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姉弟入れ替えプレイ

僕はグミヤと電話をしていた。特筆するべくもない他愛もない話。
世間話に始まり、私生活がどうしただとか、お互いの身内の愚痴を言ったりとか、そんな話をひたすらに。
そして、流れでこんな話になった。


「妹っていいよな」
どんな流れだ、というツッコミは甘んじて受ける。
別に男同士でアレやソレのトークで盛り上がり嗜好を晒したというわけではない。断じて。
「そうか?」
電話口の向こうからグミヤがさして興味がない風に返す。
「妹がいるお前には分かるまい」
羨ましい。実際に妹がいるからその価値に気付かないのだ。
「従兄妹だぞ」
「妹は妹だろ!」
さらっと言うが、むしろ従妹の方が良いポジションだろうと言いたい。
「そうと言えば、そうだけど」
お前が抱く幻想ほど大したものでもないぞ、とグミヤは言う。
妹は妹。対象外。そういう属性は持ち合わせてない。らしい。
「いいなー、僕も妹欲しいなー。リンが妹だったらよかったのに」
心底羨ましそうな言い方で言う。実際羨ましい。
「今の時点でお前が兄みたいなものじゃん」
「だって、リンはわがまま姫だから僕が見ててあげないと」
そう、リンは強気でわがままだ。でも放っておけない。
僕はいつも振り回されているけど、もうそういう距離仲だと思っている。
フッとグミヤが笑う。
「はいはい、惚気おつ」
一瞬、何のことか分からなかったが、僕は理解して否定する。
「べ、別にそういうわけじゃ!」
「はいはい」
言いながらグミヤは電話の向こうでニマニマと笑っているようだ。
「ぐぬぬ……」
悔しいがこれ以上言い返しても意味がなさそうだ。
軽く流すグミヤに対して、言い訳するかのように言う。
「だってリンはさ、僕のこと弟と思ってないよ。……僕もだけど」
生まれた時からずっと一緒だから、姉弟という感覚があまりない。
感覚でいうならさっきグミヤが言ったとおり、どちらかというとリンが妹のようだ。
「なら、お前はどう思ってるんだよ。お前が弟でなくて、リンちゃんが姉でないなら、普段どう思ってるわけ?」
「え、うんと……。……なんだろう? 姉弟って感じはないけど……友達とか幼なじみみたいな感じかなぁ」
考えたこともなかったので漠然とした回答になる。
するとすかさずグミヤが言った。
「ふーん。彼女じゃないんだ」
「っな、そんなわけないだろっ!」
僕がリンを好きなことだとか、そんなことは関係ない。彼氏彼女なんて、そんな、そんな。
「はいはい」
グミヤは涼しげな顔で流す。いや、顔は見えないけれど。
「まあ、妹が欲しいなら1日だけリンちゃんに頼んで交代してみるってのは? 案外素直に甘えてくれるかもしれないし」
僕への対応もそこそこに、グミヤがそんな提案をしてきた。
あのリンが? 妹として甘える?
どう考えても無理そうで想像できない。
いや、想像というか妄想は出来るがリンがそんなことをするなんて。
(……"そんなこと"ってなんだよ!)
やましい考えをしている自分に気付き、焦りを抑えるように言う。
「え、ええ〜……そんなこと出来るかなぁ」
「お前ら双子だろ? どっちが兄でも姉でもいいじゃん」
確かに双子というのは、生まれる時間に少々の差があれどどちらが上で下かというのは決まってない事も多い。
僕らの場合はいつの間にかリンが姉だと決まっていたけれど。
「そう言われるとそうだけど……」
間髪入れずにグミヤが言う。
「じゃ、報告待ってるわ」
「ええ!? 決定事項!?」
本当にやれというのか。
「がんばれよ!」
わざとらしく爽やかな激励を送ると、グミヤは電話を切った。
「ええ、無責任な……」
小声で呟く。
でも。
「……やってみるか」
果たしてリンが僕の想像通りの言動をするだろうか。
お兄ちゃん、だなんて呼んでくれそうにない。
僕も、弟のくせにリンをお姉ちゃん、なんて、呼んだことはないんだけど。


