掌には炊きたてのご飯、その中心にうちは秘伝の鰹節を乗せる。塩を一つまみとり、苦戦しながらも三角に整える。大きさが合うように前もって切っていた海苔をつけ、最終調整。少し歪だが不器用な男が作ったにしては上出来だ。それをラップに包み、隣に先程これまた危なげに作った卵焼きを入れる。最後に自身の好物であるミニトマトを乗せた。色合いが足りないからと言い訳をしつつも尋常ではない量を入れていく。もはや弁当の半分が鮮やかな赤で敷き詰められた。ある男の嫌そうな顔が浮かび、唇が弧を描いた。



桜と火影と柑橘系。



木の葉の里は現在春真っ盛りである。里の至る所には桃色が舞い散っている。花弁を取ろうと必死になっている子供たちのなんと可愛らしいことか。だが浮かれはしゃいでいるのは彼らだけではない。

「皆見ろ!すげー綺麗だってばよ!」

大声で叫ぶように言うのは里の長である火影だ。

「こんな日は!外に出ないと勿体ないってば!」

火影とは対極の色合いを持つ、無愛想な補佐官は火影を一瞥し淡々と手を動かし続けている。

「なあなあなあ!サスk」
「五月蝿い馬鹿!」

殴るわよ!と言ったそばから鉄拳が飛んできた。しかしその拳は火影に届くことはなく。日焼けを知らないような白い手が、たおやかな彼女の腕をやんわりと握った。

「サクラ落ち着いて、ナルトが気を失ったら今以上に仕事が片付かないよ」
「でも…」
「少し休憩でも入れようぜ」
「そうだね、その方が効率も良くなるし」

ね、と初めて会った時では考えられないくらいの暖かみのある笑みを浮かべる暗部総隊長。そしていつもの口癖を言いつつ、誰よりも書類を片しているもう一人の補佐官は火影の傍らにいる無口の補佐官に向かって口を開く。

「サスケ、お前はどうするんだ?」

サスケと呼ばれた男が声を発する前に大きな子供が叫ぶ。

「俺は花見に行きたい!」
「ナルトには聞いてないでしょ!あんたは休み無しよ!」
「酷いってばよ…サクラちゃん」

しまいにはえぐえぐと泣き真似をし出す長。まんま子供である。サスケはそれを眺め口を紡ぐ。

「休むぞ、火影様の集中力も切れたしな」

その一言を聞いた皆の行動は素早かった。サクラは緑茶を淹れに、サイは外の空気を吸いに、シカマルは煙草を銜えて何処かへ行ってしまった。何だかんだ言いながら休みたかったようだ。サスケは溜め息をつくと隣から強い視線を感じた。

「…何だ」
「…俺だって休むって言ったのに」
「休めただろう」
「そーだけど!なんかお前の方が偉そうだなって」

俺火影なのに、とやや不貞腐れながら唇を尖らせている。サスケは誘われるように柔らかいそれを啄む。すると頭に衝撃が襲った。

「いきなり何すんだ」
「それはこっちのセリフだってば!いきなりキスしやがって!」
「口を尖らせてるからしてほしいのかと思ったんだが」
「んなわけねえだろ!ウスラトンカチ!」
「それはお前だ」

続いて生まれる笑い声。昔なら必ず喧嘩になっていたであろうが、今は2人で笑い合えるようにまでなった。ナルトの笑みを眩しそうに見つめるサスケの視界に控えめに入り込む淡紅色。

「さっき花見したいって言ってたよな」
「おう!こんなに咲き誇ってんだから見に行かないと可哀想だろ」
「昼は無理かもな」
「解ってるってばよ!…って昼?」
「夜だったらあるいは」
「ほんとか!じゃあ今日!2人で見ようってば!俺穴場知ってんだ」

ナルトが酒でサスケは肴を用意すると決まった所で、サクラが戻り休憩は終了になった。それからは先程の体たらくぶりは鳴りを潜め、ナルトはてきぱきと書類に目を通していった。

火影の頑張りで夕方には全ての書類は片付けられた。

「もう…やれば出来るんだったら、始めからそうしてよ…」
「全くだぜ、あー疲れた」
「でもどうしていきなりやる気を出したんだい?」

ナルトはサスケにちらりと視線を送り、悪戯っぽく笑った。

「秘密だってばよ!」
「どうせサスケ絡みだろ?」
「帰って2人でセックs」
「しゃーんなろー!!」

サイが流れ星になった所で解散となった。