わたしは見た瞬間に気づいてしまった。奈緒ちゃんが白石くんのことを好きだと言うことに。とろけるような視線で白石くんを見つめる奈緒ちゃんを見たらすぐに分かってしまった。二人が並んでいるのを横目で見て、少し居心地が悪いなと思ってしまう。お邪魔だったかな、なんて。

テニスコートについてすぐにたこ焼きを食べる約束をしていた金ちゃんのあたしを呼ぶ声が聞こえて安心してしまった。でもそれは束の間のことで。「今日は千歳も一緒でええか?」と聞かれて、なぜか今三人でたこ焼きを食べている。結局わたしは居心地の悪さを感じていることに変わりはなかった。
千歳くんはわたしが金ちゃんのことが好きだと言った。すぐにからかわれたのだと気づいたけれど。それでも千歳くんの前で金ちゃんと一緒にいるのは緊張してしまう。なにか変なことを言われるんじゃないかとか、またからかわれてしまうんじゃないかとか。そんなことばかりを考えてうまくたこ焼きを食べることができないし、ここに来るまでの道もなにを話したのかよく覚えていない。今日はこれを楽しみにしていたんだけどな、としょんぼりした気持ちになってしまう。


「なぁ、望美!聞いてるんか?!」


たこ焼きに爪楊枝をぷすりと刺したところで耳元で金ちゃんの大きな声。思わず体をびくりと震わせてしまう。「ごめん。ちょっとぼーっとしとったわ」と謝れば、隣に座っていた金ちゃんは頬を膨らませた。ふと斜め前に座った千歳くんの方を見ると、わたしを、わたしたちを優しい瞳で見つめていた。予想していたような意地悪な視線なんかじゃなかった。目を合えばにこりと笑ってくれて。わたしは少し反省する。


「だからな!千歳の下駄は片足6kgあるんやで!」


わたしが聞いていなかった話を金ちゃんがもう一度話し始めたけれど、その内容に驚いて目を見開く。思わず「えっ!」と叫んで千歳くんを見れば、くつくつと喉を震わせて笑っていた。「なっすごいやろ!」と金ちゃんはまるで自分のことのように自慢をしていて。わたしは何度も首を縦にふった。わたしだったらそんなの履いたら歩けないよ。


「なんにもすごかことなんてなかばい」


千歳くんはそう言ったけれど金ちゃんは千歳くんの話を止めなかった。わたしが知らなかっただけで意外と千歳くんはストイックなところがあるらしく、3日間ぶっ続けで試合をしたとか驚くことばかりだった。わたしの中の千歳くんの見る目が少し変わった。ただ無理だけはしないでほしいとは思ったけれど。
そして、金ちゃんが千歳くんを慕っているのが分かった。わたしが勝手に苦手に思っている間に金ちゃんは千歳くんとの距離を縮めていたんだ。そういえば、二人はテニス部の歓迎会で即興漫才をしていたっけと思い返した。わたしの中で千歳くんのイメージが少しずつ変わっていく。


「あとな、あとな!美味いたこ焼きの研究もしてくれてるんやで」


口の端にソースをつけた金ちゃんが言う。さっきまでの話とはあまりにも毛色が違っていて、一瞬思考が止まってしまった。


「いやぁ、これが意外と奥が深くて…」
「よろしゅう頼むで!」


しかし、当の本人たちは笑っていて。そんな二人を見ていたらわたしもいつの間にか笑っていた。


「でも金ちゃん。俺にそれを頼んでおいて自分は東海林さんと二人でたこ焼き食べ歩いてたのはこすかね」


空を仰いでわざとらしくため息をついて千歳くんが言った。その言い方にどきりとしてしまった。だって、まるでわたしと二人で出かけてるのが羨ましいって言ってるみたいに思えたから。でもすぐに思い直す。いや、これは言葉そのまんまの意味なのだ。自分に美味しいたこ焼きの研究を頼んでいたのにその研究材料となるたこ焼きの食べ歩きを千歳くん抜きでしていたこと文句を言っただけなのだ。危ない危ない。勘違いをするところだった。ましてや、相手は前にわたしをからかってきた人なのだから。


「だって千歳おる時とおらん時があるやん」


金ちゃんのその言葉に今までの二人の時間はもしかしたらないものだったのかもしれない、と少し気分が落ち込んだ。さっきからドキドキしたり、安心したり、落ち込んだり忙しい。それがなんだか悔しくて爪楊枝を刺したままで放置していたたこ焼きを力強く頬張った。少し冷えていたけれど、それでも美味しかった。そして、ふと思い出す。千歳くんにからかわれた次の日。落ち込むわたしを金ちゃんが寄り道に誘ってくれたこと。あの日は千歳くんがいることを確認していたから、絶対にいたはずだ。そしてあの時、金ちゃんはこっそりとわたしを誘い出してくれた。その時には気づかなかった金ちゃんの気遣いにわたしは今度は胸を熱くした。本当に忙しい。


「せや!今度、千歳ん家でタコパしようや!!」


一人で勝手に感情を走り回らせていたら、急に金ちゃんが提案した。それに千歳くんが「それよかね」と乗った。


「千歳は寮に住んでるんやで」


わたしが二人の顔を交互に見ていると金ちゃんがまるで自分のことかのように言った。「この間なんて洗濯機壊しとったで」と最後に一言付け加えた。千歳くんが家事をするのはあまり想像できないと思ってしまった。


「東海林さんは来ん?」


今日を楽しく過ごせたわたしは行きたいと思ったけれど、寮とはいえ一人暮らしの男の人の家に女子一人で行くのは憚られてしまったので咄嗟に「明依のことも誘うてみる!」と言ってしまった。いつも断られているのに。そしたら金ちゃんも「白石も誘おうや!」と言った。そしてどんどん増えていくメンバー。きっといつもこんな風に集まっていたんだろうなと思った。
本当は今日も明依のことを誘ったのだ。千歳くんも一緒なのが怖かったから。でも明依はわたしの誘いを断った。いつも金ちゃんと二人の時に誘った時、断られて正直ホッとする自分がいた。それなのに今日は一緒にいてほしいなんて虫のいい話だ。自分でも最低だと思う。明依は今どうしているんだろうか、と思う。奈緒ちゃんと白石くんと一緒にテニスでもしてるんだろうか。テニスが大好きで、そういうことに疎いあの子ならありえるなとちょっと心配になってしまう。奈緒ちゃんの邪魔をしていなければいいなと思った。
楽しそうに計画を立てる金ちゃんと千歳くんを見る。当然だけどそのメンバーはテニス部が中心で奈緒ちゃんの名前はない。頑張ってほしいと思うのは自分がなんにも行動できていないからそれと比べてしまっているのだろうか。


「いつにしよか?」


ワクワクしながら金ちゃんが言ったけれど、週末から大会が始まるし難しそうだと思った。そう言えば、金ちゃんの眉毛は下がってしまう。


「大阪府大会終わってからにせん?」
「せやな!優勝祝いや!」


そんな風に言い切ってしまう金ちゃんがおかしくて。それは千歳くんも同じようで目があった瞬間に吹き出した。金ちゃんは当たり前だろうと言う顔をしている。楽しいと思った。こんな風に千歳くんと視線を合わせて笑うことができるなんて。今日で大きくイメージが変わった。今日は来てよかったと最初に感じていた不安はいつの間にかなくなっていた。




きみの目隠しを外してあげる




2021.03.30




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