「僕のことをお兄ちゃんと呼んでほしい」


リンの部屋に入るなりそう言った僕のことを、リンは変質者を見るかのような目で見る。
「え……レン、頭大丈夫?」
眉間にしわを寄せて軽く引いている。
「だ、大丈夫だよ、僕は正常!」
いきなり『リンと姉弟入れ替えてお兄ちゃんと呼んでもらおう計画』に隙があったようだ。
「ふぅん、そう……」
僕に懐疑の目を向けたものの、どうでもいいと思ったのだろうか、リンは先程まで読んでいたらしい漫画に視線を戻し、そして何事もなかったかのように読みだした。
このまま引き下がっていいのか。いや、よくない。
「あの、あのさ!」
もう一度、まともにお願いしてみる。
さっきも一応、まともだったのだけど。
リンがこちらに顔をやる。
「僕のことを、お兄ちゃんと呼んで欲しい……んだけど……その、どうでしょうか」
逃げ腰。僕はなんて恥ずかしいお願いをしているんだ。今になって実感する。
そこそこの間をあけてリンが返す。
「いや、どうでしょうかと言われても」
なんとも言えないといった顔で普通に困惑された。それはそうだ。
「何が目的?」
訝しげな顔で問いかけてくる。
やや迷ったものの僕は素直に告白する。
「えっと、その……妹が欲しいなって、思って……」
「妹ねぇ……」
また呆れられるかと思ったが、リンは意外にも何か考えているようだった。
ふーん、などと言いながら、読んでいた本を閉じ、元あった棚に片す。
「姉じゃ不満なわけ?」
座り直しながら言う。
怒っているわけではなさそうだ。
僕は否定する。
「別に、そういうわけじゃないよ。妹っていう存在が気になるだけであって」
「ロリコン?」
「違うから!」
多分……違うと信じたい。
「僕はいつも弟だから僕の下にも兄妹がいる感覚を知りたくて。別にやましいことなんて考えてないから!」
「ああ、そう」
見事に流される。僕が必死を装う時のリンのスルースキルはとても高い。
「妹って響きがいいし可愛いだろ! 僕もお兄ちゃんって呼ばれたい!」
何やらもう暴走気味になってきたがそれだけ僕も必死だった。何故と言われてもきっと本能的な何かだ。
妄想が爆発する前にリンがポツリと言った。
「まあ、いいけど」
「……えっ?」
聞き違いかと思った。
この流れで了承するのか。自分で言うのもなんだけれど。
まさかあのリンが聞いてくれるなんて思わなかった。
「別に、暇だから付き合ってあげようかと思っただけだけど」
さっきまで本を読んでいたのに。
「ツンデレ妹ですか……?」
「うるさい」
言ってから、はぁ、と目を閉じ呆れるように息を吐く。
ツンデレなのだろうか。そうだったら付加価値二倍で歓喜するところだ。
リンは体ごとこっちを向いて体育座りをすると、僕の顔をじっと見つめた。いや、睨んでいる……?
「なに……?」
恐る恐るリンの正面に座る。
間近で目が合うと、顔を半分腕にうずめながらジト目で言った。
「お兄ちゃん」
「……!!」
僕はその甘美な響きに胸を震わせる。
生きていてよかった。今日日、僕の生はこの日この時の為にあったのだと思わざるを得ない。
ついでに、脚を折りたたむことで露になった太もも裏が僕にとって非常に魅力的だったことをここに記しておく。
「……なんで黙ってるの」
色んな意味で感動して思わず無言でいた僕を見て、リンはさらにジト目になっていた。
「急に黙られたら恥ずかしいじゃない」
少しだけ照れを見せる。
「……いや、色々と衝撃を受けて」
お願いを了承してくれた事とか、お兄ちゃんと呼ばれた事とか、太ももが素敵だとかさっきの照れ顔が予想外に可愛かったとか。
リンに言ったら怒られそうだが。
「何ニヤけてるの。レンが言ったんじゃない」
また呆れてそうな顔をする。
「そ、そうなんだけど」
どうにもニヤけていたらしい。この喜びは隠しきれないようだ。
「ま、たまには言うこと聞いてあげなくもないけど」
その代わりに、とリンが言う。
「リンのことも、ちゃん付けで呼んでよ」
「え」
リンちゃん。その呼び方は僕が幼い時に呼んでいたものだ。
そして、自分のことをリンと呼ぶのも幼い頃のもの。物心ついてからは一般的な"私"に変わったが、今でもたまに使うことがある。
……甘える時とか。
ということはもしかしたら、実は甘えたい気持ちがあるのかもしれない。
ならば、僕も徹底的にやろうじゃないか。


「わかった。リンちゃん、今日は僕がお兄ちゃんだからね」
その気になると、本当にリンが妹だったかのように思えてきて自然と幼い子に対するような口調になってしまった。
そしてそのノリで後ろから包むようにそっと抱きしめる。
どちらかというと、腕で囲っているだけのような感じ。懐かしい感覚だ。


