私は正直先輩との交流は少ないのである。


 もっとメジャーな部活であれば、交流もあっただろうけれど何を隠そう漫画研究部だ。
確かに先輩はいるけれどそこまで仲が良いわけでもない。締め切りに追われてせっせと絵を描くだけ。
「…」
 それを踏まえて、私は現実逃避を終え目の前に立つ少しおどおどした先輩を見る。
何かに怯える様に眉をハの字にして、私と私の周りに視線が泳ぐ。
恰好は男装だけど、でも…
「あの、私に何か用ですか?」
「えっ…あっ!えっと…」
 声をかけたら驚いてあたふたしてしまった。そして暫くまた無言。
取り合えず女の子という事は分かったのでよしとする。
「そこで…学生証落としたから…その…」
 おずおずと差し出されたのは紛れもなく私の写真が貼ってある学生証。
驚いていつもいれている白衣のポケットを漁れば見事に無い。
歩きながらポケットの飴を取り出したとき、落としたようだ。
「あぁ!ありがとうございます…ひゃあ良かった拾ってもらえて…」
「無くすと大変だからね、ね」
 ぎゅっと私の手に学生証を握らせ、その先輩は挨拶もそこそこに私から離れていく。
慌てて追い掛けて呼びとめ、ポケットから出した棒付きキャンディを一つ先輩の手に持たせた。
私のとっておきのミカン味。
「あの、拾って下さってありがとうございましたっ」
「…どういたしまして」
 やっぱり困った様な顔をしているけれど、微かに先輩は笑ってくれた。
立ち去る先輩の後ろ姿を見送って私も教室に戻るべく歩き出した。


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