ワンドロ10/12

弱いくせに無理するから。仲間のために身を投げ出すから。そんな弱点だらけのお前が前に出て、怪我しないわけないじゃん。そんな言葉をすべて飲み込んで、冷静になれと言い聞かせて、地面に倒れる彼女に手を伸ばした。

戦時中の人手不足だからこそ組まれた若いオレたちだけの班は、経験も少なければ実力もたいして伴わないチームだった。即席で、昨日今日顔合わせたような奴らで、中忍はオレともうひとり、あとは目の前で毒にやられる下忍のコイツともうひとり。
オレがリーダーだったら、迷わず捨て置いたに違いない。父さんのこともあって、頑なになってたオレだったら任務遂行を第一にしてたかもしれない。

それでも彼女に手を伸ばしたのは、なぜだろう。

毒の侵入した傷口からは痛々しく血が滲み、意思とは裏腹に動かない身体と血流の悪さに顔を歪めた彼女がオレを見て少しだけ笑った。「笑う余裕があるなら死なないよね」そんな言葉だけをぶつけて、彼女の傷口を手当てする。虚ろな瞳に、冷たい彼女に平静でいるつもりなのに手が震えた。オレは、また大事な何かを失うことを恐れている。


「…死ぬのだけは、やめてよ」

「ご、め……んね」

「謝るくらいなら飛び出るなよ。アイツが助かってもお前が死ぬんだぞ」

「みんな、は……?」

「先に帰らせた。良かったねこれが帰りの道で。行きだったら絶対捨て置いてたから」

「…ぶじ…なら、それで…いい、から」

「お前が死んだらどうしようもないだろ。バカだよねほんと。ガイと一緒にいるからバカなのは知ってたけどここまでバカだとは思わなかった。体術も忍術も普通以下だし、感知なんて才能ないし。できても結界と時空間忍術だけ。それでよく飛び出そうと思ったよね。死ににいくもんだって分からない?お前を待ってる人が里にいるんじゃないの?呆れるくらいのバカだね」


まるで自分が死んでもいいみたいな口ぶりに、思わず頭に血が上る。気付けば自分でも驚くくらい饒舌に彼女への悪口を途切れることなくぶつけていた。普段から冷静でいようと思ってるオレが、とめどなく出てくる言葉を止められない。オレがどんな思いで仲間を突き飛ばしてトラップに突っ込んでいくお前を見てたか、どんな思いでこんな風に手当てしてるのか、どんな思いで……辛辣にあたってるのか。

ああそうかと、そこで自己完結した。もう結論は見えてたのに、気付かないふりをしてたのは自分だって。失うものの存在が大きければ大きいほど辛くなるのを知ったから、そういうものを見つけないようとしてたんだ。震える指先が、一番素直だった。

木にもたれて、手当てされた傷口を見た彼女が呑気な顔でへにゃりと笑う。「バカ…って、いいすぎ……でしょ。はたけ、くん」その顔をみるのがつらくて、胸に押し付けた。



151012
ワンドロお題『君に捧げる凱旋曲』
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