始まりはただのあたしの気まぐれだった。

あたしは自分で言うのもなんだけど、本能に忠実な性格だと思う。やりたいと思ったことは実行しなきゃいてもたってもいられなくなってしまうし、興味のないことには見向きもしない。だから、本当にあれもただのあたしの気まぐれだった。

ある日曜日。部活が休みなんて珍しく、なんの予定もないのなんて久々すぎてどう過ごせばいいのかと、ベッドの上でぼぅっとしていた。そうしたら、急に家具の位置が気になりだしてどうしようもなくなった。14年間も生きてきたし、あたしは自分の性格も分かっている。計画もなんにもたてていないけれど、あたしは1人でいそいそと模様替えを始めたのだ。
家具を移動させるためにはまず動かせるようにしなければ、と机の中身を出してみる。そして見つけたのは新聞部が発行している学校新聞。結構前に発行されたものでこんなものもあったけ、と眺めてみる。ちょうど載っていた小説の連載第1話目。あたしはさっきまでの家具の位置の違和感も忘れて学校新聞を持ってベッドへダイブした。ボフン、とあたしの体を受け止めた布団から空気の抜けた音を出す。あたしはそのままその小説―毒草聖書を読み始める。1話にそんな長さはなく、すぐに読み終わってしまった。けれど、その短い文章の中にはたくさんの知識が詰め込まれていたし、ミステリな内容に謎がたくさん含まれていた。あたしは「毒草聖書」の物語にすっかり引き込まれてしまっていた。続きが気になってベッドから飛び起きて、机の中を漁る。さっきとは目的は違っていたけれど、あたしは真剣だった。そして、連載第2話目から最新話が載っている学校新聞を掘り当てた。ただめんどくさくて、そのまま適当に詰め込んだだけだったのだけど、とっておいた自分を褒めてあげたくなる。そして、全部をいっきに読み終えたあたしはベッドに横になってふぅ、と息を吐いた。読後感は最高だ。続きが気になって、変に高揚してしまっている。今まで興味のなかった学校新聞をあたしは待ちわびていた。


「白石蔵ノ介…」


作者の名前を呟いてみる。あたしはドクドクとなる自分の胸を押さえた。この物語を書いた人物のことが気になり始めている。この文章を書いた人が同じ学校にいるのか、と思うとワクワクした。物語の中にも字は違うけれど、同じ名前の主人公がいる。彼のように作者本人も知識に溢れてスマートなのだろうか。いや、きっとそうに違いない!と勝手にきめつけた。あたしは顔も知らない作者のことを想像してみては胸を弾ませた。




「なぁ、財前」


次の日の休み時間、隣の席で携帯をいじっている彼の名前を呼ぶと気怠そうに視線だけをこちらに向けた。それを合図にあたしは話しかけた目的を口にする。


「白石蔵ノ介さんてどんな人?同じテニス部なんやろ?なぁなぁ、教えてやー!」


あたしの言葉を聞いて無表情だった財前に表情ができた。それはうざいといった感情を隠すこともせずに全面に押し出している。
実はあたしはあのあとも余韻に浸りながら学校新聞を眺めていた。すると別の場所にも「白石蔵ノ介」という名前があることに気づいた。そこは運動部の活躍を載せている場所で、テニス部の部長だということが分かった。そして、そこでもう1つ知った名前を見つけたのだ。財前光―隣の席で厭味を言い合うあいつ。正直な話、あたしは財前がどの部活に入っているのかなんて知らなかった。興味がなかったから。でも、財前と白石蔵ノ介さんが同じ部活と知ってしまったら、ここは財前を情報源とするしかないと思った。厭味を言われることは間違いないけれど、突っ走ったあたしを誰も止めることはできない。それは自分でさえも。厭味の1つや2つ、今の動き出したあたしには効果はないのよ!


「安西、おまえ。部長のこと知らんの?」
「知らんから聞いてるんやろ。有名なん?」


問い返すと財前がため息をついた。これでもかというくらいにわざとらしく大きく。馬鹿にされているのが分かって、正直かなりいらついた。眉がピクピク動くのがわかったけれど、ここは大人しく情報を貰おうと笑顔を貼り付け猫なで声で名前を呼んだ。


「財前く…」
「財前!」


否、呼ぼうとした。あたしの声を覆い隠すかのように重なって財前を呼ぶ声。あたしと財前が同じようにその声がした方向に振り返る。そこには教室の後ろの出入口から入ったばかりの色素の薄いきれいな髪をした端正な顔の男の人がいた。見たところ1つ上の3年生だろう。あたしは思わずその人に見とれてしまった。でも、それはあたしだけじゃない。この教室にいる女子のほとんどがあたしと同じように視線をそのきれいな男の人に奪われている。そして、あたしは思った。財前に近づいていくその人を見て、白石蔵ノ介さんがこんな人だったらいいのに、と。
けれど、その願いはすぐに現実になる。あたしは見つけたのだ。財前とあたしの間に入るようにして歩みが止まった彼の左腕には「毒草聖書」の主人公―内蔵助と同じように包帯が巻かれていることを。そして、そのことを裏付けるかのように財前が彼を指差してあたしに言ったのだ。


「こんな人やで」




HITOMEBORE




title/深爪
2012.05.05
2013.03.09




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