「……っ!」
温かい。柔らかい。良い匂い。
髪はサラサラだし肌もスベスベだしなんかもうフワフワだし正直興奮する。
思考がだんだん変態と化す僕をリンが見咎める。
「……なんていうか、息が荒いんだけど気のせい?」
「いいいや、気のせいだようん」
わざとではない。
すべてはリンの可愛さのせいだ。
「だって、リンが可愛いからさ」
「リ・ン・ちゃ・ん」
リンが照れながらふくれっ面で訂正する。
「っあ、リンちゃんが、可愛いから」
僕もならって訂正する。
「可愛いな〜リンちゃん。さすが僕の妹」
シスコンばりに愛おしくて頬ずりしてしまう。
何がさすがなのか疑問に思いかけたが、僕の自慢の姉弟であることに違いはない。
「なによー、いつもはそんなこと思わないくせに」
「ちょっとは思ってるよ」
半分は嘘。そういう目で見ればいつだって可愛いし、僕はリンのことが好きだから。
……なんてことは恥ずかしくて言えない。
だから今のこの状況を利用して、冗談に混ぜて本音を吐露している。
「別にいいけど」
ツンとした態度で相変わらず僕の腕の中に収まるリン。
「リンちゃんも僕を兄だと思えばいいよ」
「えー」
不服そうなリンに胡散臭い催眠術もどきをかける。
「だんだん僕が本物のお兄ちゃんに見えてくーる見えてくーる……」
「見えてこないけど」
控えめにバッサリと切られる。
むむ。
「それなら、これでどうだっ」
ぎゅうっと抱きしめる。
「わ、ちょっと……!」
ぬいぐるみを抱くように抱え込む。
「観念しろおっ」
「調子に乗ってぇ……やめなさい、お兄ちゃん」
妹命令口調。堪らなく萌える。
その言い方が余計に僕を興奮させるのだと分かっているのだろうか。
「お兄、ちゃん、苦しい……」
自然と抱きしめる腕の強さが増す。
柔らかくて良い匂いだ。うなじにそっと口づける。
「う、う……」
くすぐったいのか、恥ずかしいのか、うう〜と口に出す。
「お兄ちゃん、なんか、変だよ……。妹にこんなことしないでしょっ」
「シスコンの兄ならするかもしれない」
「なに、それっ」
ツッコミつつ体をよじらせる。
「兄とは妹を愛でる生き物であり細部に至るまで全力を尽くしt」
「姉はそんなことしないっ!」
うがー!と反論するリン。
確かにリン(姉)が僕(弟)を可愛がるようなことはほぼない。哀しいほどになかった。
しかし兄ならば、いや、男ならするべき、せざるを得ないのだ。
「リンちゃん、お兄ちゃんは紳士的だから何も問題ないよ」
言いながら首に口づける。
システムオールグリーンだ 。
「どこがよっ」
リンは苦笑いする。
「ほら、まだ何もしてないし」
「まだって何!? これから何する気なの!」
勢いよく食い気味に返す。
「いや、それはね……うん、でもまだ何もしてないから安心してください」
対して、穏やかに紳士的に宥める。
「何もしてなくないし安心できない!」
「抱きしめ心地がいいとかめっちゃいい匂いとか不純なこと考えてるけどビックリするほど紳士的だから」
「ビックリするほど変態的!」
相変わらずリンのツッコミがキレキレでとても安心する。
僕は満足して開き直る。
「変態という名の紳士だから」
いかにも正論という風に勝ち誇った。
リンが諦めたようにため息をつく。
「もー……変態」
少し恥ずかしそうに言うその姿がとても可愛かった。
僕はリンの頭を撫でる。
「……なに」
「なんとなく」
小さな生物を愛でるような感覚。
そのまま頭を撫でていると、あやされた子供の様に大人しくなる。
黙って撫でられているリンの体がなんだかぽかぽかしている。
「リンちゃん……なんかドキドキしてない?」
「……ん、してない、してないよ!」
ワンテンポ遅れて否定する。
「嘘つき〜」
頭を撫でていた手をリンの体にまわす。


