ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



夕食をとりながら冗談混じりに「不意打ちもいいけど、雰囲気とかムードとか、そういうのがあるともっといいね」なんて言ってしまってから五ェ門の負けず嫌いに火がついたのか隙あらば“そういうムード”を作り出そうとするようになった。
場所も時間も選ばず果敢に挑んでくる五ェ門に、本人には悪いがものすごく笑いが込み上げてきてしまう。まず、場所も時間も選ばない時点でちょっとズレている。下手な鉄砲数打ちゃ当たる戦法なのかもしれないが、下手な鉄砲はやっぱり下手な鉄砲にしか過ぎないのだ。



「どうだろう、今夜の予定を拙者に使ってみるというのは…?」

「今日はだーめ。ドラマの続きを見る予定は譲れません。それとも一緒に見る?」

「むう…見る…」



こちらも五ェ門が仕掛けてくることは分かっているので、余裕を持って迎え撃つことができる。手の内は大体読めるので、次はどんな手口を使ってくるのかお手並み拝見と高みの見物感すらある。
そんな負けず嫌いの五ェ門も、ハナから勝ち目のない勝負と分かっていたからかはたまた度重なる不慣れの連続で疲弊したのかしょげかえっていつもより縮こまって座っている。ドラマを見ようとソファに腰掛けた私の横で、いつもの通り胡座をかいているがいつもより足の幅が狭い。どちらかというと体育座りに近い体勢だ。珍しいものを見たなとしょげかえる膝に手を置けばそろそろと手を重ねられた。力がこもっていないのでこれ幸いと手の平を上向けるようにひっくり返すと、アメーバのごとくゆるゆると指を絡めてくる。ほとんど無意識なのだろう。五ェ門は言葉を弄するよりも、こうした仕草の方で攻める方がいいのではないかと思うのだが、それを言えばヘソを曲げそうなのでやめておく。



「五ェ門はさ、もしさっきの言葉に私がオーケーしてたらどうする予定だったの?」

「按摩でござる…」

「按摩?マッサージ?」



ドラマを見たいというのは半分本当で半分はこじつけだったので流し見程度の集中力で、本命の五ェ門と会話を始めればもごもごと拗ねた口調で作戦の概要を話してくれた。



「お主も疲れておろうから、拙者の家に代々伝わる按摩法でコリをほぐそうかと思っておった」

「秘伝のマッサージ…ちょっと気になる」

「ではっ、今からでも…!」

「あ、だめ。ドラマが佳境みたい」



流し見程度だったがドラマも見たい気持ちはあったため、いいところまでくると目が離せなくなってしまった。隣で斬鉄剣を構えるような音がしたのでコラ!と諌めれば静かになった。
物語全体としても佳境に入ってきているドラマはやはり引き込まれるものがあり、五ェ門の手を握ったまま画面に釘付けになってしまう。ああ、どうなってしまうんだこの後!



「ああ…!どうしてそんなむごい展開に…!」

「………」

「ああぁ…そんな…」

「……御免」

「なに、んっ…ん」



薄暗い部屋の中でもはっきりと分かるほどの距離に五ェ門の顔があった。二度三度と、啄むような軽めのキスをされた。予想していなかった。



「拙者盗賊故、お主の唇と大事な時間を頂戴いたした…悪く思うな」

「ご、っ……」

「……?なっ、お主顔が真っ赤で…っ」

「五ェ門、こそ……」



この間と同じパターンだった。予想していないところへの、不意打ち。私としたことがうっかり胸が高鳴ってしまい顔がカッカッと熱くなってくる。五ェ門の方もつられて真っ赤になっている。自分からやっておいて、何だその反応は。



「あ、い、今の、悪くなかっ…ううん、良かったよ」

「そ、そうか…」

「やっぱり五ェ門は、不意打ちが一番強い…のかな?」

「不本意だが、事ここにおいてはそのようだな…」

「って、あー!ドラマ、終わっちゃった…」



ようやっと画面に目を向ければ、エンドロールも終盤で次回予告が始まってしまった。丸々いいところを逃してしまい、結局五ェ門の言う通りになったのだと気付く。しかも初めの言葉からだ。結局、今夜の予定は五ェ門に使うことになってしまった。ドラマを見るのは口実でそぞろな気だったとはいえ…。
しかし、負けを認めるのはちょっとだけ悔しいので五ェ門には言ってやらない。
隣の五ェ門を見れば、不本意の不意打ちでも成功したのが嬉しかったのか先程までのぶんむくれはどこへやら、とても上機嫌にしているのでそれで良しとしよう。



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