結局はべたぼれ

「めんどくさがるシカマルくんに質問です。私のどこが好きですか?」

「あぁ?んだよめんどくせーな」

「あえて聞いてるの。あーえーて」

「んなのいいだろ。どうだってよ」


絶対めんどくさがるし絶対答えてくれるわけがないと分かっていつつもついつい聞いてしまうのが女心。ていうか、私の心。案の定、たずねた私を心底面倒くさいとでも言うような顔で一別したシカマルは、顔色ひとつ変えることなくそのままぼんやりと空を眺めはじめた。

アカデミーの屋上、なんとなくやってきたここは私たちが初めて顔をあわせた場所で。もう何年前の話なんだろうね。さぁな。短い会話は、風が吹くごとに途切れては再び空に吸い込まれる。雲がのんびり進んで、時々鳥が飛んでたりして。ふわ、あくびをひとつもらせば、隣のシカマルも同じようにあくびをした。こんな風にいつもどこか似通ってて、でもどこか違う私たちがいつの間にこんな風に惹かれあったのか。確かに、割とどうでもいい話だったな。そもそも、はっきり思い出せない。


「・・・やっぱり、いいや」

「いいのかよ。はっきりしねーな」

「なんか、どうでもいいかなって。こうやってふたりでぼんやり出来たらそれでいいかなって」

「ぼんやり、ねぇ」


シカマルは相変わらず表情を変えない。まあ、普段からそんなに表情豊かな方ではなかったから気にすることでもないんだけど。眺めていた空から、くるりと身体を反転させて里を一望する。この平和な時間が少しでも長ければいいのに、どこか不穏な空気を含みはじめた最近の情勢を頭から振り払うように、手すりに身体を預けた。
ふと、視界の隅が動く。それから、シカマルの肩が私の肩に触れる。冷たい風の合間、温もりを隣から感じて小さく笑った。


「お前の横顔が好きだ」

「・・・え?」

「寝顔も考えた顔も、俺と似たようなことを考えたりいちいちめんどくせーこと指摘しやがったり。正義感が強かったり案外器用で実は医療に強いとことか。あとは勉強熱心、なのに要領は悪い頑張り屋で」

「ちょちょちょ、ちょっと!待って!」


肩を並べて里を眺めていたその目が私に向けられる。むすっとした顔が、ゆっくり笑顔になる。「まだ足んねーか?」「も、もう結構です!」段々熱くなる頬を押さえながら、咄嗟に視線をはずした。言えっていっときながら照れるとか、ほんと馬鹿みたいなんだけど・・・それ以上に、あんなシカマル初めてで。チラリとシカマルを見る。その表情がニヤリといやらしそうに歪んだ。


「言えっていったのなまえだろーが」

「・・・ほんとに言ってくれるとは思わなかったんだもん。それに、やっぱりいいやって言ったのに」

「一緒にぼんやり出来ればいい、ってか?」

「うん」

「・・・つまんねーだろ、それだけじゃ」

「別につまんなくなんかないよ。ほんとのことだもん」

「俺がつまんねーんだよ」


そっけなく吐き出された言葉に首を傾げる。シカマルの口ぐせ『めんどくせー』とは相反するその発言はどういうことなんだろう。一望した里の遠くから子供たちの声が聞こえ、どこかのお店のおじさんの声が聞こえ。シカマルを見つめながら首を傾げた私の頭を、彼はくしゃりとなで回した。その顔は、少しだけ照れてるようにも見えて。


「・・・もっと、甘えればいーんだ。俺に」


その一言がじんわりと心に染みて、それからドキドキと私をときめかせて。頬を染めてそっぽを向いたシカマルは、私の頭に手を置いたまま反対の手で参ったなと頭をがしがしと乱暴にかいた。そんな不器用な反応すらも新鮮で、かわいくて。


「て、照れてるよ、シカマル」

「うるせ、らしくないことしてんだよ。察しろ」

「・・・嬉しい。ありがとね」

「別に」


頭から離れた手が、少しの間をおいて私の手を握る。らしくないことの連続に、彼なりに懸命に何かをしてくれようとした努力が伝わってきてまたどきどきした。握られた手が、力強く引き寄せられる。触れるだけだった肩がぶつかり、私たちの距離はほとんどゼロになった。


「めんどくせーから、もう二度と言わねーからな。あんなこと」

「いいよ。頭に刻み付けたもん」

「要領の悪いなまえの頭には期待してねーけどな」

「一言多いんだから!」


してやったりと笑うシカマルの肩にパンチをきめる。痛くもかゆくもないと笑ったシカマルに口を尖らせれば、シカマルはちょっとだけ戸惑いながら「悪かったよ」と呟いた。親の影響か、シカマルはいつも女の私に押しが弱い。でも、そんなところも大好きで。
見上げた私が笑えば、シカマルはやれやれと笑って繋いだ手に力を込めた。

ワンテンポ置いて目が合って。寄せられる唇にそっと目を閉じた。

150110
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