「ごえもんさーん、ごはんですよー」 「いまゆく」 ご飯、よし。みそ汁、よし。焼き魚、よし。卵焼き、よし。それから…おお、お新香か。ちゃっちゃかちゃっと机に並べて、あとはごえもんさんを待つだけ。 「またせた」 「待たされた」 「すまん。おお、よきにおい。いただこう」 「はい、どうぞ」 ごえもんさんの朝ご飯はこうだ。 茶碗、これは通常のサイズはごえもんさんには風呂レベルの大きさなので、お猪口で代用している。汁物の椀も同様。他は私と共用なのだが、魚のサイズは試行錯誤している。はじめはニボシだった。サイズ的には悪くなかったのだが、いかんせんニボシが固い。鮭をほぐしてみたり、ホッケを分けてみたりしたが、今は子持ちししゃもで落ち着いている。ししゃもでもやっぱりごえもんさんには大きいが、おいしそうに食べているので良しとする。 「ん!うまいぞなまえ」 「ありがとうございます」 ごえもんさんは小さいのにいい食べっぷりを見せてくれるので作った方としては嬉しい。だが、一つだけ問題がある。 「なまえ」 「はい…みそ汁、ですね」 「あじがうすいぞ」 「またかぁ」 どうしたわけか、みそ汁の味を整えるのが上手くなくていつも薄味になってしまうのだ。自分で飲む分には気にならなかったのだが、ごえもんさんという他者に指摘されるとどうもいけないような気になってくる。作る際には気を付けてはみるのだが、長年の感覚は容易に抜けるものではない。またつまらぬみそ汁を作ってしまった。 「うむ、だがひとによろこんでもらおうというきがいはつたわってくる。きおちすることはないぞ。こころをこめてつくっているのだな」 「何やら褒め上手。まさか持ち上げて落とす作戦!?」 「せっしゃ、せじはいわぬぞ」 「………」 「なまえ?」 ごえもんさんって変な所で、変だ。 「んもう〜たくあんが欲しいなら欲しいって言ってくれればいいんですよ〜はいどうぞ、二枚あげちゃいます」 「いや、せっしゃべつにそのようなつもりでは…」 「遠慮なんてしないでいいんですよ。ほら、これもどうですか」 「そんなにたべきれんぞ」 「あ、ごはんつぶついてますよ。ひょいぱく」 「おお、すまぬ」 ごえもんさんを埋め尽くすように自分の朝ごはんをあれもこれもと捧げていく。それくらい嬉しかったのだ。ほめられて嬉しくない人はそうそういないだろう。みそ汁の味は精進しなければならないが。 嬉しいついでに、ごえもんさんのほっぺについた米粒をとってひょいぱくした。 「………」 「ごえもんさん?」 「なにをするのだ!」 「おう、タイムラグ!?」 ひょいぱくがダメだったみたいだ。少しの沈黙のあと弾かれるように怒りだしたごえもんさんが剣代わりのつまようじに手をかけてお猪口を真っ二つにしてしまった。このお侍さん、意外と短気だ。 ← |