昼日中、何やらガタガタと音がして目が覚める。玄関の方かららしい。まさか泥棒…それもこんな真っ昼間から!お天道様が許してもこの私が許さん!よぉし… 「ごえもんさん!」 「せっしゃをよんだか」 「耳を澄ませてごらんなさい…ほら、何やら聞こえるでしょう」 「ふむ、どれ…おお、たしかにがたがたと」 「ひっ捕らえましょう!」 「とうぞくがどろぼうをつかまえるとはこれいかにだが…まあよかろう。すけだちいたす」 抜き足差し足、そっと忍び足。玄関に向かう私はニンジャ。そうニンジャじゃ。 物陰から玄関を窺う。ガタガタと音を立てているものの正体、見たり。でも見なきゃ良かった。裸の大将(腰タオル装備)がいる。戸をガッタンガッタンやっている。何ぞこれ。 「なんなんだあやつは…」 「あの後ろ姿…何だか見たことあるような」 「どうする」 「声をかけてみましょうか。武器は持ってなさそうですし…いやまああのタオルの中に最大の武器があるってこりゃ失敬」 「しもねたか…」 私としたことがついうっかり口が滑ってしまったわい。これはお恥ずかしい。 「あのぉ…ゴエモン(仮)さん、何をしておいでですか」 「戸がね、開かないの!」 「それ鍵かかってます」 「ハッ!」 脇から手を伸ばし、玄関の鍵を開ける。何のための鍵か、戸が開かないようにするための鍵だ。そりゃ開かないに決まってる。おっちょこちょいか! 「そして服を着なさい!」 「ぶっ」 玄関にかけてあったコートを投げ付けてやった。これは失敗だった。裸にコートは、より変質者だ。 ということで、事情聴取。 あなたは(Who)そんな格好でなにを(What)いつから(When)ここで(Where)どうして(Why)しているんですか。それからどうやって(How)ここに(Where)入ったのですか。 「それは拙者が聞きたい。風呂に入っていたらいきなりここに…」 「ってことはまたですか…」 「またのようだな」 裸コートのこの男、よくよく見ると知った顔である…ような。このもみあげくるんは間違いない。私の椅子を一つお陀仏にした五ヱ門さんのものとそっくりだ。 でもどうも私のことを知らないようだし、他人の空似なのかもしれない。話してみれば話してみるほど、どうも違う人だぞと思える。話し方もごえもんさんに近い、一人称も異なる。 そもそもどうして(Why)こんなにゴエモンさんが現れるんだろう。 「お主は小人を飼っておるのか」 「あ、これはごえもんさんです」 「いかにも、ごえもんだ。おぬしもごえもんだろう」 「そうだが…これはまた面妖な」 「ごえもんさんこの状況に慣れてきましたね」 「ふほんいだがな」 「話が見えぬのだが…」 手の平の上に乗せたごえもんさんと会話する私に五ェ門さんが困った風に眉根を寄せる。こんな状況が何回か続いているので慣れたような気がしているが、実のところ、この不思議な現象については何も分かっていない。だから問われても教えられることがない。 「そうか…して、戻るにはどうすれば良い?」 「これも確かなことは言えないのですが…」 「ごえもん、こやつをこづいてみろ」 「それで戻れるのか」 「どうも私の意識がない間に皆さん…皆さん?ゴエモンさんは戻れているようなんです」 「小突くとはいえ気を失うほどに叩くことはできぬ」 「じゃあ明日の朝には帰れます、恐らく」 「そうか…それなら」 ほっとしたように息を吐いた五ェ門さんに、裸コートにしてしまったことを申し訳なく思った。ねんごろに謝ってまともな服を着せてあげた。五ェ門さんはやっぱり次の朝にはいなくなっていた。 ← |