一年生のとき、担任の先生がいなくなった。
何でいなくなったのかよくわからないけど、いなくなった。

 暫く私のクラスは担任不在のまま過ごした。そして今日、新しく担任の先生が来るらしい。折角なのでクラスメイト皆に集まる様には言っておいた。
普段誰かしらさぼっていなかったりするけど、新しい先生が来る今日だけでも揃って欲しかった。
「とと君、えいちゃんは?」
「購買にパン買いに行ったみたいっスけど…遅いっスね」
 斜め右前に座っていたとと君に話かける。
えいちゃんとは同じクラスの女の子。大天使なんだって。天使も学校に通うんだねと初めて会った時に思った。
とと君は暫く考えた後答えてくれる。兎の被り物の奥から少しだけくぐもった声が聞こえてきた。
私はあまり購買を利用した事が無いのだけど、お昼は凄く混むらしい。
多分それでえいちゃんも足止めされてるのかも。困ったなぁ。
「…俺見てくるッスよ」
「え、良いの?ありがとうとと君」
 様子を見てくると言ってくれたとと君に笑顔でお礼を言う。とと君は時々怖い事言うけど、こうやって優しい所もある。
皆怖がりすぎだなぁと思ったり。そりゃあ、最初はその兎の被り物でびっくりしたけども。
教室を出て行ったとと君を見送って席につく。ぼう、とクラスの中を見渡す。
教室の前部分、日当たりのいい場所は色んな形の鉢植えと植物で埋まっていた。
花を育てるのが趣味だっていう花乃ちゃん…私が花ちゃんって呼んでる子の持ち込んだもの。この前綺麗な百合の花を一輪貰った。
その花はまだ私の部屋の窓辺で生き生きとしている。
貰った時の事を思い出してぽわぽわと嬉しくなっていたら、私の横をあまり見慣れぬ男の子が通った。
深くネックウォーマーで顔を隠して、表情は見えない。
少し癖のある髪を後ろで括っていて歩くたびにふわふわ揺れる。結んだ白衣の端も一緒に揺れて何だか可愛かった。
「佐波君やっほ」
「…こんにちは」
 声をかけたら立ち止まって挨拶だけして席についた。佐波君は滅多にクラスにいないから珍しい物を見た気がする。
すでにクラスのほとんどが集まっている。凄い事だ。
「皆集まってくれて良かったぁ」
「さなえちゃんに言われたら、集まらなくちゃいけないよねぇ」
 後ろから聞えた声に振り返ると、えいちゃんがとと君と一緒にニコニコして立っていた。
えいちゃんのニコニコ顔が好きなのはこっそり内緒にしておく。何となく恥ずかしいから。
「えいちゃん遅いよう!そう言われると何だか嬉しいなぁ…」
「クラス長の言う事は絶対ッスから」
 ぼそりととと君が言うものの、いまいち私はピンとこない。
なる人がいなかったからクラス長になっただけなのだけど、何故か皆素直に言う事を聞いてくれる。
まぁ、助かるのだけどね。
「先生きたよ」
 いつの間にか哀川君が教室の前の方に立っていた。
最初会った時に女の子だと思ったのもひっそりこっそり内緒。
先生が来たという言葉に皆ばたばたと座り出す。全員が座りシンとなったタイミングを計ったかのように先生が入ってきた。
長身黒髪、白衣で額にサングラス。
白衣がなびくたび、良くわからない黒い空気が漏れる様に見えた。でもその空気は教室内の空気と混じってわからなくなる。
「今日からこのクラスの担任に配属されました、皇孝と言います。皆さんよろしくお願いします」
 クラスを見渡し、皇先生はにこりと笑いながら言った。その表情が何故か妙に満足げだったけれど、理由は分からなかった。

こうして担任のいなかった私達の2-3に新しい先生が来た。

今度は最後まで何事も無くいてくれたら、良いなぁ

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