五右ェ門の腕に振り下ろされた「流星」が空を切った。
冬の冷たい空気はひゅんと鋭い音を立てて切れた。
小一時間程前から、何度も何度も同じことが緩むことなく続いている。五右ェ門の鍛練の時間だ。言ってみれば五右ェ門と「流星」との対話の時間でもある。私はそれを、邪魔にならない程度に見学している。季節は冬だから勿論、外の気温は低く、吐く息も白くなるが私は五右ェ門に着いていく。何故なら、好きだからだ。
それから30分程経って、五右ェ門は漸く集中の糸をほどいた。振り返って私を見る。笑顔が零れた。
「いつも見てるだけでつまらなくないのかイ?」
「そんなことないよ。五右ェ門の頑張ってる姿見るの好きだからね」
言えば、寒さで赤く染まっていた五右ェ門の頬に別の赤さが増した。それから「流星」を胸に抱いてそっぽを向いてしまう。
「よく言うヨ!全く!」
そんな姿が可愛らしくて頭を撫でたくなって、そこで気付いた。五右ェ門はそうされるのを嫌う。怒られるのだ。
伸ばした手の行き場が無くなって、仕方無く自分の頭に持っていってポリポリと掻く。
「あー……、今年のクリスマスはどうしようかなー。ルパンのところにいこうかしら」
「ルパンのトコロへ行こうってのかイ?!」
「うん。もちろん五右ェ門も一緒にだよ」
驚いた顔のままこちらを向いた五右ェ門が、「流星」を握りしめる音がハッキリと聞こえた。
「そ、その、オレと、一緒にふ、二人っきりで過ごすってのは…………ダメかナ?」
五右ェ門は真っ直ぐ過ぎるのがいけない。ズルさやひねくれといった所謂盗人の常識を持っていないもんだから。ただそれは人間としては良いことだ。
「もちろん。そんなにストレートに言われちゃ断れないよ」
「ありがとう、なまえ!」
「きゃ!」
感謝の印に「流星」もろとも抱き締められて思う。
冬が寒くて良かった。だなんてことを。
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原作は全読破してないのでおかしな点、不都合な点あると思います。何かあればお気軽にご指摘下さい。