明けましたね、変態さん


久しく感じていなかった身体を巡る違和。芯から溢れてくる力を体外へと放出するように、背部より現れる不気味な翼。手を掲げれば、数匹の蛇が姿を見せる。それが地を這っていく様子を、男は満足げに眺めていた。



その日、うずまきナルトの周りは幸せに包まれていた。朝食用即席ラーメンに落とした卵は見事な双子。たまたま会ったサクラと甘栗甘で団子を食べるという、端から見るとデートのような状況になった(代金は勿論ナルト持ち)。新お色気の術でキバに鼻血を吹かせることに成功したし、まさかのチョウジからはお菓子を頂いてしまった。

昼間に向かった一楽では、イルカが奢ってくれて。帰り道で真っ赤な顔をしたヒナタから、お手製であろうプリンを貰った。自宅の玄関には『畑の用心棒』と書かれた紙と共に、ナルトが長い間探していた即席ラーメンが袋に入っていた。

良いことがこうも続くと、明日の運をも使ってしまっているのではないか。そんな小さな不安を抱えたナルトだった。

しかし、皆から頂戴した品を片付けている内に不安も微々たるものになってしまっていき。布団に身を埋める頃には、今日の幸せを噛み締めるのみになっていた。

夢の世界に旅立つ直前、心なしか不安げな面持ちを浮かばせるガマちゃんと目が合った。彼が何かを伝えてくるように見えるのは気のせいだろうか。一度反らした視線は再びガマちゃんを捉えることなく闇に沈んだ。












浮上した意識の中で、忍び寄る気配を感じた。と同時に四肢に巻き付いたぬめりを帯びた物体。

「っひ!なっ…何だってばこれ…!つめたっ!」

本能的に拘束から逃れようとするも、ひやりとした縄状の物体はますます身体に絡み付いてくる。動いている気配がするのは気のせいではないはずた。首元に巻き付いてきたものが立てるシャー…という不快な音。確実に無機物ではない。

「俺の分身に縛られる気分はどうだ…?」

こんな気色の悪い事を言ってくる人間を、ナルトは一人しか知らない。彼は半ば呆れたようにかの名を呼んだ。

「お前が爬虫類だって生まれて初めて知ったってばよ…サスケちゃん」

水くせぇなぁ、と続けたからかいもこの男の前では何の意味も無かった。

ナルトの予想と違わず、悠然と佇んでいるのはうちはサスケその人であった。それも何を企んでいるのか、上半身は何一つ身に付けていない。不審に思っていると、唐突にサスケが口を開いた。

「鞘、というのは刀剣の携帯を安全なものとするためではなく、腐食をも防いでくれるんだそうだ」
「はぁ…、だから?」

なんなのだろう。刀剣を持たないナルトにとっては、正直どうでもいい話であるし、間違っても蛇に絡まれた状態で話す会話ではない。というかこんなときに何故鞘。

「…。俺の草薙の剣をお前という鞘に収めに来た」
「お前の剣なら腰にあるじゃねーかちゃんと鞘に収まって」

サスケって天然の気が有ったっけ…。ナルトは徐に第7班時代に撮った写真に目を移す。今も昔も天然なんて可愛い要素は欠片もない男だったはずた。俄か混乱しているナルトを待たず、尚もサスケは話す。

「こっちのは仮の姿だ。本物は別にある」
「へー、そーなんだぁ」

だから、俺にどうしろと言うんだ。それがナルトの本音であった。鞘が無くなったのなら、鍛冶屋にでも行けば手に入るはず。それを、どうしたらナルトの元へ向かうことに至るのか。やはりこの男の思考は理解できない。

「あぁ、そういうことだ。じゃあ、始めるぞ」

そう宣ったサスケは、何の迷いもなくナルトのズボンに下着ごと手をかけた。

「…ってオイ!話が見えねーんだよ!お前は一体何をやらかすつもりなんだってば!!」

不可解な行動を取り続ける眼前の男。ナルトは最早考えることを放棄した。そして答えを知る一番手っ取り早い方法―――本人に聞き出すことをしたのだ。それを聞いたサスケはギロリと睨み付けてきて。

「てめぇ、さっきの話聞いてなかったのかよ」
「だから鞘が欲しいんだろ?残念だけど俺は鞘なんて持ってねーの!他当たれってばよ!」
「お前は…」

サスケは何かを言いかけて口を噤んだ。口元に手を当てると共に、重なっていた視線が外される。彼はそのまま小さな声で続きを漏らした。

「お前は、俺が見境なく人を襲いまくっても、不能になってもいいって言うんだな…」

頭が本格的に痛くなってきた。何故にそこまで話が飛躍するのか。サスケの脳内には『段階を踏む』という言葉は存在しないのだろう。よくこんな奴に親友とか言えたな俺、とナルトは過去の自分を褒め称えた。

それにしても、と半裸の男を眺める。この男が理性を飛ばしてあらゆる者に襲いかかったり、文字通り不能になるなどと本当にあるのだろうか。一見冷酷な男に思えるが、その内優しい部分があることを知っているし、自身がライバルと認めるほど有能で何でもそつなくこなすような嫌味な奴だ。そんな奴が、鞘の1つや2つ無くなっただけで、醜態を晒すとは到底思えない。

悩むナルトを応援しているのかはたまた妨害しているのか、まとわりつく縄達が頻りに音を立てる。

はた、とナルトは思う。
そもそも何故己は、サスケの言うところの分身(一言でいうと蛇)により身体の自由を奪われているのだろう。また、無駄な行動は慎むサスケのことだ、ナルトが鞘なるものを持っていないことくらい承知していたはずだ。それにも関わらず、奴はここに来た。十中八九、訪れた理由が別にあるのだ。そして先程の彼の言動。始めると口にして己に何をしようとしていた…?







ナルトの顔付きが変わったのを目にして、サスケは嬉しそうに目を細めた。

「やっと…、分かったか…ウスラトンカチが」
「要するにただヤりに来ただけじゃねーかよ…!」

震えるナルトの目の前で、異形の者に成り果てた男の口が歪む。

「今年は巳年だからな…、再び呪印を宿すのには骨が折れた」
「…っは」
「これだけでも楽しいとは思ったんだが、一応マンダと大蛇丸を口寄せ可能にした」
「…、…え?」
「マンダなんて突っ込んだら流石のお前でも死んじまうか…?」
「…っ!!」
「冗談だ…。大蛇丸は3ラウンド後から視姦プレイの道具として使う。」
「ぁ…、ぁあ…」
「俺は兄から蛇博士の称号を貰っている。だから安心して身を任せろ…!」








「今年も宜しく、ナルト」

そう言って笑ったサスケは心底愉しそうだった。




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