1限目

「渚ーおはよー」

「おはよう」


今日もいい天気。朝から気分よく登校という名の登山を終え、友達に挨拶して席につく。隣の茅野が、嬉しそうに雑誌のスイーツ特集を見せてくれた。

ここまでは至って普通の教室。まあ、この際暗殺教室だってことは目を瞑るとほんとに普通の教室。ただひとつ、今日は何だか違った。

朝礼に現れたのは殺せんせー…だけでなく、普段はこの時間職員室にいるはずの烏間先生もその後ろから入ってきて。「あれ、烏間先生だ」「なんかあんのか?」「殺せんせー太った?」「にゅやッ?!ふ、太ってないですよ失礼な!」珍しい状況に各々質問やら雑談やらぶつけながら首をかしげていたそのとき。ワンテンポ遅れて教室に入ってきた白衣姿にすっかり目を奪われていた。

すこし茶色がかった綺麗な髪を肩の下まで伸ばして、後ろには大きめの髪留め。僕らの見慣れた金髪のあの“大人の女性”とは正反対の微笑みを浮かべて、どこか慣れてないような動きでその人は小さく頭を下げた。それを横目で見た烏間先生が淡々と口を割る。


「君たちに報告がある。彼女は本日付けでここE組校舎に配属された保健医だ」

「みょうじなまえです。怪我とか体調不良とか、何かあったら遠慮せず言ってね?暗殺授業は大変だと思うけど、精一杯フォローするつもりです。よろしくお願いしますね」


不思議な人だなと思った。その穏やかな声と微笑みに、初対面なのにこの人は優しい人だと確信のようなものが生まれる。身近で例えるなら、まるで神崎さんのような、嫌う人なんていない誰もが好きになりそうな人。教室を見回したら、みんながみんなそんな目で新しい先生の姿を眺めているようにみえた。
静まる教室、新しい先生がぱんっと手を打ってそれから楽しそうに笑った。


「私、先生って職業1度はやってみたかったの!よかったら、なまえ先生って気軽に呼んでね?」


おしとやかそうなのに、どこかふわふわと掴み所がなさそうな先生らしい。教室から飛んでくる笑い声となまえ先生!と呼ぶ声に、ひとつひとつ嬉しそうに微笑んで返事をして、照れたように笑う姿には見てるこっちも口元がほころんだ。
…その隣の隣、目尻を下げてデレデレとする殺せんせーのことは今後注意してもらうとして。

しかし同時に疑問に思うなまえ先生の実体。前はどこで何をしてたのか、殺せんせーの正体を知ってるのか、そもそも危なくないのか。にこにこと微笑むなまえ先生の顔をじっと見つめる。ふとこちらに気がついたなまえ先生と視線がぶつかって、照れたのは僕だった。

どこからともなく雑談が始まる。そのまま自然となまえ先生への質問タイムが始まった。年齢、好きな食べ物、好きな人付き合ってる人、住んでる場所。言えるところは喋って言えないところは誤魔化して、華やぐ教室でもっともな質問がぶつけられた。


「なまえ先生ってこの教室のことは勿論知ってるんですよね?危なくないんですか?」


一番重要なことを聞いてくれた磯貝くん。みんながそれと同じだと頷くと、なまえ先生はきょとんとしてから頷いた。しかし、その先を答えたのはなまえ先生ではなく横で立っていた烏間先生で。ふと気付いたように隣に投げられる烏間先生の視線に、なまえ先生も微笑んだ。「すまない、言い忘れていた」「良かった、言っちゃいけないのかと思いました」そんな檀上で繰り広げられる烏間先生となまえ先生の会話が、どことなく砕けているように聞こえたのは僕だけだろうか。


「彼女は俺と同じ防衛省の人間だ。前線で活躍していた実力者だからな、君たちが本気を出しても相手になれるぞ」

「烏間さんとも組み手したことあるのよ?負けちゃったけど」

「俺も彼女に3度負けた」

『はあああっ!?!?』


教室中が震えたのにびっくりしたなまえ先生が目を丸くする。「そんなに驚くこと?」と笑うなまえ先生に、また各々感想がぶつけられた。そりゃあそうだ、僕らにとって烏間先生は身近な一番強い人なんだから。

そんな超人的な烏間先生と対等に戦えるという新しい先生は、普段にこにこ微笑んでいるのにどうやら中身はトンデモない人らしい。

学校がまた楽しくなりそうだなと、僕たちは拍手をしながらなまえ先生を迎え入れた。

150518
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