ワンドロ10/8

ボクが彼女に近づけない理由。それは第一にカカシ先輩の存在があった。ボクと彼女が一緒に過ごす時間よりも圧倒的に長い時間を彼女と過ごしていて、ボクが彼女に惹かれたときよりもずっと前から彼女のことを見ていて。
カカシ先輩とボクと彼女の3人で会う日も少なくなかったけど、やっぱりカカシ先輩と彼女の結びつきは強くて大きくて、見えない疎外感に乱暴にお酒を煽ったこともあった。

そんな彼女がボクたちのことをどう思ってるのか、いい大人がふたりして未だ聞けないでいる。ふたりで飲んだときもあえてそういう話題に触れないようにしているのは、なんだかんだでこの関係を壊したくないのが一番なんだと思う。誰よりも彼女と仲の良いカカシ先輩がそんなんだから、ボクにも可能性がないことはないんだなとまた嬉しくなってモチベーションも上がる。

だからこうやって、ボクたちの関係のパワーバランスにあるカカシ先輩が長期任務に出てしまうと妙に心もとなくなるんだ。忍の世界、いつどこで命尽きるか分からない。長期任務になれば尚更、どことも知らぬ場所で死ぬことになるかもしれない。要は、この里に、ボクたちのもとに2度と帰ってこないかもしれないと。

そう思いながらカカシ先輩を見送る彼女の横顔を身長分高いところから見下ろすたび、その表情を覆ってしまいたくなった。こんなに切実な表情で仲間を見送るひとをボクは初めてまのあたりにしたからだった。
それでも彼女は、そんな顔すぐに振り切ってみせる。強いくの一なんだと思わされる。きっと、今まで大勢のひとたちをそうやって見送ってきたんだろう。その人が帰ってこようがなかろうが、強い忍ほど里の存亡に関わる任務に駆り出されるんだからと、しっかり割りきって。


「カカシばっかりにいいとこ持ってかれちゃ困るからね!私たちも頑張るかぁ」


あうんの大門前からくるりと踵を返した彼女の背中を振り返る。その背中はとても明るかった。やっぱり、つよいひとだ。あなたは。

なかなか踏み出さないボクの心に、出掛ける直前に耳打ちされた言葉がリフレインする。いつも通りの眠そうな顔で、いつも通りの銀髪を揺らして。ポケットに突っ込んだ手をボクの耳元へ寄せて。隣にいる彼女には目もくれず。


『オレのいない間、彼女のこと独り占めする権利貸してあげるネ』


何を言い出すんだと思ったけど、カカシ先輩の真剣な瞳になにも言い返せなかった。きっと先輩なりのけじめなんだと思う。貸してあげるっていう上から目線の言葉がまたムカつくけど、今回ばかりは黙って頷くことにした。言われなくてもという意味を込めて、その肩を叩いて。


「ヤマトー、ぼんやりしてると置いてくよー?」

「ああ、すぐ行きます」


カカシ先輩がいないときっていうのがまた情けなかったけど、それでもボクは足を踏み出した。余裕綽々なカカシ先輩を出し抜くほどには彼女との時間を独り占めしようと思った。スタートの異なるカカシ先輩をみて一歩を踏み出せないでいた自分を奮い立たせるためにも、彼女の横にいてやろうと思った。

はからずともストッパーになっていたカカシ先輩のいない今、あの人が帰ってきて焦るくらいには彼女のそばに居続けようと、追い付いた彼女にそっと手を伸ばした。



151008
ワンドロお題『君へ駆け寄る青信号』
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