本当は手料理を披露出来るほどの腕前があれば一番いいのだが、残念ながら普通の男並みでしかない。
スーパーの惣菜売り場にぽつんと置かれた粽を見つけたことにより、結局それと柏餅を買って帰った。

サスケは甘いものが口に合わないようで、柏餅をカートに入れた瞬間に渋い顔をした。
対照的にナルトは目を輝かせていたのだが。

いつの間にか2人の間の空気が若干柔らかくなっている。
第三者でも分かることだ、本人達は肌で感じているだろう。
俺を挟んで歩いているのだが、時折向こう側の相手にお互い視線を向けている。
目が合うと気恥ずかしいのかそれぞれ少し睨んだ後、勢い良く顔ごと視線をずらす。
ついさっきのように口から暴言が出ることはなくなった。
そんな初々しい光景を目にして、頬が緩むのを押さえることが出来るだろうか。

恐らく、ナルトとサスケはお互いが初めての友達で、そしてかけがえのない親友になるだろう。
上忍服を着た大人になった彼らが、一楽のラーメンを食べる後ろ姿がはっきりと目に浮かんで。
2人の前で、危うく味噌片手に泣いてしまうところだった。
目頭を押さえた俺にサスケが不審な目を向けていた。

うちは邸へ戻り、早速台所へ足を進める。
せめて汁物だけは作ろうと、思い付くものは買ってきた。
食材を確認する俺の耳が幼な子達の会話を拾う。

「なあなあ!サスケの部屋ってここ?」
「ウスラトンカチ!そこはトイレだ」
「あれ?じゃあここだってば!」
「馬鹿か!人様の家の押し入れを勝手に開けんじゃねえ!」
「てめえサスケ!さっきから何喧嘩売ってんだよ!」
「それはお前だろうが!」
「サスケェ!」
「ナルトォ!」

やはり友達までの道のりは長そうだ。
彼らを止めるべく台所から飛び出した俺の眼下には。

ドヤ顔の見本のような笑みを浮かべるサスケと、その彼に寝技を噛まされているナルトがいた。

未だかつてないほどにサスケの瞳に光が差している。
反対にナルトの瞳からは確実に輝きが失われてゆく。
慌てて2人の間に割り込み、距離を広げる。
玩具を奪われた子供のように、サスケはやや不貞腐れた顔を見せる。
彼のじゃれ方は少々過激なようだ。

台所へと戻ると、後ろからとてとてと可愛らしい音が聞こえた。

「イルカ先生!俺も手伝うってばよ!」

振り向くとともに軽い衝撃。
ナルトが抱き着いてきたのだ。

「うーん、じゃあ皿を出してくれるか?」
「おっす!」

そう言ってわしゃわしゃと金糸を混ぜていると、遠くから俺達を見ているサスケの姿が目に入った。
いや、俺達を見ているというのは間違いであろう。
彼は俺達を通してこの場にいない誰かを目にしている。
しかし一度瞼で隠れたその目には、暗い焔が灯っていた。
底の見えないほどに暗く、飲み込まれるような深淵―――――――――――

「……サスケ?」

金糸を乱した幼な子の一声で、暗黒の瞳に一筋の光が宿る。
それがまるで彼自身のようで。
ナルトなら、漆黒の少年の足元に広がるそれから光の元に戻してくれるのかもしれない。

ナルトの四方八方に跳ねた髪を直しているサスケを見て、その日は遠くないと思った。

俺の作った薄めの味噌汁と共に、3人で粽を食べる。
実際は味はあまり良くなかったはずだが、2人が無意識だろう嬉しそうに笑みを敷くのでいつもの食事より美味く感じた。
柏餅はナルトがサスケの分も平らげ、口元に白い粉を付けたままくしゃりと笑っていた。

主役の2人を縁側に残し、1人台所で皿を洗う。

そこでちらりと見えた2人は、未だ慣れない硬い笑みを向け合いながら何かを語らっていた。
それが拳に変わるまであと少し。