わたしは昨日あれから奈緒ちゃんがどうなったのか気になっていた。明依は一緒に残ったのだろうか。明依はあんまり恋愛の話をしない。というか、興味がないのを知っている。だからきっと奈緒ちゃんの気持ちにも気づいていないだろう。でもそれをわたしがしゃしゃり出て説明するのはおかしいので黙って見守るしかない。
部活が始まってすぐのこと。わたしは萌ちゃんと仕事の分担について話していた。近くには白石くんがいて、そこに財前くんがやってくる。そして白石くんにそっと「安西が今日は部活の用事ができたからええって言うてました」と言ったのが聞こえてしまった。なんで財前くんが?と思ったけれど、そういえば昨日二人は同じクラスだと言っていたっけ。自分でも気にしすぎだと思いながら、白石くんの顔を見てみると少し思い詰めたような表情をしていて。余計にわたしは昨日のことが気になって仕方がなくなってしまった。


久しぶりに明依と二人で帰り道を歩いていた。でも明依の顔は暗い。久しぶりだと言って喜んでもらえると思っていた自意識過剰なわたしは少しがっかりしてしまった。金ちゃんに連れ出してもらえるのも嬉しいし、それで明依が寂しがると罪悪感が湧く。そしてちょっとだけ嬉しくもなっていたのだ。そんな自分に気づいて自分勝手だ、と改めて思った。


「なんかあったん?」


そう聞けば明依は顔を勢いよくこちらに向けて「話してもええ?」と言う。わたしはもちろんだと言うようににこりと笑った。そうすると明依はいつもよりも力のない顔で笑顔を返して、そのまま話し続ける。


「白石とか謙也とか仲のいい友達がモテてるの嬉しかってん。それくらいいい人ってことだから。でもなぁ、そうやってうちが仲良くしてると悲しくなる人がいるなんて気づきもせんかった」


思ってもいなかった内容でわたしは驚いてしまう。でもそう言って唇を噛み締める明依を見て、きっと気づいたんだと思った。奈緒ちゃんの気持ちに。明依はモテる白石くんや謙也くんと同じクラスですごく仲がいい。たまにわたしの方が妬いてしまうくらいに。謙也くんとは軽音楽部も一緒だし、白石くんとは特に仲が良くてわたしが金ちゃんと寄り道している時はほとんど二人で帰っているみたいだった。多分、明依は男女だとか、恋愛対象だとか、そんなことは考えていなくて、純粋に友達として接しているのだと思う。でもそれは彼らを好きな女の子たちには関係がなく、今までも嫉妬の対象になっていた。それでもそういったものをかわしてこれたのはもちろん白石くんたちの対応もあるけれど明依の恋愛に対する鈍さがあったからだとわたしは思っている。でも今その鈍さについて明依は悩んでいて、わたしは返事に詰まってしまう。わたしは明依は鈍感だからと決めつけていた。奈緒ちゃんの心配ばかりして、わたしから言うのはでしゃばりだと思い込んで。白石くんとの友情のことも考えずに。でも明依はきちんと自分で気づいて、そしてこんなにも苦しんでいる。そんなことも考えなかったわたしはバカだ。少しの間、沈黙がわたしたちを包んだ。


「なんで望美が泣きそうになってるん?」


わたしの顔を覗き込みながら明依が言った。思わず「泣きそうちゃうよ」と言って目元を拭ってしまう。そんなわたしに明依は「誤魔化すのが本当に下手やなぁ」と笑う。


「うちはきっと今までたくさん傷つけてきたんやなって思ったらなんか柄にもなく落ち込んでしまってん」


そう言って視線を落とす明依に本当にわたしの方が泣きそうになってどうするんだと思た。でも誰も悪くないからこそ、なんて声を掛ければいいのか分からない。奈緒ちゃんの恋は応援したいけれど、明依と白石くんの友情を壊したい訳でもない。その両立はできないのだろうか。


「もうそんな悩まんといて〜」
「だって…明依が悪い訳やないやん」
「ええよ、もう。うちは白石にも謙也にもかわいい彼女ができたら嬉しいもん。だから応援するって決めたんや」


ふふんと少し誇らしげに明依は笑う。でもその後すぐにため息をついた。「ほんの少し寂しいけどな。少しだけ!」と言って。


「望美も好きな人できたら教えてな!応援するで!」


わたしは明依の言葉にぎこちなく笑うことしかできなかった。わたしは金ちゃんと明依のよく言えば純粋さ、悪く言えば鈍感さを重ねていたけれど、明依は気づき始めたのだ。けれどできることならわたしの気持ちには気づかないで、と思う。この誰にも言うつもりのない気持ちを。でももしもそれに明依が気づいてしまったら黙っていたことを怒るのかな。それとも今と同じように悲しむのかな。そう考えるとやっぱり気づかないで欲しいと思ってしまう。横にいる明依を見るとさっきよりも少しだけ明るい顔をしていた。
なんで恋と友情は両立できないのだろうか、とふと思う。明依と白石くんが仲のいいまま奈緒ちゃんの恋が叶えばいいのに、と虫のいいことを考えた。なんて、千歳くんを探しに行った時に金ちゃんと明依が一緒に行動していることにさえ、羨ましいと思ってしまったわたしが言えることじゃない。誰かが悪いわけじゃない。誰も悪くない。明依とはずっと一緒にいた。誰とでも仲良くなれるいいこで大好きな一番の友達で悲しい思いはしてほしくない。奈緒ちゃんは映画部のかわいい後輩でわたしを慕ってくれていて好きな人に対しても行動をきちんと起こしていて応援したくなる。そんな2人が向かう先が明るいものでありますように、とそう願った。




祈りにも似た、




2021.12.15




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