「さて、ごえもんさん」 「くだらぬことならしょうちせんぞ」 「ま、まだ何も言っていないのに…ひどい…」 先制攻撃がお得意な様子のお侍殿だが、一応は話を聞いてくれるらしく「はやくはなせ」と先を促された。万が一聞いてくれなかったとしても寝てる間にでもそっと被せてしまおうと用意していたブツを取り出す。 そうかい、そうかい。君はそういう態度なのかい。それならせっかくのこれももしかしたらいらないかもなあ。などと勿体つけてヒラヒラさせると、それが何かすぐに察したようで、パッと目を輝かせて大声を上げる。 「かぶとか!」 「よくぞお分かりになりました、さすがは殿!」 「とのではないがかぶとくらいわかる。なまえがつくったのか」 「フッフッフッ…こう見えても手先は器用でしてね…」 「みせよ!」 ぴょんぴょんと小さく跳ねながら手を伸ばしてくる様が、小動物のようでいじらしく思わず意地悪してしまいたくなるが、すると愛刀のつまようじで刺されるなどの痛い目を見ることになるので素直に渡しておいた。 「おお、なかなかのつくりこみ。ほんとうにおぬしがつくったのか?」 「疑り深いですねえ、紛れもなく私作ですよ」 「ひとはみかけによらぬとはこのことだな」 「割と失礼」 ごえもんさんのことだからきっとこういうものが好きだろうと思っていたが、ビンゴだったようだ。シメシメ。 「ちゃんとかぶれるように作ったんですよ、ほら」 「ぴったりではないか」 兜というならやはり頭にかぶらなくてはなるまい。そこはもちろん抜かりなくかぶれるように折ったので、口を広げてごえもんさんの頭に乗せれば勇ましい武士の出来上がりだ。元々の格好が着物に袴なので、ごえもんさんの言うようにサイズだけでなく見た目のしっくり感も本当にぴったり。 目の前に手鏡を置いてあげると、そこに映り込む自分の勇姿をしげしげと眺めてはポーズを取っている。 「見てください、こいのぼりもあるんですよ」 「おお、おお、やるではないか。おぬしのことをすこしみなおしたぞ」 「やった〜ごえもんさんに褒められた!これまでどれだけ低評価だったのかは気にしないぞ〜」 「かんちがいするな、すこしだけだぞ」 「非常に辛辣」 このお侍、基本的に遠慮というものをしないのである。 「辛口には甘いもので対抗します。柏餅、一緒にどうですか」 「よいだろう、もってまいれ」 「はーい、喜んで。あ、そうだ。今夜のお風呂は菖蒲湯にしましょうね」 「いたれりつくせりではないか!」 珍しくホクホクした感じで喜ぶごえもんさんを見るとあれこれ作った甲斐があるというものだ。 五月五日はこどもの日。ではあるが、ごえもんさんごの字は恐らく数字の五だと思うので、私にとってはごえもんさんの日なのである。 ← |