廊下の向こうに白衣が翻る。
(…あ)
 白を追いかけて目を向けると後ろで結った髪がぴょこりと跳ねた。
可愛いなと口元を緩ませた時、小さな白の隣に大きな白が来る。そのせいで声をかけ損ねてしまった。
「猫市さん。この前の課題出していませんよね」
「えっ!?いや出しましたよ!!先生にちゃんと手渡したじゃないですか!」
「おやそうでしたっけ」
「先生酷い…」
 非難の声をあげていた小さな白は、それでも大きな白と笑って向こうへ歩いて行ってしまう。
猫市ちゃんと、皇先生。
どちらも好きなのに、好きな二人が話してると何故だかもやもやとした気持ちになる。
猫市ちゃんはずるいんだ。何でもない顔して、色んな人の隣にいつの間にかいる。
私の隣にも、皇先生の隣にも――…とまで考えてはっと我に帰る。
いけない。私は大天使だよ。そんな、醜い思いを抱いてはいけない。それでも
「…」
 一人で悩む自分が可哀想になって、この痛みをあの子にプレゼントしてしまおうと思い付いた。

とびきり綺麗な、プレゼントを



「花乃ちゃん」
「なぁに」
「…黄色いバラって出せる?」
 教室に戻った私は難しそうな本を読んでいた花乃ちゃんにお願いに行った。花乃ちゃんは少し首を傾げて私を見上げる。
「…本当に黄色いバラでいいの?」
「うん。出来たら、花束にしたいの」
 花乃ちゃんに意図がばれたのかばれてないのかはわからない。それでも花乃ちゃんはいいわ、と言って黄色いバラの花を生やしてくれた。
早送りしたように瑞々しいバラが机の上に芽吹く。切りとられた数本のバラを丁寧にまとめて、花乃ちゃんから受け取る。
「ありがとう花乃ちゃん」
「どういたしまして」
 お礼を言った所で授業のチャイムが鳴ってしまう。私は黄色いバラの花束を窓際の花瓶に置き、授業を受けた。
授業の内容は殆ど頭に入らないまま、昼休みが来た。バラを持って教室を飛び出る。散らさない様に、大切に持ちながら。
購買の手前で知らない子と歩くあの子の後ろ姿を見つけた。
「猫市ちゃん」
「…栄知ちゃん?どうしたの?栄知ちゃんもお昼購買?」
 親しい人を見つけた時、猫市ちゃんはぱあっと嬉しそうに顔を明るくする。
やっぱり、この子は。
「猫市ちゃん」
「…うん?」
 後ろで隠す花束を持つ手に力が入り、指先にチクリと棘が掠めた。
後ろめたい気持ちが這い寄ってくるのを無視して、あの子の前に花束を差し出す。
「プレゼント持ってきたの」
 純粋な友情と、ほんのちょっとの悪意を込めた、私のプレゼント。


あの子はどう受け取ってくれるんだろう。

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