「四杯目いきますよー!」 「おぬしな…ほどほどにしておけ」 「程々なんかで酔えるかー!ごえもんさんのアホー!」 「おぬしはすでによっておるし、せっしゃはあほうではない」 酒だ! ということでごえもんさんとサシ飲みをしているのだった。ごえもんさんってば中々イケるクチなのだ。でも「さけはにほんしゅ。それいがいはやらん」などと頑固なのでごえもんさんの為に買って参りましたよ、日本酒を。たまにはスコッチを飲みたくなったりしないのかしら、きっとするはずだ。 そして酒を飲むからには肴がいるだろう。ごえもんさんもつまみやすいようにとホタルイカの沖漬けですよ! 「ねえねえねえ、ごえもんさん」 「よっぱらいのあいてほどめんどうなものはないな…なんだ」 「ごえもんさん好きな人とかいないんですか?」 「おらんわ、ばか」 「とか何とか言っちゃって本当は幼い頃に優しくしてもらった年上の女性への仄かな想いを抱き続けて幾星霜ここまで生きて参りましたさてお聞きいただきましょうごえもんさんで『初恋のあなた』、ここで拍手が入る、ヤンヤヤンヤわーパチパチみたいな感じなんでしょうもうごえもんさんのイケズー!色男ー!」 「ことばもないとはこのことか…」 ごえもんさんが一人で飲ませてくれとばかりにそっぽを向いてしまったので途端にさみしくなる。せっかく二人で飲んでるのに、もう。 「ねえ、ごえもんさん…こっちを向いて…恥ずかしがらないで…モジモジしないで…」 「うたうな」 「こっちを向いてよ、ごえ〜…だってなんだか、だってだってなんだもん…」 「つつくな」 果てはお餅かはんぺんかといった白さやわらかさのほっぺをひたすら無心につっつく。押せば押した分だけ返ってくる。さながら形状記憶か。 「ねえねえねえ、ごえもんさん」 「つぎにふざけたらこのようにさすからな」 「痛いっ!?このようにってもう刺しとるじゃないですか!」 「これでよいもさめたろう?」 「ところがどっこい。そこに追い酒しちゃうんですね〜うまーい!」 ごえもんさんが愛刀つまようじをきらりと閃かせ始めたので少し距離を取って杯を煽る。木のつまようじがきらりと閃くわけがないって?言葉には綾というものがあるんですよ、なまえさん。 いやあしかしずっと飲み続けたせいか段々眠くなってきたなあ。行儀が悪いけど机に突っ伏してチビチビとやらせてもらうぜ。 「ねえねえねえ、ごえもんさんったら」 「………」 「ルパンさんのお話聞かせてくださいよ」 「は?ルパン?」 「ごえもんさんのお友達ですか?それとも取引先?」 「……そのどちらでもない。ルパンは……」 「説明しにくい?」 「ひとことでいえんことはたしかだ」 「そうかあ、いいなあ、そういう人に出会えるって。ルパンさんとの出会いを大事にしなさいね」 「おぬしはどのたちばからものをいっておるのだ…」 呆れ顔は相変わらずだが、こっちを向いてくれたごえもんさん。 多分今ごえもんさんの頭の中では、そのルパンさんとの思い出が巡りめぐって輪を描いているに違いない。メビウスの輪だ。 「いつもにやにやとだらしのないかおしているが、きめどきをしっているおとこだ」 「へえ」 「だがおんなにうつつをぬかすのがわるいくせだ。それでいたいめをみることもある…というより、ほぼいたいめをみる」 「ほう」 「だまされるとわかっておるのになんどもとびこんではあたまをうつすくいようのなさ」 「ふむ」 「あやつひとりがわりをくうならそれでよいが、こちらにもとびひするのだからはなはだめいわく」 「中々酷評ですね」 あははと笑いながら淡々とルパンさんを語るごえもんさんを見る。もう上のまぶたが下のまぶたとぶつかりそうだ。 「いまのおぬしのかお、あやつとそっくりだぞ」 「うわあ、本当に?」 「だらしなくわらうかおがまさに」 「でへへ…照れますなあ」 「そのかおだ。そういえば、おぬしはどことなくあやつににているところもあるな。おもにだらしのないところだが」 もう眠くて眠くて辛抱たまらん。 「そしたら、ごえもんさん私のこと好きですね」 「は?」 「ルパンさんのこと話すごえもんさんの顔こそだらしなくニヤニヤしてましたよ。ルパンさんのこと好きなんでしょ〜」 「ばっ、ばかをもうすな!そんなわけなかろう。きいていなかったのか、あやつがどれほどだらしがないかとせっしゃは…」 「やった〜ごえもんさんに好きって言われた〜」 「いっとらんだろう!」 「ふふ…おやすみなさぁい…」 「おいっ!」 翌朝起きるとごえもんさんがひどくぷりぷりしていて、私は頭痛が痛い…もとい二日酔いとなっていた。昨晩何があったのだろう。お酒は程々にしておくのが良いようだ。 ← |