最近、俺と柳生はギクシャクしていた。理由なんて分かりきってる。きっと柳生だってそうだろう。次に控えているのは関東大会。それなのに俺たちは簡単なミスばかり。このままでは勝てるかさえ分からない。今はそれくらいに危ない状況だということ。
部室で着替えていると先に着替え終わった丸井とジャッカルが出て行ってしまった。柳生と2人きりになってしまう。それになぜか気まずさを覚えた。今まで感じたことなどなかったというのに。柳生も同じように苦痛に感じたのだろう。お互いになにも言葉を発することなく早々に着替え終わる。しかし、そのタイミングまで一緒で少し笑えてしまった。
部室を出ると丸井が真奈美に手を振っているのを見つけた。俺と柳生もそれに習う。その後に聞こえた真奈美の大きな声援。そして、幸村に誓ったことを思い出す。俺たちは無敗で全国三連覇を目指しているのだ。このままではいけないと思い直した。


「柳生、ちぃと話がある。付いてきてくれんか?」


丸井とジャッカルのペアとの練習試合、また俺と柳生は互いに些細なミスをした。試合には少しの差で負けた。きっとそのミスがなければ勝てていただろう。試合が終わり、ベンチへと向かう柳生に駆け寄った。真田に「たるんどる!」と言われてのビンタはごめんなので、すぐにコートから見えない部室の裏へと移動した。そこは太陽の光が直に当たらない日陰のために空気がひんやりとしていて気持ちがいい。


「なんなんですか?仁王くん。こんなところまで連れてきて」


柳生は俺を不信そうな目で見ている。俺はそれをちらりと見た後で背を向けた。正直、昼休みに真奈美を連れていってしまった柳生に苛ついたりもした。先に出会ったのが柳生だということに嫉妬だってしているし、俺だけクラスが違うということに焦りも感じている。全て仕方のないことで、どうしようもないことなのに、それを感じてしまうのはなぜなのか。人を好きになるというのはこんなものだったのか、と少し驚いてもいる。けれど、それと同時に柳生は俺の仲間であり、ダブルスのパートナーでもあるのだ。


「俺たちが最近不調なのはみんな知っちょる。柳生、おまんはその理由分かっとるじゃろ?」


少しの間答えを待ったが柳生は黙っていた。背を向けていた柳生の方へと向き直ると視線がぶつかた。柳生の視線は思っていたよりも鋭く、俺は少したじろいでしまったが、そんな素振りは見せないように注意して、見つめ返した。そして、そのまま話を進めるために口を開く。


「俺は分かっとるよ。このままだと俺らは次の試合勝てん。それだけは絶対に嫌じゃろ?」
「えぇ、もちろん。我々は無敗で全国制覇をしなければなりません」
「あぁ、俺だって嫌じゃ。だからこのままじゃといかん」
「私もそう思っていました」


やっぱり分かっていたんじゃないか―と思ったけれど、それは心の中だけにとどめておく。視線はぶつかったまま。空気はこれ以上ないというくらいに固まっていて重い。柳生が眼鏡を上げた。


「俺は真奈美のことが好きじゃよ」
「それは…私も同じです」


知っていながら黙っていたことを2人で声に出した。その一言を発するだけで喉が妙に乾いた。


「だからこれからは正々堂々と勝負せんか?」
「…!そう、ですね。ただし、手加減はしません」
「それはこっちのセリフじゃき」


俺がにやりと笑えば、柳生も笑った。そして、拳と拳をぶつける。心の中に埋まっていた鉛のように重いものが一瞬にして溶けてなくなったように感じた。そして、やはり柳生は今まで通りに信頼できるパートナーであると思い直す。


「負けても文句なしぜよ」
「そのままそっくりお返しします」


その日のそれからの練習ミスはゼロだった。部活が終わり、着替えていると丸井が俺と柳生の間に入り、肩を組んでくる。身長差のために俺と柳生は真ん中に寄せられるように体がよろける。


「お前らっんとに心配させんなっつうの!俺らがどんだけ心配したと思ってんだよぃ」


丸井の言葉に俺と柳生は目を合わせる。そして、周りを見渡せば今まで共に戦い続けてきたレギュラーのみんながこっちを見て笑っていた。真田だけはいつもの仏頂面だったが。それに少しだけ呆気にとられたけれど心強いと思った。


「仲間を信頼しないとはたるんどる!」


真田の言葉に苦笑いし、またビンタが飛んでくるのかと身構えたがそんなことはなかった。そして、それに続いた言葉は「俺たちはこのまま無敗で全国三連覇だ」―。それを聞いた俺たちは無言で頷いた。




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