「ねぇ猫センセ」
「…んー?」
「猫センセ、好きな人いるでしょ」
先にシャワーを浴びてきた参十郎は部屋に戻ってくるなり、そんな事ぬかしやがった。
胸の辺りが痛んだ気がしたが、無視をしていつもの様に笑う。
参十郎は上半身裸、下はスラックスという姿。誘ってんのか。
「何だよ唐突に。独り身の俺に好きな人なんている訳」
「…じゃあさっきイく時に小さく呼んでた名前は…聞き間違いか」
 探る様な視線と放たれた言葉に絶句する。
数十分前までこいつとベッドの中にいた訳だが、まさか、参十郎にアイツを重ねて、俺は―――…
「…すいません。嘘です」
「…てめぇカマかけたな」
「そうでもしないと、猫センセ本当の事教えてくれないから」
 低い声で咎める様に言っても参十郎は肩を竦めただけだった。
タオルで頭を拭きながら俺の隣に座る。重たい無言が俺と参十郎の間に落ちた。
「…俺もシャワー浴びてくるわ」
「ん」
 ベッドから抜け出して裸のまま浴室に向かった。
まだ太陽が昇りきらない冷えた空気とシャワーの熱気が混ざり合う浴室で小さく息をつく。何処までも頭の中が不鮮明で虚無感に襲われる。
「…あー…」
 ただカマをかけただけなら、まだ参十郎は相手が誰なのかは知らないのだろう。
だけどもし、本当に叫んでしまっていたのなら。
「…馬鹿みてぇ」
 想いの終わりも近いのだろうか。自嘲気味に笑いながらシャワーのコックを捻った。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -