校庭の外れに響くバシャバシャと水道で顔を洗う音。深く息を吐き鹿尾菜は目を開けた。
ぽたぽたと顎から雫が落ちていく。運動後の火照りが幾分かすっきりし、心地良かった。
「お疲れ様です。鹿尾菜さん」
「…皇先生?」
「はい、タオルをどうぞ」
「…ありがとうございます」
 いつの間にか傍らに立っていた皇の姿に鹿尾菜は首を傾げる。
皇が校庭にいる、というのはあまりない事だ。違和感さえ感じる。
「で、先生はどうしたんだ」
「心身ともに健康な体は良いですねぇ」
 ニコニコと笑い鹿尾菜の肩に手を乗せてくる皇の行動に、嫌でも先が読めた。
鹿尾菜はその手をやんわりと払い獲物を見るような目で見降ろす皇を睨む。
「残念だが先生、私は先生の『実験』には付き合わない。他を当たってくれ」
「…ふふ、そうですか。残念です」
 断られても皇の飄々とした態度は変わらず、そのまま白衣を翻し去って行ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなるまで鹿尾菜は警戒した視線を背中に向けていた。

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