鋭い痛みが体に走り、何処か暗い所へ沈んでいた私の意識は無理矢理覚醒させられた。
「っひぎっ…!や、え、あっ…あっ…!?」
「おはようございます。猫市さん」
 自分に何が起きたのかわからずに目を白黒させている私の上に覆いかぶさってるのは皇先生で。
待って、記憶が飛んでる。私、何でこんな所に。それよりもここはどこ?
周りが不確かで見回してもどこなのかわからない。
「せん、先生っ…な、なんっ…」
「気を失ってしまったので起こして差し上げただけですよ」
笑う先生の口元が赤く染まっている事に気がついた。左肩がジンジンと痛く濡れている。
もしかしてこれはまさか。
「先生…肩…食いちぎって…?」
「…少しだけ、ね」
 声が震えるのを押さえられなかった。怯えた私の声を聞いてやっぱり先生は楽しそうに笑う。
怖い。怖い。先生の笑顔がただ怖くて逃げたかった。
でも先生に体重をかけられてしまっているので振りほどく事も出来ずにいる。肩の傷が痛い。
先生の歯で抉られた肩の傷に、先生の指がゆっくりと埋め込まれていく。
堪らず悲鳴をあげた。

痛い。助けて。影ちゃん。影ちゃん。

「頼みの影なら出られませんよ?ここはそういう場所ですから」
 残念でしたね、と死刑を告げるような先生の声。肩の傷から血が止まらない。
痛い。血塗れの指を抜いた先生はその血をゆっくりと舐める。肉食動物みたいだ。
頭が重たくて動くのも辛くなった。血が足りない。
「ぁ…せん…いた…ぃ」
「すぐに良くなりますよ」
 声だけはいつまでも耳の奥に残る程優しい響きをしていて、それなのにする事は全て私に牙を剥く。
動けない私の服を脱がしていく先生を見ても、もう抵抗なんて出来なかった。
膜がかかったような中先生の手が胸に触れる。
「っふゃ…ぁ…」
「まだ気絶しないで下さいよ。マグロな状態で抱いても面白くありませんから。まぁそれはそれで趣があるんですけどね」
「や…だぁ…っあぁあっ!!」
 胸から伝う様に下げられた手が太股を撫でてもっと奥に入っていく。
やだ。先生、いやだってば。震えて言葉にならない。気絶出来たらどんなにいい事か。
こんなにも血を流したのに私は気を失う事も出来ず先生に蹂躙される。地獄に居る気分だ。
何処か遠い所に行っていた意識が恥ずかしい所を触られた事で現実に引き戻される。
「ひっやっ先生やめっ」
「猫市さん、濡れていますよ。痛いのがお好きなんですね」
「ちがっ…あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」
 ボロボロの傷口を思い切り噛まれて悲鳴を上げる。悲鳴というか、咆哮の様だ。
死にそうな状況なのに頭の中は妙に冷えている。血と涙が混ざった様なものが口の奥に流れ混んできて咳き込んだ。
そんな私を置いて先生は一人先へ進んでしまう。愛撫、って言うのだろうか。
影ちゃんに食べられる時にされるのよりもしつこい位のそれに下半身が跳ねあがる。
下着をずらして中を掻き回される感覚に背筋がざわざわして、自分が何をされているのか改めて自覚し顔が熱くなる。
もう、いっそ殺して。
「皇せんせっ…やだ…も…あっ…あぁっ…」
「どこが気持ち良いんですか?教えて下さい」
 教えられるものか。それとも教えた方が楽になれたのだろうか。
どちらにせよ苦しくて呻く事しかできなかったけども。喘いでるだけの私を若干つまらなさそうに見ながら先生は自分のズボンに手をかけた。
ああ、やっぱりそう来るんですか。思えば本物を見るのは初めてじゃないかな。
まさかこんな最悪に近い状態で見る事になるとは思いもしなかった。
「せん…せ…いたいのや…ぁ…」
「解したから大丈夫ですよ。力抜いて下さいね」
 熱い。自分の熱よりももっと熱いモノが当てられて息を飲む。影ちゃんのは熱が無かったから。
「っ…あっ…あ…!んぐっ…」
「全部入りましたよ、どうですかご気分は」
 痛いと言うより苦しい。繋がっている部分がジンジンする。
全部中に埋め込んで先生はにやりと笑った。少しだけ先生の息が荒い。痛いのかな。
えっちぃ事に慣れて無い子って中狭いって聞いた。ざまぁみろとか、少し思ってみる。
「やだっ…い゛ぁ、あっ、ぐ、はぁっ…」
 動かされるたびに痛みが波の様に押し寄せて喉の奥でうめき声を上げる。
肩の傷口の血は何故か止まっている。でも傷はそのままでただひたすらずきずきして痛い。
私は朦朧として動けないから先生が動く。擦られ痺れて中が痛い。
先生酷いなぁと言いたかったのに口からは喘ぐ声が出た。
「ふぁんっあっ…んっ!」
「あぁ…可愛らしいですよ」
 耳元で囁くように紡がれる言葉。耳がくすぐったい。気持ち良くもなんともなかったと思っていた行為が段々快楽に侵されて行って戸惑う。
どの位先生と繋がっていたのかわからないけれど、随分長くそうしていたような気がした。
痛みはいつの間にかゾクゾクとした快感に変わっていて自分の声が蕩けているのがわかる。恥ずかしい。
「せん、せっあっんぐっなん、あっ」
「はっ…ん…中に出しますよ」
「えっ、まっあっやだやめっ…ひっ…!」
 どろどろに溶けたアイスみたいな思考が中に出すという言葉で凍りつく。それは、それは駄目。
でも私の体は上手く動いてはくれなくて、先生の背中に爪を立てる事しか出来なかった。
「ぐっ…!ん…」
「やぁああああぁっ!!あっ…ぁ…」
 中に注がれたのが分かって絶望が思考を染めた。感覚の麻痺が酷くなる。
ああ、死ぬかもしれない。ぼやけて暗くなった視界の中先生が何か呟いて嗤っていた。




