お昼休みに柳くんと笑い合った後、私のおなかが盛大に鳴った。緊張が緩んだことで急に空腹を感じた。そういえば、まだお昼を食べていなかったんだと思ったと同時にどんどん温度が上がる私の顔。柳くんは控えめに声を出して笑った。


「俺も昼はまだ摂っていない。ここで一緒に摂ろう」


私はパンを持って来ていたけれど、柳くんはわざわざ1度教室に戻ってお弁当を取ってきてくれた。そこまでさせてしまったことに少しだけ罪悪感を感じる。そして、2人でお昼を食べ始めてから私は柳くんと2人きりだということを意識してしまった。でも、柳くんは私たちの転校についてはもうなにも聞いてくることはなくて、そのかわりにこれからある球技大会や期末考査のことを話してくれた。そのせいか私の柳くんへの警戒心はお昼休みが終わる頃にはなくなりかけていた。完全になくならなかったのはまだ信用してはいけないと言い聞かせたから。


―――――☆


「ねぇ、先生に呼ばれたんでしょ?なんの用事だったの?」


キッチンで料理を作っている弥生が聞いてきた。今日の当番は弥生だったから。私はちょうど洗濯物を取り込んで畳んでいる時だった。どきり、と心臓が大きく動いた。手を止めて、キッチンを見るとなにかを切っている弥生がいた。目は合わなかった。


「ただ学校に慣れたかーって」
「え、それだけ?」
「うん。私も拍子抜けしちゃった」


声が震えていないか、変に思われていないか心配だったけれど弥生はふぅーん、とだけ言った。この会話の間、弥生の料理を作る手が止まることはなかった。この世界に来て2人で暮らすようになって私たちは家事ができるようになったと思う。これまでは全部お母さんがしてくれてたもんなぁ。今畳んでいる制服のシャツだっていつでもきれいに洗ってあってシワ1つなかったし、お弁当だって毎日おいしかった。それが当たり前で私は感謝もしてなかったかもしれない。そう思ったらお母さんが少しだけ恋しくなってしまった。前の世界に戻ったら、ありがとうってたくさん言いたい。
やっとこの世界での生活にも慣れたと思ったとたんに自分たちに疑問を持つ人が現れて少しだけ疲れてしまった。きっと、それもあるんだろうなぁ、とシャツを握りしめた。お昼休みのことも私にしては勇気を出した方だと思う。なんであんなことを口走ったのかは分からないけれど。



「どうしたの?泣きそうな顔して」
「え、そんな顔してる?」
「うん。もう涙がこぼれそう」


弥生はやさしく笑った。「どうしたの?」って尋ねてくれる声まで優しい。自分の頬を触ってみたら涙はもう溢れてしまっていたのか濡れていてびっくりした。弥生はキッチンから出てきて私の前でひざをついた。それから「あぁ、もう」って言いながらティッシュを取って私の涙を拭う。なんだかお母さんみたいだ。



「なんか寂しくなった」
「前の世界思い出した?」
「うん、少しだけ。でも、やっぱり弥生がいるから大丈夫」
「そう?」


いつも甘えてごめんね、と笑いかけてくれる弥生に心の中で謝る。小さい頃から私は弥生に甘えてばかりで迷惑もたくさんかけた。それでも弥生は私と一緒にいてくれたからすごく感謝してると同時に申し訳なく思う。今回、今までいた世界とは違う世界に来たと言われた時は絶望ばかりだったけれど、弥生がいたからその絶望の中から出ることだってできた。


「そうだ、今日のお昼休みに赤也に会ってね。関東大会見に来てくれって」
「ほんと?楽しみだね」
「うん。だから、ほら泣き止んで」


私の頭を撫でる弥生の手がとっても優しくって私は思わず目を細める。ごめんね。ごめんね。大好きだよ。私が弥生にしてあげられることは少ないけれど、できることは全力でするからね。
「ありがとう」と笑ったら弥生もにっこりと笑って返してくれた。




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