覗こうとした時にちょうど真奈美が出て来た。その隣には柳生くんがいる。思わず見つめてしまっていると目が合って優しく微笑まれてしまった。その顔もさっきの仁王とはまた違ってきれいだった。少し戸惑いながらもそれに笑って返す。今更だけど真奈美はとんでもない人たちに好かれてしまったんじゃないだろうか。


「あ、弥生。お昼柳生くんも一緒にいいかな?化学が全然分からないって言ったら教えてくれるって…」
「よろしいですか?」


化学の教科書で顔を半分隠しながら真奈美があたしに言った。柳生くんは礼儀正しくお辞儀する。あたしはちらり、と後ろに構えているテニス部のみんなを見た。仁王はおもしろくなさそうにしているんじゃないかとも思ったけど、そんなことはなくて少し驚く。


「あ、どうぞどうぞ。化学教えてやって。というか、実はあたしも他に連れてきた人がいるんだ」
「プリッ」
「うーす」
「よ、よぉ」




真奈美と柳生くんという仲間を増やして、またぞろぞろと歩きながら、いつもの中庭までやって来た。真奈美は勉強を教えてもらうためにここに来るまでずっと話していた柳生君と自然に隣り合って座る。仁王はその間なにも言わずに黙っていたけれど、柳生くんとは反対側の真奈美の隣に座った。それが自然で感心してしまう。そんな一部始終を見ていたあたしは真奈美の向かい側に座った。
お弁当を広げると、左隣に座ったブン太のお弁当の大きさにびっくりした。それ以外にもパンがいっぱいであたしは目を見開く。


「なんだよぃ」


あたしの視線に気づいたのかブン太がお弁当の蓋を開けながら言った。それにあたしはなんでもないと返す。それに比べて前を向けば、仁王のパン一ついう二人の非対称具合におかしくなってしまった。ブン太と仁王に挟まれたジャッカルも仁王と同じパン(でも2つ)で、柳生くんは彩りもきれいなお弁当を食べていた。
仁王が真奈美のお弁当から一つ卵焼きをつまんだ。それは今朝あたしがきれいに焼けたと満足したものだった。真奈美は「あっ、弥生の卵焼き好きなのに」と悲しそうな声を出した。そんな様子を見て、柳生くんが「では、私のミートボールを差し上げましょう」とお弁当を差し出す。それに真奈美はわーいと喜んでミートボールを食べた。なんだかんだでこの3人はこんな風に仲良くやっていけるんじゃないかなと思った。そして、あたしは卵焼きを褒められたので上機嫌である。あたしも卵焼きを…と思っていると横からハンターの視線を感じてあたしはお弁当箱をさっと反対側にずらした。そうすると、ブン太はケチ!と唇をとがらす。


「あんたにはそんなにおっきいお弁当とたくさんのパンがあるでしょうが!」
「うるせぇ。美味いんだったら食わせろよぃ!」
「なにその理屈!だったら、そのハンバーグと交換!」
「はぁ!?肉と交換とは良い度胸じゃねぇか!―あっ!」


おかずで言い争っているとブン太が目をまんまるにして大きな声を出した。その目はあたしよりも奥を見ているみたい。他のみんなもブン太と同じ方向を黙って見ている。真奈美は口をぽっかりと開けていた。あたしは振り返ってみると、ちょうどいつのまにかあたしの隣に座っていた赤也があたしの卵焼きを食べているところだった。そしてのんきに「この卵焼き美味いっすね〜。甘さもちょうどいい」なんて言っていて。


「おい、赤也!それオレが狙ってたんだぞ!」
「えっ!?」
「違う!あたしのでしょ!なんでみんなそうやって普通に人のおかずとっていくのよ!」


あたしの言葉に最初に真奈美のおかずをとった仁王はしらんぷり。真奈美はぽかんと開けていた口をもっと開けて大笑い。ジャッカルと柳生くんは苦く笑っていて。当のブン太と赤也は悪びれもせずに自分のお弁当を食べ始めた。諦めたあたしは自分のお弁当の中を覗き込んで卵焼きはなくなっているのを確認。あぁ、きれいに焼けた自信作だったのにな、とがっかりした。ため息をつけば左からハンバーグ、右からウインナーが差し出されていて。気づけば、さっきのがっかりはどこへやら。あたしの頬はゆるゆるになってしまっていた。




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