俺、うちはイタチには最近弟という存在ができた。名前はサスケ。俺とは5つ歳が離れている。

サスケは俺と同じく母さんに似ていて、兄である自分が言うのもなんだがとても可愛らしい。目に入れても痛くないとはこのことだ、サスケになら大好物の串団子の1つや2つ譲れるくらいに俺は弟を可愛がっていた。お風呂は一緒に入ったし、就寝時だって一緒。母さんに頼んでオムツを替えたりもした。自分の弟ということに誇りを持ってもらいたいと、忍術はもちろん体術瞳術座学思い付くことすべてに力を注いだ。

その時は、まさか俺の弟がこんなことをしでかすなんて考えもしなかったんだ。



将来有望…?



その日、俺の家には小さな客がいた。名前はうずまきナルト。俺と同期であり唯一の友達だ。もっともイタチにとってナルトは、出来の悪い弟のような存在と言う方がしっくりくるのだが。ナルトは、九尾の人柱力として人々から忌み嫌われているにも関わらず、前向きに生きようとする様は、コンクリートを突き破り小さな顔を覗かせる蒲公英を彷彿とさせ、イタチはそんな姿勢に好感を持っていた。

手土産にとナルトが持ってきたみたらし団子を受け取っていた時、大きな泣き声が耳をつんざいた。言わずもがな、発生源は黒髪の赤子。サスケがぐずるとは珍しい、と思っていると目の前の橙色が動いた。

「うわ、すげー可愛い赤ちゃんだってばよ!」

お前がサスケちゃんかーお兄ちゃんはナルトだってばよと言いながら、赤子の丸びを帯びた頬をつつき出すナルト。このままではサスケがますます泣いてしまうと、止めさせるために伸ばした手は行き場を失う。小さな2つの紅葉が、頬をつついていたナルトの人差し指を握ったのだ。

「ん?どうしたってば?」
サスケはいつの間にか泣き止んでおり、溢れんばかりに大きな眼でじっと、金の少年を見つめていた。その眼差しは心なしか熱を帯びていて、まるで。

「まるで恋する乙女みたいね」

うふふ、と穏やかに笑う母に俺の心中は穏やかではない。偶然とはいえ、自分も全く同じことを思っていたのだ。

「おばちゃん何言ってんだってばよ…」

んなわけねぇ、そういうナルトは頬にうっすらと紅をのせていて。むしろ嬉しそうにしているのは自分の気のせいだろうか。イタチの脳内で警鐘が鳴り響く。サスケは金髪の珍しさからくる好奇心でありナルトはきっと風邪気味なんだ、悪化しないためにもそろそろ帰した方がいいな、と半ば現実逃避をしていたせいだろう。反応が遅れてしまったのは。

サスケの小さな手は橙色の服に伸び、赤子の全体重を使って引っ張った。ナルトはサスケに覆い被さるような体勢となり。ぷちゅ、と可愛らしい音をたてて2人の唇は重なった。

しばらくしてぷはぁ、とこれまた可愛い音で2人の唇に距離が開く。だか、未だに熱い視線が消えることはなく、サスケは赤子らしからぬ雄々しい笑みをのせている。サスケの小さな両の手がナルトの頬を包み、彼らの距離はゼロになった。

舌を絡ませるまではいかないが、離れる瞬間に赤子はナルトの上唇をぺろりと舐めた。離れたかと思えば、たいした時間も開けずに口付けを再開する。首が据わっていないにも関わらず、角度まで変えている我が弟に末恐ろしさを感じずにはいられない。

2人の口付けの音しか存在していなかった空間に、カシャ、という乾いた音が生まれた。場違いな音がした方へ目を向けると、ご丁寧にも手ぶれ補正のかかったデジカメを持っている母の姿があった。後でクシナに送らなきゃ、と意気揚々と言っている。どうやら納得のいくショットを撮れたようだ。ミナトさんが見たら卒倒するだろうな、やけ酒しなければいいがと2度目の現実逃避。

シャッター音で我に返ったのだろう、ナルトが素早く赤子から離れる。もちろん赤子は納得していないようで、熱っぽい視線はそのままにナルトに両手を伸ばしている。

「もっもうおしまいだってばよ!」

おばちゃん!母ちゃんに写真渡すなよ、そう一方的に述べ、玄関に向かうナルトの背に大きな泣き声がかかる。サスケが滝のような涙を流して、必死になってナルトに手を伸ばしていた。なぅと、なぅと、とナルトの名前らしき言葉を紡ぎながら、号泣している。

母が宥めるも、全く手がつかず。

「ナルト君、サスケの気が済むまでうちに居てくれないかしら」

今日の晩はラーメンを作ってあげるからと、申し訳なさそうに母が言った。

それからは母さんの部屋に場所を移して、互いの唇が紅くなるまで2人は口付けを交わしあった。それは心配になったミナトさんが来るまで続いたという。

後日、ミナトさんと親父がべろべろに酔って酒を酌み交わしているのが目撃されたそうだ。