「猫市ちゃん、ねぇ猫市ちゃん!」
「…!!?」
 聞き慣れた声に慌てて目を開ければ眩しい蛍光灯の光。
フラフラする視界のまま横へ頭を向ければ心底心配した顔のカルラちゃんと目が合う。あれ、何でここにいるの。
「か、る…なん…」
「猫市ちゃん体育の授業中に倒れたんだよ?覚えてない?」
「…え…?あ…」
 そう言えば私具合が悪かったんじゃなかったか。ぼんやりと繋がる記憶をたどる。
そうだった、体育終われば昼休みだからと無理して出たら駄目だったんだ。

ああ、待って。じゃあさっきのは

「…ゆめ…」
「何か怖い夢みたの?」
「……あれ…んっと…」
 思い出せない。生々しい程脳内に刻まれた気がしたのに。目を開けた瞬間忘れてしまったようだ。
「わすれちゃったぁ…」
「そっか。なら、良かったよ」
 ほっとしたカルラちゃんの顔を見て何だか安心して私も笑う。
昼休みが終わりカルラちゃんはクラスへ戻って行った。私は放課後までベッドの上。
次は良い夢をみたいなと布団の中に潜りこんで丸くなった。






「…ふふ」
 保健室の前に皇は立っていた。中へ入るでもなく、いつものように微かに笑みを浮かべて佇む。
野暮用を済ませて戻ってきた鏡藍がそんな皇に遭遇した。
「皇先生、どうしました?」
「鏡藍先生、猫市さんにこれを返しておいて下さい」
 鏡藍の手に渡されたのは青いリボン。猫市がいつも胸元につけているそれには何故か赤黒い飛沫が付いている。紛れもなく乾いた血だった。
「…この血は一体?」
「わかりません。私が拾った時にはもう、ついていましたから。では、お願いしますね」
 言い残し皇はその場を立ち去る。皇が立ち去った後を暫く睨んでいた鏡藍は小さく頭を振り保健室へ入って行った。


真実は誰にもわからない



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