「ねえリンちゃん……お兄ちゃんのこと好き?」
ぎゅっと抱きしめて耳元で呟く。
「リ、リンは……っ」
ぶるりと震え、体を縮こまらせている。
それが堪らなく可愛くて、興奮した。
「好き?」
「べっ、別に好きじゃないもんっ!」
赤面してより縮こまるリン。
そんな姿が愛おしくて仕方がない。
「少しも好きじゃないの?」
「そ、れ……は」
僅かな沈黙。
「ねぇ」
答えを催促するように耳を食む。
「っ……ちょっとは……っ好き」
「リンちゃんはお兄ちゃんのことちょっとしか好きじゃないんだ……」
リンは口には出さなかったものの、傍から戸惑う様子を感じられた。
それに便乗して仕掛ける。
「僕は……リンのことすごく好きだよ」
「……っ――!」
耳を甘噛みし、吸う。
触れている内に段々と歯止めが効かなくなりつつある。
肌に触れたい。唇を交わしたい。そういう気持ちが膨れ上がる。
この体を離したくないと、そう思う。
リンは……僕だけのものだ。
耳から、うなじ、首筋へと唇でなぞる。
「…………っ」
ピクピクと震えるリン。
首筋をそっと舐める。
「っ……!!」
ひときわ大きくビクリと震わせ、体を反らす。
「逃げないで」
引き寄せるようにして首筋から肩にかけての部分を食む。
「……っ……!」
身をこわばらせ声を出さまいとする反応に煽られそうだ。
息を呑み、声をかけようとする。

「ねえ、リン……あのさ」
そういう雰囲気になりつつあると、調子に乗ったのがまずかった。
隙間ができた分、より密着しようと腕を動かした。その時。
「あ」
ガシっと。
そう、ガシっと。
現行犯逮捕レベルの、いわゆるセクシャルハラスメントをしてしまったのだ。
今までの雰囲気から一転、血の気が引き別の意味で息が止まる。
数秒の間。
「っ……きゃあああっ!? どこ触ってんのバカレンっ!!」
リンが悲鳴を上げるとともに僕の腕から逃げ出そうとする。
「ご、ごめんっ!!」
咄嗟に謝ったものの、当然のようにビンタを食らう。
さらに僕の元から脱走すると遠隔攻撃を仕掛けてきた。
「もう、もうっ!」
リンは真っ赤になってクッションやらぬいぐるみやら枕やら、比較的柔らかい物を投げつけてくる。
照れなのか怒っているのかもはや分からない。
「ごめん! ごめんって!!」
僕もただ謝るほかなかった。
僕自身、急に我に返らされて恥ずかしいのと焦りでとてもテンパっている。
激しい攻防(一方的)の末、距離を取りお互いに様子見に入る。
よくよく考えてみれば、僕は兄妹設定を忘れ好きだと言っていた。
恥ずかしい。叫びたい。顔を合わせられない。
きっと、きっと、リンはそんな細かいところなんて覚えてないはず。そうであってほしい。
変態行為の方がよほど恥ずかしく合わせる顔がないということを僕は考えもしていなかった。
とにかく謝ろうと意を決して声を発する。
「あ、あのさ、……ごめん」
目を逸らしながら謝る。気まずい空気だ。
「その…………揉んじゃって」
「…………」
横目で見ると、最初のように体育座りのポーズで睨んでいた。その目は涙目だ。
と思いきや。
「……謝るところ、違うでしょうがっ!」
「ひっ!?」
一気に距離を詰められ、怒られる。
「散々セクハラしといて何よっ! バカ! バカ! バカレン!!」
壁際にもたれかかる体勢でぽかぽかと殴られる。いや、わりと本気でボディブローが効いている。一発一発が非常に重い。
「たまには本でも読んだらどう!? 脳に直接叩き込んであげる!」
言われながらまさかの本で殴られる。しかも角。
インプット(物理)はかなりの高火力だった。
「うっ、ぐ、リ、リン……!! 落ち着いて!」
どうするこの状況。
余計に怒られるかもしれなかったが、賭けに出た。
僕は正面のリンを押さえ込むように抱きしめた。
「落ち着いて、リンちゃん、落ち着いて」
さもないと僕の命が危うい。
「……!」
バサリとリンの手から本が落ちる。
動きを封じられたからか、それ以上は暴れることなくおとなしくなった。
そしてぼそりと呟く。
「……なに。また、セクハラ?」
「そ、そんなつもりじゃないけど」
やむを得なかったのだ。……本当に。
「……ふーん、まあ……いいけど」
言いながら、体を離し座り直す。
いつもの調子が戻ってきたようだった。
僕からもリンに問いかける。
「どうして僕のお願い聞いてくれたの?」
そこまで反抗してくるのに。
リンは言い淀む。
「別に……ただの気まぐれだから」
ならばと、質問を変える。
「じゃあ、リンのお願いはなんで?」
呼び方にこだわるなんて。
「っ、そ、それは……」
顔が赤くなり、口ごもる。
「それは?」
僕はもはやリンの反応を楽しんでいた。
もごもごとリンが言う。
「れ、レンはいつも言うこと聞いてくれるし、一緒に居てくれるし……たまにはカッコいいこともなくはないし……」
目を合わせたり目線を外したりしながら続ける。
「頼れる時もあったりなかったり……だから、お兄ちゃんみたいかもって思わなくもなかったから。今回はたまたま付き合ってあげただけ」
そう言って照れ隠しかのように、さっと立ち上がった。
「リン……」
僕は褒められたのだろうか。ちょっと嬉しい。
ツンだったりデレだったり、リンの乙女心は分からない。
けれど、僕はリンが素直じゃないことくらい知っている。
……もし本当に嫌われていたらとてつもないショックだが。
そうして考えていると、いつの間にやらリンが傍に寄ってきていた。
「わ、リン?」
戸惑う僕を見てか恥じらいも引っ込んだ様子だ。
にまりと微笑む我が姉。
「気が向いたらまた今度付き合ってあげてもいいよ」
そう言いながら顔を近づけてくる。
そして、耳元で甘い声音で囁く。
「……レン、お兄ちゃん?」


