普段消毒液の匂いしかしない保健室内、まるで甘い花の匂いが充満したようだ。

(こいつのキャラには合わないよな)
 フェミニンな柄の缶の箱を手に、茶葉を調合する鏡藍の後ろ姿を見ながら思う。
普段ほとんど表情を出さない鏡藍が紅茶を淹れる時だけは微妙に表情を柔らかくしている。
楽しいのだろうか。
「けーちゃん。今日の紅茶何味」
「アールグレイとキームンのブレンドだ。あとその呼び方はやめろ」
「成る程わからん」
 仏頂面のままの鏡藍が俺の前に置いた紅茶は確かにいい匂いだった。紅茶のなんとやらもわからないのだけどそれは美味しい紅茶なのだろう。
一口口に含んでみれば主張し過ぎない紅茶の香りが鼻に抜ける。とても心地良い。
「こりゃ美味いわ」
「だろう。良い茶葉を手に入れるまで少々時間と金がかかった」
「…そんな高いもん飲んでいいのか俺」
 鏡藍の事だから俺だけではなく、保健室に来る生徒や他の先生にもこの紅茶を飲ませるのだろう。
中には紅茶目当てで来る奴もいるらしい。まぁ俺もその一人なのだけど。
そこまで労力と金をかけてただ湯水の如く飲ませるって、普通に考えたら損なのだが。
訝しげに鏡藍を伺えばカップから口を離した鏡藍は落ち着いた様子で話す。
どこか笑っているように見えた。
「美味しい茶を淹れる事が出来ても、飲ませる相手がいなかったら意味がないだろう?」
「…ああ」
 どうやら無粋な考えだったようだ。
何となく気恥ずかしくなり紅茶を一気に仰ぎ飲む。
「ごちそーさん。次は茶受けでも持ってくるわ」
「ああ」
 午後の授業が始まる少し前に保健室を出た。
ちらりと横目で見た保健室の入り口に、何処かのカフェなんかで置いてあるウェルカムボードを置いてやろうかとか思ってしまった。
怒る鏡藍の顔を容易に想像できたので止めておいたが。

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