お昼休み。私は柳くんを探していた。昨日テニス部のみんなと別れた後、ゆっくりと歩きながら弥生が追いつくのを待っていた。弥生は走ってきたらしくすぐに来たけれど、様子がおかしかった。顔は青白くて足下もふらついているよう。なにがあったのか聞こうと思ったけれど、それよりも先に弥生が私の肩を掴んで「柳があたしたちの転校について不審に思ってる!」と必死な顔で言った。すごく気になる内容だったけれど、人前で話す内容じゃないと思い、スーパーに寄る予定をやめてまっすぐに家へと向かった。手はしっかりと握られていたけれど、家に着くまで2人とも言葉を発しなかった。家に着いて詳しい話を聞くと確かに柳くんは私たちに疑問を持っているのが分かった。弥生の話を聞いていて私は怖くなっていた。きっと柳くんの言葉を直接受けた弥生はそれ以上に怖かったと思う。それでも「一応は理解したみたい。だから、これからは誰に聞かれてもあたしと同じように答えるのよ?」と笑う弥生。無理して笑ってるくせに。
そんなことがあったから私は今、柳くんを探している。いつも一緒にお弁当を食べている弥生には先生に呼ばれたと嘘をついた。お昼を食べ逃してしまうのは嫌なので、登校途中に買ったパンを持って教室を出た。でも柳くんがどこにいるか検討もつかない。とりあえず彼の在籍するF組を覗いてみたけれど、彼の姿はなかった。どうしたものか、ととりあえず歩みを進める。


「どうしたんじゃ?迷子か?」


キョロキョロしながら目指す場所もなく校舎の中を歩いていると後ろから声をかけられた。この独特な話し方は仁王くんだ。振り返ってみればやっぱり仁王くんが壁に寄りかかりながら笑っていた。私もそれに微笑んで返す。


「柳くんを探してるの」


傍に寄ってそう言えば仁王くんは不思議そうな顔をして「柳を?」と言った。多分、私と柳くんの共通点を探しているんだろう。柳くんとは会えば話すけれど、わざわざ会いに行くような間柄じゃないから。


「うん。教室にいなかったからどこにいるかなと思って」


仁王くんはポケットに手をつっこんでなにかを考えているみたいだった。あー、と声を出しながら上を向いて、壁に頭をごつんとぶつけた。そんな仁王くんを見て私はつい笑ってしまう。でもそんなのは気にしない様子で仁王くんは思い出したように「図書室」と呟いた。


「図書室?」
「多分な。いないかもしれん」
「ううん。ありがとう」
「柳になんの用があるんじゃ?」
「んー。秘密」


冗談めかしてそう言えば仁王くんは納得いかないというように眉を寄せた。ごめんね。教えることはできないの、と心の中で謝る。そういえば前に弥生が仁王くんにも転校について聞かれたと言っていたことを思い出した。でもこれは私や弥生、本人でも本当のことが分かっていないことだ。
私は仁王くんと別れて図書室へと向かおうと歩き始めた。そして、あることを思い出して振り返る。まだこっちを見ていた仁王くんと視線がぶつかった。


「ごめん。もう1つお願いがあるんだけど…」
「なんじゃ?」
「私が柳くんのことを探してたのは弥生には秘密にして。あとここで会ったことも」


仁王くんは少し考えた後に「分かった」と笑った。だから私は「ありがとう」と言ってまた図書室へと向かって歩き始める。
図書室についてみると柳くんを探し始めた。昼休みが始まったばかりだからか、人の姿はまばらだ。どんなジャンルが好きなのかもよく分からないので、1つ1つの棚を見て回る。すると、純文学のおいてある場所に柳くんはいた。ゆっくりと近づけば、声をかける前に柳くんは振り返った。それに驚いて私は肩を揺らす。室内の静けさに合わせた小さな声で「驚かせたか。すまない」と柳くんは謝る。私も声をひそめて「ううん」と返した。そして、続けて「話があるの」と言えば、柳くんは読んでいた本を閉じて黙って頷いた。図書室から出て近くにあった空き教室に入る。


「話はなんだ?」
「柳くん、本当は分かってるでしょ」


椅子はたくさんあったけれど、私も柳くんも2人とも立ったままだった。私は窓際に立ってカーテンを掴む。柳くんはさっきの仁王くんのように壁にもたれかかっていた。違うところはその背筋が伸びているか、伸びていないかである。


「なんだ、転校について話してくれるのか?」
「やっぱり弥生の説明で納得してないんだ?」
「まぁな」
「本当のことなのになぁ」


私は笑ったけれど、柳くんは無表情のままだ。無言でなにかを訴えかけられているような気分になる。だから私も笑うのやめた。


「弥生のこと、あんまりいじめないでね」


そう言った瞬間、柳くんの目が開かれた。その表情を見て私はまたさっきのように笑いかける。


「いじめたつもりはないぞ。俺はただ真実が知りたいだけだ。だから矛盾点を指摘したまでだ」
「真実を知りたい…か。でもまだその時じゃないよ」
「じゃあ、いつか教えてくれるというのか?」
「さぁ?私も弥生も本当のことなんて知らないもの」
「どういうことだ?」
「秘密」


柳くんは困ったようにため息をついた。


「でももしも私たちがその秘密を抱えきれなくなった時はよろしくね」
「その時が来れば…な」
「弥生は無理しちゃうから心配なの。柳くんはきっとそういうのめざといでしょ」


冗談ぽく言えば柳くんは「それはお前もじゃないのか?」と笑った。さっきまで眉をハの字にして困ったように笑っていたのに。でもいつのまにか私も笑ってた。きっと柳くんと同じように困ったような表情をしていただろうに。
弥生がせっかくごまかしてくれたのに私はなんでこんなことを言ってしまったんだろう、と自分で自分に問いかけた。ただ柳くんに警告しにきただけだったはずなのに。けれど、答えが返ってくることはなかった。




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