沢山の人に囲まれるのはあまり好きじゃなかった。圧迫感を感じて苦しくなるから。
改札にパスを通し小走りのまま電車に乗り込む。今日はカルラちゃんや鹿尾菜ちゃんと遊びに出て少し遠出をした。
帰宅ラッシュから少し外れていたものの電車の中はまだ人の声でいっぱい。運よく開いた席を見つけて座ってほっと息をつく。
家のある場所まで電車で20分程度。帰るまでもう暫くかかるとお母さんにメールを送信した所で電車が動き出した。携帯を閉じて電車の中を見渡す。
同い年位の子達、サラリーマン、おばあちゃんと小さな子供。色んな年齢の人。
(こんなにも知らない人って多いんだなぁ)
 疲れて回らない頭でそう思いながら、私はまどろみ始めた。寝過ごしそうになったらこっそり起こしてねと影ちゃんにコンタクトをしながら意識を手放した。



とん、と軽い振動で目を覚ました。少し滲んだ視界が右に傾いている。ん?傾いてる?
「っ…!」
 居眠りをしていた私の体は隣に座っていた男の人の方へ傾いていたようだ。そしてあろう事かその人の腕に頭をぶつけてしまった。
慌てて起きて小さくすみませんと謝ると、その男の人はくつくつと小さく笑い出した。
あれ。この声どこかで。
「可愛らしい寝顔でしたよ猫市さん」
「皇先生…!?」
 私の隣に座っていたのは皇先生だった。何時から隣に座っていたのだろう。
何時も学校で着ている白衣は無く、濃いダークレッドのシャツと黒のスラックス。何時も額に押し上げているサングラスを今日はかけていた。
もしかするとそのせいで先生だってわからなかったのかもしれない。
「お疲れの様子で」
「遊んで帰って来ただけなんですけど…」
「休みの日はそれで良いじゃないですか。ちゃんと宿題さえしてればね」
「うっ…帰ったらやります」
 他愛もない話をしてる間もまだ睡魔は私の目を覆う。ふらふらとしている私を見かねたのか先生の手が私の右腕を軽く引いた。
眠くて抵抗が出来なかった私の体は先生に寄りかかる。驚いたまま先生を見上げたら口元にそっと人差し指を当てた。
「着いたら教えますから。安心して眠って下さい」
「…ありがとうございます」
 そのまま目を瞑り眠る態勢に入る。先生の手がまだ私の右腕を掴んでいるのが気になったのだけど、睡魔には勝てない。
電車の音、人のざわめきが篭り唄の様だった。

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