*将来有望の続き





俺、うちはイタチには生まれたばかりの弟がいる。名はサスケといい、象牙の肌に双黒の映える非常に愛らしい容貌を持っている。俺はサスケを大層可愛がっている。ぶらり甘味所巡り日記と並んで置かれているサスケ観察日記を御覧になれば解るであろう。俺は弟の成長のため、品行方正かつ眉目秀麗な態度を崩さぬよう心がけていたのだが。最近、弟の将来を本気で心配している。



将来大物



始まりは母の一言だった。

「玩具が少ないわねぇ」

サスケが現在使っているのは俺が昔使用していた、いわゆるお古だ。俺は遊ぶことは少なかったようで、家には玩具と呼ばれるものがあまりにもない。そこで、俺はサスケを連れて玩具屋へ向かった。

サスケは一向に興味を示さず、俺の一つに束ねた髪を引っ張り遊んでいる。しかし、ある一点に差し掛かると態度が変わった。瞳に熱を宿し、懸命に手を伸ばしている。その先にあったのは金糸と澄んだ碧眼を持つ人形だった。しかしこの人形、イタチには見覚えがあった。ナルトが女に変化した姿に酷似しているのだ。

サスケは大層お気に召したようで、文字通り絞め殺さんばかりに抱き締めていた。端からみれば非常に可愛いらしい光景だが、イタチの心境は複雑である。サスケが手放さないので、会計をするのが一苦労だった。



ナルトはサスケと出会ってから、頻繁に我が家を訪れていた。というか、サスケがナルトを知ってから毎日会いたいというように泣きわめくので、母が頼み来てもらっているのだ。翌日、アカデミーから俺の家へ向かう道のりでナルトが嬉しそうに言った。

「サスケって歯生え始めたよな」
「…?!」

そうなのか?いつの間に生えたのだろうか、それよりも実の兄でさえ知らなかったことを、何故ナルトが知っているのか。俺の脳内に疑問が渦を巻く間もナルトの小さな口は動き続ける。

「最近ちゅーしてる時さ、アイツ舌入れてくんだ!そんで、昨日俺の舌噛んできたんだってばよ!」

甘噛みだったけどな、と照れ笑いを浮かべる弟分の声が遠く聞こえた。

帰宅し、その足でサスケの元へ向かう。サスケの顔を見ると、疲れも全て吹き飛ぶのだ。母の部屋のドアを開け、俺の目に飛び込んできたのは。



昨日買った人形の服を剥いて、組み敷いている不埒な輩の姿だった。言わずもがな、俺の弟サスケである。ご丁寧にも服は全て脱がしているのではなく、肌が少しだけ隠れているという状態。世の男が好む、チラリズムなるものだ。

サスケは真摯な面持ちで、ナルト似の人形を見つめている。そして、そっと小さな桃色の口唇に同じそれを重ねた。

母がよく見る昼ドラのとある一場面と同じ雰囲気が漂う。サスケは見ないうちにキスが上達していた。人形相手なので舌を絡めることはないが、わざとであろう、濡れた音を盛んに立てる。一通り口付けを堪能すると、サスケは自身の唇を赤い舌で舐め上げ、澄んだ碧を見下ろす。そして、華奢な首筋に口付けを落とし強く吸い上げる。キスマークである。しかし相手はプラスチックで構成された人形だ。もちろん跡はつかないが、一体どこでそんな知識を拾って来たのか。

サスケの唇が重力に従うように徐々に下がるのを見て、俺は静かに扉を閉めた。俺とサスケの間に鋼鉄の壁が構築された瞬間だった。
その夜は、濡れた音とシャッター音が途切れることなく流れていた。

まさか、俺の初めてのプレゼントが不埒な玩具と化してしまうとは誰が考えただろう。唯一の救いは、サスケはナルトを女だと思っているところだろう。だが、お忘れかと思うがサスケまだ小さな赤子。そんな弟の心に傷をつけるような真似はできず、真実を告げることはできないイタチであった。