今日は球技大会当日。初めて見た時は驚いた鉄人サーブも今では拾えるようになった。毎日練習に励んだおかげだと思う。あの練習初日、みんなのバレーを見て普通じゃないと思った私は帰ってすぐに弥生に話そうとした。でも、帰ってきた私を「おかえり」と迎えてくれた弥生の顔はなんだか元気なくて。なにかあったのか、と思った。でも聞かないでほしいと雰囲気が語っていたから私は聞かないでいた。そういうのはなんとなく分かってしまうんだ。弥生のことは特に。それから、ずっと弥生はなんとなく元気がない。表面上はいつもと変わらないのだけれど、ふとした瞬間に表情が憂いを帯びる。でも、私は未だにそのことについて聞けずにいた。


「お前もバレーかよぃ?」


男女のバレーの会場である体育館を見渡せる2階のアリーナで自分のクラスの試合を待ちながら、1人で緊張していた。応援とか、試合での声かけで体育館には声が溢れている。そんな中で私に話しかけてくれる声を見つけた。その方向へと顔を向けると、ブンちゃんがいつものようにガムを噛みながら立っていた。「うん」と答えると「そっか」と言って自然と隣のスペースにするりと入り込む。そして、そのまま彼はだらしなく手すりに寄りかかった。


「真奈美、もしかして緊張してんの?」


ずばりと言い当てられて心臓がドクンと大きく動いた。答えられなくてハハハと乾いた笑いを零してごまかそうと思ったのだけれど、ブンちゃんにはお見通しだったみたいで「やっぱ緊張してんのか」と言った。私は小さく「うん」と頷いて、ブンちゃんは「そっか」と言った。それから少しの沈黙。


「あ、次俺のクラスだわ…」


男子の方のコートで試合が1つ終わった。それを見ていたブンちゃんが呟く。そして、コートに向かおうと手すりに寄りかかっていた体を起こして伸びをした。そのまま階段の方へ向かって行く彼の背中に向かって私は言った。


「が、頑張ってね!」
「おぅ、俺様の天才的な妙技見てろよぃ?」


その声に振り返ったブンちゃんはジャージのポケットから手を出して、その手を銃に見立てて私の方へ向けた。その顔は自信に満ちあふれていて私は笑ってしまった。


―――――☆


ブンちゃんのクラスの試合が終わった。私はその試合に釘付けになってしまった。この世界のスポーツは今までいた世界よりもボールの速度や角度、威力、そしてジャンプ力など、桁外れにすごいことは分かっていた。けれど、それでも目が離せなくなってしまうくらい、まばたきをすることすらもったいないと思うくらいに迫力のある素晴らしいものだった。特にブンちゃんが上げたボールが鉄柱に当たってから相手のコートに入る技。最初は鉄柱に当たってそのままコートの外に落ちてしまうのかと思った。でも、そんなことはなく、ボールは相手のコートの中に吸い込まれるようにして落ちていった。私の目はブンちゃんを必死で追った。試合の前に彼の言っていた天才的という言葉の意味が分かった気がする。試合はブンちゃんのクラスの圧勝だった。
そして、今度は私がコートに立つ番。私はブンちゃんのような天才ではないけれど、自分にできることは全力でやろう。あの日、誓ったんだから。気合いをいれるためにチームのみんなで手を重ねた。

試合が始まった。私は練習の時のように後衛のすみっこにいる。相手のサーブから始まった試合。ボールの弾む音、歓声、かけ声。色んな音が耳に飛び込んでくる。相変わらず心臓は大きく鳴っていたけれど、私は前を見据えていた。


必死でボールを追いかけていたら、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。あっという間の時間だった。私のクラスが勝って、初戦を突破する。一緒に戦ったみんなで抱き合って喜びを分かち合う。まだ一回戦が終わったばかりだったけれど、それでも嬉しかった。今までスポーツでの行事では足手まといにしかならなかったけれど、今回はリーダーの子が「頑張ってくれてありがとう」と私の頭を撫でたのだ。背が高くて活発なその子は今までの放課後の練習にもよく付き合ってくれていた。多分、運動が苦手な私のことをきちんと分かっていてくれていたんだと思う。「こっちこそありがとう。次の試合も頑張ろうね」と返せば、彼女はもちろん他のチームメイトも笑ってくれた。私はもっともっと嬉しくなって笑みが深くなってしまう。そして、コートからアリーナへと戻ろうとした時、銀色、茶色、赤の3色が並んでいるの目に入った。すぐにその3人と目が合って、見ていてくれたのかなと思いながら、そっちの方へと思い切り腕をあげてVサインを送る。そしたら、3つ仲良くならんだVの字が返ってきた。




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