多分、こんな話をしても誰も信じてくれないと思う。だってあたし自身が信じることができていない。今までいた世界と違う世界にいるなんて。


ぱちり、と目が自然に開いた。そのまま、ぱちぱちとまばたきを何度か繰り返す。眠っていたのだろうか。はっきりとしない思考。モヤがかかったような視界。それでも記憶の糸をゆるゆるとたぐり寄せてみる。
違う。寝ていたんじゃない!あたしは友達と―真奈美と一緒に学校から家へと帰っている途中だったはずだ。いつものように学校の宿題がめんどくさいとか、少しずつ暑くなってきたとか、そんなくだらないことを話しながら。けれどそこから思い出そうとすればするほど、思い出せなくなる。途中で途切れてしまったかのようにぷつりと、その先が思い出せない。
そして、ここはどこなのだろうか。そう思い恐る恐る顔を上げてみれば、そこは家の中だった。あたしがつっぷしていたのは大きなテーブルでここはダイニングのよう。どこなのだろうか、と思ったと同時に一緒にいた真奈美のことが気になった。名前を呼びながらあたしは立ち上がる。


「真奈美!いないの?いたら返事して!」


あたしが眠っていたテーブルから少し離れたところに後ろ向きのソファが見えた。そのソファの前にゆっくりと回ってみると真奈美が目を閉じて横たわっていた。不安になってまた一歩近づけば胸がゆっくりと上下していて、ただ眠っているだけということが分かった。それに少しだけ安心した後にここはどこなのだろうか、という恐怖が大きくなる。
知らない場所、そこに知らないうちにいたあたしたち。怖くなって真奈美の肩を掴んで揺らすと、すぐに起き上がり目をこすりながらあたしの名前を呼んだ。


「弥生…」


あたしの顔をはっきりと捉えた後に周りを見渡して目をまんまるにした。ここはどこ?震える声であたしを見上げて問いかけてきた真奈美にあたしはなにも答えることができない。


「あたしにも分からないの」
「私2人で帰ってたところまでしか覚えてないんだけど…」 
「あたしもそうよ」


会話が途切れた。ゆっくりと真奈美が起き上がると、あたしの奥になにかを見つけたらしく目を大きく開いて「あっ!」と指差した。なにがあるのかと指差す方を見てみると真奈美の寝ていたソファの前にあるテーブルの上に白い封筒があった。そこには大きくあたしと真奈美の名前が書いてある。滝沢弥生様、石橋真奈美様と。さっきは気が動転していて気づかなかったのか。
2人で顔を見合わせてからあたしは真奈美の横に座って封筒を開けてみた。中には手紙が入っていて、それを取り出して2人で顔を寄せ合いながらその手紙を読んだ。
あたしの心臓は今まで感じたことがないくらいに早く動いていて、その音しか聞こえないみたい。手紙を持つ手もかすかに震えている。無意識のうちに唾を飲み込んだ。


 あなたたちはきっと今自分たちが置かれている状況を理解できずに困っていることでしょう。しかし、この手紙にかかれていることをどうか信じてほしいのです。
今あなたたちがいる世界は今までいた世界とは違います。信じられるようなことではないと思いますがそれが真実なのです。ほとんどが今までの世界と同じですが生活していくにつれてきっとその違いを感じていくことになるでしょう。
そして今はまだあなたたちを元の世界に還すことはできません。しかしこの世界にいる準備はきちんと整えておきましたので、その点はご安心ください。今あなたたちがいる家がこの世界でのあなたたちの家です。お好きにお使いください。
なぜこのようなことになったのかという理由についてはまだ話せませんが、この手紙を書いている私たち組織に責任があるということだけは確かです。生活を保証するということでしかあなたたちに償うすべは今の私たちにはありません。いずれ時が来た時にすべてを話そうと思っております。その時にきちんとお会いしましょう。



手紙を読んで愕然とした。とても信じられるようなことではないのだ。真奈美の顔も青ざめている。
新手のドッキリなんじゃないかと2人で家の外に出てみた。しかし、そこはどこにでもありそうな住宅街で、空もあたしたちの知っている青い空。今出てきた家もどこにでもあるような普通の一軒家。そのありふれた景色にあたしたちの力が抜けて行くのが分かった。
もうどうすればいいのか分からなくなり、家の前で立ち尽くしていたあたしたちはとりあえず家の中に戻ろうと引き返す。振り返り、門を開こうとした時に見えた表札にはあたしたち2人の名前が書いてあった。あたしたちはどこにでもいるような中学生で、ついさっきまで平凡な生活を送っていた。そんなあたしたちにこんな大掛かりなドッキリをするはずがない。メリットなんてなにもないのだから。
家の中に戻りあたしの眠っていたテーブルに2人で向かいあって座る。さっきから会話はなく、真奈美の顔は青いままで泣きそうになっているのが分かる。あたしたちは小さい頃から一緒だった。だから言わなくても分かる。こんな時にあたしがしっかりしなくては、と思った。そして、それと同時に真奈美がいてくれてよかったとも思う。これ以上に心強いことはないもの。


「なんかよく分かんないことになったね。でもあたしは真奈美と一緒でよかった」


テーブルの上で指を絡ませて震える真奈美の両手を握って、笑いかけながらそう言った。そうすれば、真奈美の顔が上がってその大きな瞳であたしの顔をとらえる。その瞳は震えて、そして笑った。


「そうだね。私も弥生がいれば頑張れるよ」


ほら、真奈美の笑った顔が私の心を安心させる。2人ならきっと大丈夫。そう思ったの。本当よ。




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