「……ん…」 一段と強く吹いた風が山小屋を叩いて壁を震わせた。その音で浅い眠りから目が覚めた。パチパチとはぜる小さな火が寝起きのまなこにぼんやりと飛び込んで来て、色だけの暖かさを感じる。 「…五ェ門…?」 「む…起こしてしまったか」 「ううん、大丈夫」 むくりと起き上がって隣を見上げると、斬鉄剣を抱えた五ェ門が私を見ていた。 薪を一本投げ入れた所だったのだ、と燃える火に斬鉄剣の先を向けた。 「寒いね…」 「…外はかなり吹雪いてるようだからな」 敵に追われて迷い込んだ雪山でもう何年も使われていないように見える山小屋に転がり込んだのは陽が落ちかけている頃だった。とっぷりと暮れてしまってからは雪が舞い始め、今では吹雪になっていた。 吹雪く前に入ったルパンからの通信で、迎えは明日になりそうだから今夜はそこでガマンしてちょ、とのお達しがあって仕方がないのでここで一夜を過ごすことにした。 「五ェ門寒そうだよ…やっぱりこの毛布使っていいよ」 「何を申すか。一枚しかないのだ、お主が使え」 「でも、毛布あっても寒いんだよ。だから五ェ門はもっと…………あ」 「何だ」 「じゃあ……あのさ…その、ふ、二人で使う…っていうのは…どう、かな?」 「一枚を二人で…?どういうことだ」 「ほ、ほら!人肌って温かいって言うじゃない!凍えるのを避けるのに裸で抱き合うといい、みたいな…」 「なっ!たわけっ、服を脱ぐ気かお主!」 「ち、違う!そうじゃなくて、毛布に二人でくるまればいいってこと!」 「無理だ、そのようなこと…」 「もう!」 焦れったくて自分から飛び込んだ五ェ門の胸。うっ、と唸った五ェ門の声も無視して顔を埋める。じんわりと温かい。一人で毛布にくるまっているよりも確実に。 「…五ェ門の、甲斐性なし」 「お、お主…」 「毛布、掛けよう…ほら」 「よい、拙者はよいからお主が使え…」 「馬鹿言わないの!」 「ぬ、ぅ…近い!」 「近付いたんだから当たり前でしょうに…腕くらい回してよ、五ェ門」 「出来るわけなかろう!」 「もう…じゃあ、いい。私ここで寝るからね。おやすみっ!」 「止せ、ここで寝るな!」 「お、や、す、み!」 五ェ門の体温が高いのか、私の体温が高いのか、その両方なのか、いずれにせよとっても温かい。ここで五ェ門が抱き締めでもしてくれたらもっと良かったんだけど、それは仕方ないと諦めるかな。 頭の上に落とされた五ェ門の溜め息を感じながら、私はうとうとと目を閉じた。 ―――――― 思っていたのと違う形になってしまった。もっとぎゅうぎゅうさせるつもりだったのに…。 ← |