「……こっちの説明は終わり。次にここの箇所だけど……」 「ふむ…」 大きな図面と何枚かの計画書を前に五ェ門に話して聞かせる。次のヤマでは巨大な施設への侵入が作戦の重要なポイントになってくる。迷宮のような施設のロケーションを頭に叩き込んでおく必要があるのだ。 ありがたいことに五ェ門は一度説明すれば済むほど飲み込みが早いし、確認すればきちんと理解していることも分かった。しかも真面目に頷きながら聞いてくれるので教え甲斐のある良い生徒だった。図面に走らせる私の指を目で追ってくるのもマウスのポインターのようで面白い。 「侵入経路の確認はこれで以上。あとは脱出の予定も一応ね。予定通りにいくかどうかは分からないけど…」 「また銭形が出張ってくるのか」 「想定しておいた方がいいと思う。私たちも大概だけど、あの人の耳の早さも並外れたものだし」 「そうだな…」 ルパンと次元は計画の準備も兼ねて街へ繰り出していた。丁度いい時間なので食事でも取っていることだろう。私も声をかけられたが最終調整のため部屋で缶詰になっている間にこんな時間になってしまったし、上手い具合に五ェ門が姿を現したものだからさっさと計画を伝えてしまおうと何も食べずにいた。 さすがにお腹が空いてきたが、説明もあと少しで終わるし我慢できる範囲だ。そういえば五ェ門はご飯どうするだろう。きっとまだ夕飯は食べていないはずだ。良かったらこの後一緒に、と聞こうかと考えていたその時カチャリと金属音。次いで顎に木の感触。顔が上向いたと思う暇もなく、視界が五ェ門でいっぱいになった。 「……っ」 「ん……」 「……?」 たった一瞬の出来事。あっさりと何事もない様子で、しかし思い切り至近距離に五ェ門の顔がある。 間違いでなければ、たった今キスされたのだ。 「五ェ門、今…」 「拙者、今…」 「……?」 「……?」 お互いに疑問符でいっぱいの顔をして見つめ合う。どうしてこのタイミングで?と聞こうと思ったのだが、当の五ェ門自身、自分が今何をしたのか分からないという表情をしているので聞くに詰まった。 別に嫌悪感があるとかそういったことはなく、むしろ嬉しいことなのだが、いわゆる不意打ちという行為は珍しいなと思う。そういうものを良しとしない性格なのに。 「えっと…そういう気分だった?」 「そういう…?」 「不意打ちしたい気分?」 「不意打ち…?」 顎にかけられたままの斬鉄剣の柄もそのままに首をかしげる。 すると五ェ門の目が開かれていき、底から湧き上がるように顔に赤みが差してくる。状況を理解したのか慌てて動かされた手のせいで、斬鉄剣の柄アタックを食らってしまった。 「あっ、すまぬ!いや、すまぬ!」 「うぐ…のど直撃はなかなか痛い…」 「拙者、どれから謝ればよいか…」 「いいよ、いいよ。謝らなくて大丈夫」 「だが、驚いたろう。拙者は何という不届きなことを…」 不意打ちキスのことか、今の柄アタックのことか、恐らくどちらのことも言ってるのであろう五ェ門が斬鉄剣を机に置いてのどをさすってくれる。アタックされただけあって触られると痛いが、さすられるのは気持ちがいい。しばらくこのままでもいいなと思っていたところに無粋な音が響き渡った。それも二つ。腹の虫が鳴いたのだった。 「この上腹も鳴るとは…」 「はは、私も鳴っちゃった。五ェ門、とりあえず夕飯にしようか」 「うむ…それが良いな」 私は自分のお腹を撫でて、五ェ門は私ののどをさすっている。夕飯は何にしよう。問えば、和食とだけ返されて、そりゃあもちろんと笑える幸せがここにあった。 ← |