ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



太陽燦々なので気持ちよく洗濯物を干していると、上からストンと勢いよく何かが降ってきた。
干している洗濯物と私のちょうど間に落ちてきて大層ビックリ。何だろうと拾い上げてみるとどうも折り畳まれた紙らしい。鼻をかむには固すぎるので、風呂の焚き付けにするくらいが良さそうな質感の紙だ。これはいわゆる果し状などの時代劇で見るような巻き手紙方式の書状。宛名も差出人もないが、こんな紙の折り畳み方をするのは身近に一人しかいない。
さっそく広げて読んでみると「明朝四時、庭先にて待つ」の文字。中にも一切の名前がないがここまで来たら確定も確定だ。



「五ェ門…とうとう果し状を私に…」



しかし果たされるべきことなどあっただろうか。少し疑問に思いつつも握った果し状をクシャリとやる。やっぱり少し固い。そして集合時間早すぎやしないか。

そして時は流れて翌朝四時。
眠さをこらえて庭先に出ると、やあ、いました。陽も昇るか昇らないかの瀬戸際でどちらかといえばまだ暗い空気の中、顔はよく見えないがシルエットから確信を持って言い切れるその姿こそ石川五ェ門、その人である。



「五ェ門さぁん…眠い中来ましたよ…」

「待っていたぞ…いたが、何だその情けない様は」

「だってこの時間ですよ…魚河岸かって…」

「まあ良い。お主、名前を捨てる覚悟はできているか?」

「名前…?」



こんな早い時間に起きて行動することに慣れていない頭では物を考えるのには非常に不利だ。よって、五ェ門の言うことも半分理解できず半分は聞き流している。



「おうよ!どんな汚れも落とすことでミスクリーンクイーンと異名を取る私の名を盗れるものなら盗ってみなさい!」

「は?」

「え?」

「まあ良い。良くはないが、良いこととしよう」



何度目かの「まあ良い」を吐いて五ェ門は臨戦体勢に入る。珍しいことに緊張の色を見せていて目を瞠った。よく見たら丸腰ではないか。愛刀たる斬鉄剣も持たずに果し合いに挑むとは五ェ門らしからぬ出来事。まさか忘れたわけでもあるまい。このままでは、例え勝ったとしても勝ちきれない、と手を挙げて制止の声をかける。



「待ちたまえ!五ェ門さん、あなた斬鉄剣はどうしました?」

「ム?斬鉄剣は無用故置いて参った」

「無用…?これから雌雄を決するのに…?」

「決するからこそ無用なのだ」

「えっ?」

「はっ?」



どうも先程から会話が噛み合っていないような気がするが、ここまで来てしまっては引き下がれない。いよいよもって対決の時だ。私の方は特に武術の心得も何もないので、何となくそれらしいようなポーズで五ェ門と相対する。しかしこうして向き合ってみると丸腰とはいえ気合いに満ちていてとても迫力がある。というより、素手でも強い五ェ門相手に私は何をするつもりなのか。勝てる勝てないの前に、怪我をするしないの心配が先なのでは…!



「いざ!」

「尋常に勝負、といきたいところだけど頼むのでお手柔らかに…っ!?」



視界の中で五ェ門が大きく前進しそのあまりの速さに思わず目をつむってしまうと、何故だか急に温かいものに包まれた。てっきり大きな衝撃や痛みがやってくるものと思っていたのにこれは何だ…と恐る恐る目を開くと、すぐ前に耳のようなものが見える。少し赤みを帯びている。耳?



「ご、五ェ門…?」

「不躾な願いとは思うが…」



五ェ門の声がすぐ近くから聞こえるのと同時に振動が私の体を震わせた。もしや、抱き締められているのでしょうか。そうとしか思えない、だってこんなに温かい…むしろちょっと熱いくらいだ。五ェ門の体温ってこんなに高かったのか。



「拙者と、一緒になってくれ」

「一緒って、名前…苗字を?」

「そういうことになる」

「エエ!ま、マリッジってこと?」

「日本語で申せ」

「結婚?」



そうだ、と熱い声で頷くと同時に背中に回る腕に力が込められた。気付いていないのなら気付いて欲しいが、ほとんど締め上げられるのと同じ形になっていて苦しい。しかし嫌なわけではなかった。今の状況も五ェ門の申し出も。



「今さっきの五ェ門の突進もそうだったけど、何事も一足飛びだね」

「悪いか」

「悪くはない。ただびっくりはするね」

「して、返答は?」



一足飛びなのだ、本当に。私と五ェ門は、昨日まで特別な間柄ではなかったのだ。お互いに…少なくとも私の方は悪からず想っていたが、それが急に結婚とくるとは予想だにしていない。
ここはお決まりかもしれないが、この言葉から始めよう。



「結婚を前提にお付き合い、ということからいきませんか?知らないことが多すぎる。だって五ェ門の体温がこんなに高いって、私今初めて知ったんだよ」

「それも一理だな。確かに、拙者もお主がこんなに柔いと今初めて知った」

「では、そういうことで」

「相分かった」



決着つかずの果し合いとなったが、新しいことがここから始まるのだ。ちょうどいい頃合いに陽も昇ってきて、黄金の夜明けに包まれるのだった。



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