背筋がびくりとし、顔が熱くなる。
何か返事をしようにも思いのほか刺激が強く頭が真っ白になって固まってしまった。
その様子を見てリンはからかうように笑い、「べー」と舌を出し部屋から出て行った。
だめだ。リンには勝てない。
リンの方が一枚上手であり、姉より強い弟など存在しなかったのだ。


「グミヤ……妹って、最高だな」
「へえ」
後日、僕はまたグミヤと話していた。今度は事後報告的な何かを。
あのあと呼吸困難に陥りかけたものの命からがら自分の部屋へと生還できた。
しばらくベッドにうつ伏せで放心していたが。
「一生お兄ちゃんになってイチャイチャしたい」
「どうした、キモいぞ」
僕のにやけ顔が伝わったのかさらりと罵倒する。
「喋りはニヤついてないからセーフだろ」
「いや、まず発言のキモさに気付こうな」
なんと。気付かなかった。僕は重傷だ。
だが今は別のことを考えていた。
「僕さ、やっぱり姉もいいなって気付いた」
妹のリンに甘えられるのも確かに可愛いとは思うけれど。
「何かあったのか?」
リンが読んでいた本、攻撃に使われた本、そしてそのまま部屋に放置された本。
同じ本で、きっとお気に入りなんだろう。
「なんていうかさ」
なんとなくで勝手に読ませてもらったが、その本は少女漫画だった。
兄妹が恋に発展して……端的にいうとイチャイチャするような話。
それを踏まえるとリンがとても可愛く思えて、悶えずにはいられなかった。それが先日の顛末。
そして。
「姉であるリンが妹を演じて僕に素を指摘されて恥じらうというシチュエーションも悪くないかなぁって……」
意外な一面から妄想を膨らませ、自然と顔が綻んで笑みが漏れる。
「……。そうか、良かったな」
結局、僕はリンが好きなだけだったようだ。

そしてそう思うレンを前にグミヤは、「自分の友人は色んな意味で重傷だ」と思うのだった。






そういうプレイに目覚めたレンくん。
見返してみたら思ったよりイチャイチャしててかなり恥ずかしくなりました。リンちゃんの内情を思うと余計に!
なんですかこの叫びたくなる感じは!二人とも可愛い! 大好き!
ギャグを挟んで浄化しないと自分が耐えられないので前回よりも冗談多めです、たぶん。
でも雰囲気スケベみたいなのには力を入れてます。むふむふして頂ければ幸いです。

正直レンくんの変態は作者譲りだと思います……リンちゃんごめんなさい(踏まれることを期待しての土下座)。
リンちゃんは女の子〜って感じの髪質だとか匂いがすると思います。レンくんはもはやよく分かりません。変態でリンへの愛で出来てますね、リン愛。
何気にグミヤくん(とグミ)が小説で初登場。レンくんの良い友達です。悪友ともいう。

今回の反省。前回よりも文字数が多くなったのですが、話に波があってふらふらと落ち着きのないまとまりの悪い文章になってしまった気がします。実を言うと、途中で文脈が思いつかなかったり飽きたりしています……ごめんなさい! 次回はもっと精進します。
その代わりと言ってはなんですが、挿絵の小ネタ(?)や未使用含むラフ集などを載せてみました!→こちら
よかったらおまけとしてどうぞ〜。
8400degree


2015/10/08


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