※軽い血表現あり いつもは遠くから見るその姿は、近付くとまるで獣のようだった。 危ないから、と言っていた意味が本当の意味でようやく理解できた。剣を振るうから危ないというだけではなく、その剣を振るった五ェ門もまた危険だったのだ。 たまたま、たまたまだ。人を斬った後の五ェ門の目の前に出てしまったのは。 毛を逆立てる猫のような五ェ門は月を背に、引き結んだ口の僅かな隙間からフーッフーッと荒い息を漏らしている。 とても声を掛けられる状態ではなかった。 「(見なかったことにして戻ろう…)」 見付かってはまずい。 す、と足を下げる。パキッ、と乾いた音が立った。下げた足の位置を間違えたのだ。小枝を踏んでしまった。 はっ、と息を飲む。同時に背筋が寒くなって粟立った。 見つかった。 ゆっくりと視線を上げる。目の先に、狂気がいた。 目を見開いて暫し息を止めていたかと思うと、何かの拍子で急に息を取り返して苦しそうに呼吸を繰り返した。 そして動けない私の方へ一足飛びに向かって来る。 「ごえも…んっ!」 殺気にあてられて腰が抜けそうになった私を、胸ぐらを掴んで無理矢理立たせたかと思うとそのままの勢いで引き寄せて歯をぶつけるような口付けをしてきた。いや、もう口付けとは言えない。咬み千切ろうかという乱暴さで唇を押し付けてくる。それどころか口内までも蹂躙し、もう滅茶苦茶だ。ギリ、と嫌な音がしてじんわりと口の中に何かが滲むのを感じた。 目の前の人間がとても私の知る人とは思えず、鼓動が騒ぎ始める。腹の底からこの人に抱いたことのない感情が這い上がってきた。いやだ、いやだ違う、こんなの…! 「ぐっ…!」 「っは…はぁ…っ」 いやだ、と拒む感情が五ェ門の舌を噛ませた。反射的に離れる五ェ門。何が起きたのか、という目でこちらを見て、その目が徐々にこの状況を映して見開かれ後悔の色に染まった。 「ぁ……すまぬ…」 「…………」 震える声が痛々しかった。 その声に私もはっとして離れた五ェ門に寄る。少し身を引かれた。 「五ェ門、ごめんなさい…い、痛くなかった?舌、舌噛んじゃって…」 「……っ!」 話し出した途端、口の端を何かが流れた。それを目にした五ェ門が更に目を見開く。 その時、初めて五ェ門の頬に血がついているのに気が付いた。もしかしたら返り血、かもしれない。手を伸ばして親指で拭う。 たったそれだけの何気ない行為に五ェ門はひどく怯えているようだった。一歩後退って、震える声を抑えながら言った。 「お主の、血か…?」 「え…?」 「ぅ…ご、御免!」 「あ、五ェ門待って!」 一度強く目を瞑ったかと思うと、踵を返して脱兎も敵わぬ速さで私の前から消え失せた。 後に残された私は思い出したように口を拭って、そこで先程の何かが血であったと知った。五ェ門の頬を拭った際のものではない、別の血。それが私の血か五ェ門の血かは、分からない。 ―――――― 「すまぬ」を言わせたくて2ndゴエをイメージしましたが、ビジュアル的には1stのイメージ。フーッって肩で息をしながら昂るのは1stゴエのビジュアルの方がしっくりくる気がします。狂気を孕んでいそうな感じかな。 でも同じ状況に陥った時、2ndゴエは謝るだろうし、1stゴエは謝らないだろうなあ…と。 何というか、1stゴエはビジュアル的には目付きが鋭いし一見危うそうに見えるけど、精神的にはすごくしっかりしてる。 逆に2ndゴエはビジュアル的には穏やかに見えるけど、精神的には脆い部分が結構ありそう。悟りきれていないっていうか。 うーん…まとめると、 1stゴエ→外見:キレてる、内面:しっかり 2ndゴエ→外見:しっかり、内面:脆い かな。私の中ではですがね。 テレスペの五ェ門はどこか悟っちゃってる感があるので…というよりお決まりのパターンが顕著に見えると言いますか…。 でも、もしかしたら「燃えよ斬鉄剣」の五ェ門が一番近いかもしれません。1st風の見た目で2ndっぽい性格。 全体をまとめると、気が昂りそうなのは1stゴエだけど謝って自己嫌悪しそうなのは2ndゴエ、って感じです。興奮する五ェ門が書きたかった、って言えば早いな。 それから、この話は前提条件として二人は両想いです。悲恋とか略奪とかではなく…。 またまた、興奮した際の五ェ門の行動は、普段したいと頭の中で思っていることが出た、という感じです。 後、ここまで書きましたが、私は五ェ門を所詮人斬りとは思えません。何か宮崎駿さんが五ェ門に関して「五ェ門は悟ったふうに気取っていても人斬り。結局は人を斬る快感が忘れられない」って感じのことを言っていて、腑に落ちないんです。 解釈の違いと言えばそうなんでしょうけど…。 これ、ちょっと何言ってるか分からないですね。何言ってんだよこいつ…くらいに生暖かく見るがよろしいと思います。 ← |