男子テニス部のマネージャーというと羨ましいか面倒くさそうという意見に別れる。前者はイケメンに囲まれているからという理由で、後者はそれゆえにある同性からの妬みについてとあとは本当に単純にそのままの面倒くさいという理由だ。私だって本当はめんどくさいと思っていたし、今だって辛いと思うことはたくさんある。妬みだってもたれたこともあるし、あることないこと噂されたこともある。それでも、続けて来れたのはできることが増えていく喜びと、オサムちゃんに対する恋心、そして確かなやりがいだった。部員のみんなは私を受け入れてくれたし、時には私を励ましてもくれた。仲間―というものを持つのはこういうことだったのか、と思った。長く続けていけば分かってくれる人はいるのだろう。妬みが原因の嫌がらせも今では大分減った。
それでも今でも苦手なことがある。今でも…というと少し語弊があるかもしれない。それはサボる千歳を探しにいくことだった。この四月から新しく仲間に入った千歳は少し異質な存在だった。この学校の空気もあるのだろう、すぐに馴染んだけれど、サボリ癖があって、どこか飄々としていて掴みどころがなかった。同じクラスだけれど授業の出席率も低い。それでも部活には来ていたり、鞄はあるはずなのにテニスコートにはいなかったり。荷物はあるのに部活に出ていない時は私が探しに行くことが主だった。どこを探してもいなくて、テニスコートに戻ってきたらいたりなんかして苛ついたこともあった。行かなくてもいいじゃないか、と思っていかなければ終わる時間になっても来なくて鍵が閉められないなんてこともあって本当に困ってしまう。
昨日も千歳の鞄は部室にあった。けれど、やっぱり姿が見えなくて。私は発注していた備品の準備をしなければいけなくて、望美に千歳を探すことを頼んだ。そうしたら、すぐに連れてきたものだからびっくりしてしまった。ちょうど練習試合が千歳の番になるというところで、もう来なかったら相手には悪いけれどとばしてしまおうと言っていたところだった。けれど丁度よく来てくれたおかげで順番通りにできることになった。急いでいたからきちんと望美にお礼を言うことはあまりできなかったから、その日の帰りにもう一度お礼を言った。そうすれば望美は笑って「どういたしまして。わたしも萌ちゃんにはいつもお世話になってるから」と言った。いい子だなぁ、と思いながらも図々しく私はお願いしてみることにした。また千歳を探すのを頼んでもいいか、と。私はどうしても苦手なのだ、と。きっと望美なら快諾してくれるだろうと思っていた。そんなことを計算しながらお願いしたのだ。けれど、返事は私が思っていたものとは違っていた。


「う、うぅん…」


申し訳なさそうに眉をハの字にして、歯切れの悪い言葉。いつも「いいよ〜」と少し間延びした返事をすぐにくれるのに、今回はそうもいかないらしい。こちらに気を使ってることがよく分かって逆にこちらが気を使ってしまう。慌てて「私が手が離せない時だけでいいの」と言った。さっきまではずっと任せようみたいな魂胆があったし、実際にそういう言い方をしてしまったのだけれど。きっと望美もそれは分かっているだろう。それでも「うん。それなら…」と笑ってくれた。

おかしい。絶対におかしい。昨日は二つ返事だったというのに。そう思った私は珍しく朝から来ていた千歳の前の席を陣取って話しかけた。その席の子は私同様に他の席に行って話し込んでいるから支障はないだろう。千歳は大きな体には学校の机は小さく見えて窮屈そうだ。しかし、窓際一番後ろのその席は外の空を千歳に映していてぴったりな席だと思う。


「ねぇ、昨日望美になにかした?」


私が前置きもせずにずばりと話を切り込む。それでも、千歳はいつもと同じ朗らかな笑みを浮かべたままだった。のんびりと「なんもしとらんと」と言う。私は疑った眼差しをそのままなにも言わずに向ければ、さすがの千歳も眉を眉を寄せて困った顔をした。逃げるように視線を教室の外の廊下へと移す。すると、その瞳はなにかを見つけて優しく微笑んだ。


「東海林さんはかわいかぁ」


ゆっくりとそう言った。優しさを映した瞳のままで。私はすぐに私はその視線を追ってみれば、教室移動なのだろう、望美がすぐに目に入った。私はその瞬間に千歳の気持ちが分かってしまった。
好きなのとつい口に出して聞いてしまえば、視線をこちらに戻した目は驚いたようにまんまるで。そのままさっきみたく、困ったように切ないように眉を寄せて首を横に降った。


「東海林さんは俺の前じゃ笑ってくれんと」


噛み合っていないような会話だったけれど、私はなにも言えなかった。千歳はすぐに笑ったけれど、私は笑い返すことすらできない。そのまままた視線を廊下の方へと戻した。もう望美の姿はどこにもなかった。
いつも笑ってなんでも引き受けてくれる望美はなぜ千歳を避けているのだろうか。千歳の悲しそうな微笑みに私は自分の辛い恋心を重ね合わせた。千歳は否定したけれど、その表情が語っていた。お互いの状況も相手の立場も全然違う。それでも、きっとほろ苦くて、ぎゅうぎゅうと締め付けられるような苦しみはきっと同じなのだ。
廊下に視線をやったままにしていると見慣れた脱色した髪が見えた。そして、この痛みは彼にもあるのだろうか、と思うと、オサムちゃんを見る時とは違う胸の痛みがあって、私は唇を噛み締める。みんな口には出さないだけで、こんな想いをしてるのかな。恋って辛いことや痛いことが多いのかな。なんて、とりとめのないことを考えてしまうけれど、次の授業がオサムちゃんの担当だと気がついてしまえば、胸は痛みながらも弾むのだ。千歳だって望美を見つめる瞳は優しくて、でも痛みも堪えてる。きっとそうやってみんな恋してるんだ。




心臓ってもんは愛を学べば学ぶほど脆くなるらしい




title/深爪
2014.04.06




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