「った」
「大丈夫?」
「大丈夫です。ちょこっとプリントで指切っちゃっただけなので…」
 放課後の図書室内、偶然一緒になった折鶴と哀川は世間話をしながら宿題をしていた。
折鶴が哀川に勉強を教えて貰おうとプリントを取り出した瞬間、軽く指先を切ってしまった様だ。
形のいい眉をハの時にしながらも折鶴は笑う。右手の中指、じわりと赤い血の玉が浮かんでいた。
絆創膏無かったかなと折鶴が片手で鞄の中を確認する間哀川の視線は指先の溢れそうな赤へ注がれていた。
微かに右腕が動き血が指先を伝った瞬間哀川が動く。
「えっ…!?」
 無防備な右手に手を伸ばし掴むとそのまま赤ごと指先を口の中へ含む。小さな傷口に舌を這わせ抉るように血を吸い上げた。
「あっ、わっ、あいかわせっ…ひぃっ!?」
 愛撫に似ていた行為から一転、哀川は折鶴の指先を力を入れて噛む。
堪らず折鶴が大きく声を漏らしたため哀川は口を離した。
引き抜かれる指先。出血は最初よりも酷くなっていた。
「……先輩…?」
「……美味しいね」
 唇に血をつけたまま哀川は微笑む。斜めに差し込む夕日と相まって何処か現実味を欠いた光景に見えた。
哀川はポケットからハンカチを取り出すと手際よく折鶴の指先を覆い縛る。
「暫くは大丈夫だけど、保健室行った方がいいかもしれない」
「あ…はい」
「…ごめんね」
 寂しそうに微笑み哀川は先に己の鞄を持ち図書室から出て行く。
一人残された折鶴はしばし忘我のままゆっくりと白いハンカチの下血の滲む指先を眺めていた。


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