あれ

「…しまった」

忘れ物した


 放課後の教室。わいわいとやかましい教室内で帰る準備をしていた。
机の中から教科書を取り出して、続いて筆箱も…と思ったら机の中には入っていない。鞄にも。
そう言えば5時間目が化学で、6時間目が体育だったんだ。だから気がつかなかった。
「ねぇ理科室って開いてるかな…」
「どうしました?忘れ物ですか?」
「うん…」
「多分開いてるんじゃないかな…一緒にいく?」
「大丈夫、開いてなかったら皇先生に頼んで開けて貰うよ」
 四巡君とカルラちゃんと別れて鞄を持って3階の理科室に向かう。ゆっくりと理科室の扉を横に引いたら簡単に開いた。
そろりと中を覗くと誰もいない。そりゃそうだよね。
「…あ、あった」
 猫のワンポイントのついた筆箱が机の下の荷物置きにころんと転がっていた。それを鞄にしまい、ほっと息をつく。
さて、帰ろう。出入り口へ向かおうとした私の耳に、微かな物音が響いて固まる。
視線の先には隣にある理科準備室に繋がる扉。
「…皇先生?」
 答える声は無い。嫌な汗が背中を伝う。ゆっくりと準備室の入り口前まで行き、ドアノブに手をかけた。
先生が実験に夢中になって声に気が付いていないだけかもしれない。きっとそうだ。
ドアノブを回そうと力を込めた時、内側からドアが開かれて前につんのめった。
「わ゛っ」
「…おや。初めて見る顔だね」
「……?え…?」
 床の上に転んだまま見上げれば、見た事のない人が私を覗きこんでいた。
白銀に近い髪、何処か眠そうな顔。整った顔の半分が白いマスクで覆われている。
なんだか、オペラ座の怪人みたいだ。
「こんにちは。何年生の子かな」
「えぁ…2年です…」
「そう、宜しくね」
 にこにこしているその人に手をかりながら立ち上がる。先生?いやでもこんな先生みた事無い。
2年の居間になるまで会った事無い先生何て、いないはずだ。
「…あの…先生ですか?」
「うーん…少し違うかな。僕で勉強して貰う事はあってるけど」
 困った様に笑いながら方を竦めるものだから、もっと謎が深まってしまった。
私はそんなに困った顔をしていたのだろうか。その人はそのまま黒い手袋をはめた手を白い面に持っていく。
あ、と思った時にはもうお面は外され、下げた右手に持たれていた。お面の下から出て来たものに、喉の奥から悲鳴が上がりそうになる。
持っていた鞄を床へ落としてしまった。
「ひっ――…!!」
「僕、人体模型なんだ」
 楽しげに笑う左半分の顔と、筋肉と眼球、歯が剥き出しになった右半分の顔。生きた人間の体半分を剥いだ感じ。当たり前なのだろう人体模型と名乗ったのだから。
限界が来て悲鳴を上げそうになった時、横の扉が開いて恐怖とは別に悲鳴を上げた。
「…何やってるんですか猫市さん…」
「す…皇せんせぇ…」
「危ないからここには入ってはいけませんよ」
 理科室の主の登場に、何故か内心胸をなでおろすも人体模型と名乗る彼を思い出し前を見る。
けれどそこには誰もいなくて、整理された準備室内があるだけ。誰もいなかった。
「す、すみませんでした…先生さようなら」
「はい、気を付けて帰るんですよ」
 皇先生に頭を下げて準備室を出る。先生はまったく勝手に入ってって顔をして準備室に入り扉を閉めた。
気がつけば大分日が傾いてしまっている。早く帰らないとお母さんに心配されちゃう。
出入り口へ向かい、取っ手に手をかけた。



「またおいで」

「っ…!!」
 背後から聞えた楽しそうな声に私は振り向く事が出来ず、急いで扉を開け廊下に出て昇降口へと走った。


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