ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



「五ェ門?」



項垂れた背中を見かけたので、寄って顔を覗き込んだ。髪が邪魔して表情は窺い知れない。もう一度名前を呼ぶと、ぱっと顔が上がった。眉が八の字だ。



「〜〜っ!」

「おおっ、とと」



口はへの字、と思っていたら加減なしに勢いよく抱き着かれた。予期せぬ衝撃に身体がよろめくが何とか堪える。肩口に鼻がぶつかって、すすり上げる音がした。もしかして泣いている?五ェ門、と呼び掛けてもイヤイヤと頭を振るばかりで話を聞けない。どうやら泣いてはいないようだが、また何か落ち込む出来事があったのだろう。よくよくブルーになる侍だ。サムライブルー、ってか。



「よしよし、何があったのかな。話なら聞くよ」

「それより…」

「ん?」



腰に回された腕で多少苦しかったが、五ェ門の体温が妙に高くて温かくて、苦しさくらいなら平気だと思えた。甘えてくれてるのなら尚良し。いつもより多めに背中を叩いてあげようじゃないか。
ぽんぽんと叩くと、少し落ち着いたのか腕の力が緩んだ。身体がそろりと離れていく。切羽詰まったような声が耳を掠める。また八の字眉に出会った。



「お主の唇が欲しい」

「ほお珍しい」

「良いか…?」

「ほら。盗賊なら、盗っていきなよ十三代」

「…なるほど確かに。然らば、頂戴仕る」

「ん」



珍しく、探り求めるような口付けだった。唇を合わせるや否や割り込ませてきた舌に思わず逃げ腰になる。それもちょっとした力で押さえつけられてしまう。舌だけではなくその更に奥をずっと奥を目指すように無茶苦茶に押し付けられる唇に、異様さを感じて目を開けてみる。目の前の瞳は固く固く閉ざされていた。痛みに耐えているのかと思ってしまう程の閉ざしように、何だかおかしくなって笑いが込み上げてきてしまう。よっぽどのことがあったんだな。というと、やはり…。
さすがに苦しくなってきたのでギブギブの意を示すと、ハッとした様子で慌てて唇が離れていった。肺活量の差でどうしても五ェ門に追い付けないのを、こんな時に悔しく思う。



「ふう…どうしたの、斬鉄剣でも折れちゃった?」

「ウッ…」

「んん?」

「うぅぅ、そうなのだ、拙者の、拙者の斬鉄剣が…」

「やっぱり」

「拙者の力不足だ…斬鉄剣にどのような顔をすれば良いのか分からぬ…すまん、斬鉄剣よ…」

「それじゃ、斬鉄剣を直す準備をしよう。ほらほら、元気を出して!」

「そうだな、すぐにでも取り掛かろう…ぐすっ」



あれ、ちょっと涙目。鼻をすする仕草にまた笑いが込み上げてくる。堪え切れずにふふと溢すと、五ェ門が目を丸くする。怒るかなと思っても止められない笑いを溢し続けると、やっぱりちょっとだけ口を尖らせる五ェ門。けれど、その目にはもう明るさが差している。そうそう、その方がいいよ。でもまた落ち込んだ時には、私が止まり木になって差し上げましょうか。



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